国王アルースト、ミナの提案をおもしろがる
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。王弟レオストは王都にミナを呼び、街道の問題を解決してもらおうとした。ミナは通行税をやめるという大胆な策を出した。そして、王の裁可を求めようとしていた、会議は始まる……。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
そして、アルーストはまた正面に目を戻す。
「で、今日は何の議題だ」
レオストが再び立ち上がって発言する。
「陛下、かねてより懸念となっております街道整備の件にございます」
国王は眉をわずかに上げた。
「街道か」
「はい。軍の機動にも関わる問題でございます」
国王は軽く頷いた。
「財務庁からはなかなか予算が出ないという件であったな。カルドゥス、どうなっておるのか」
財務庁長官カルドゥスが立ち上がる。
「重々検討いたしましたが、予算は厳しゅうございます。今用意できる予算は、金貨3000枚。これが年間の最大予算でございます。これ以上は無理かと」
レオストは正面のカルドゥスをにらみながら言う。
「カルドゥス、前よりも多くなっている。その努力は認めよう。しかし、全領地に対し、たったの3000枚。それではまったく足りぬ。それは通行税のほんの一部であろう」
カルドゥスは何も言わず、頭を下げ、そして座った。
レオストは右手にいる国王に向きかえり、しっかりとした口調で言った。
「陛下、本日は一つ案を持って参りました」
「ほう」
「ブリア侯行政顧問ミナの案にございます」
と、軽く後ろのミナを振り返る。
アルーストは予測していた通りという顔で、にやりとしながら何度か頷いた。
ざわりと空気が動いた。
「申してみるがよい」
「はっ」
レオストは立ったまま、ミナの案を述べる。
「これは、街道商会の案でございます。まず、通行税を取りやめます」
官僚たちが顔を上げる。
「な、なんですと?」
カルドゥスが驚愕する。
「こ、これはなにかの聞き間違いかと…」
とレオストの言い間違いであることを指摘する。
「いえ。今述べた通り、通行税をやめるのです」
レオストは平然として言う。
「ほう…。それはまたおもしろいことを言う。予算がないと言いながら、通行税をやめる?」
アル―ストは面白がっている。
「で、どうするのだ?」
レオストを見て、続きを促す。
「は。陛下。通行税にするから、税として財務庁に入り、そして、何のために集めた金かわからなくなるのでございます。ですから、これを通行料として、街道の整備のために作った商会が受け取るのでございます」
「ほう…!!」
アル―ストは目が覚めたように目を見開き、背筋を伸ばした。
「なんとおもしろい。詳しく説明いたせ」
「この街道商会は、出資する者たちを集めて作ります。そして、この商会は国から道路を借り受け、その運用と整備を担当いたします。
最初に集めた資金でまず整備し、それを利用する者から通行料を取り、商会の利益といたします。
そして、その利益を積み上げながら、次々と道路の整備をしていき、利益を増やしていくのでございます」
レオストは自分が理解したとおりに、一気に説明した。そして、後ろのミナを見て、正しいかと目で問う。ミナは頷いた。
「いやはや…」
重鎮の官僚たちはため息をつく。
「そのような案は無理では…」
バカにしたいのだが、レオストが発表しているので、はっきりと言えないのだ。
「国が金を出さずに進めるということだな」
アル―ストが確認した。
「はい。そのとおりでございます。あくまでも商人たちが出資した金で始めます」
「ふむ…。その出資者は商人でなければならぬのか?」
アル―ストのその質問に、レオストはすぐに答えられない。そこで、ミナを見た。
ミナは首を横に振る。この場で話す許可がないからだ。それは「商人でなくてもよい」という答えだ。
「ミナ、よい。そなたが発言するのを許す」
アル―ストはミナを見て、許可を出す。
「はい。畏れながら申し上げます。出資は商人でなくても構いません。貴族の方でも結構でございます。
むしろ、高位の貴族の方に出資いただければ、これは良い抑止力となるでしょう」
「ふむ。なんの抑止力だ?」
「はい。…それは、通行料を払わないような輩に対する抑止力でございます。通行税と異なり、通行料には払わなかった場合の法的な罰則がございません。
ですから、踏み倒す者が出る危険性がございます。
しかし、出資者の中に高位の貴族の名があれば、踏み倒す危険性が少なくなると思われるからでございます」
「なるほど…」
アル―ストは、ミナの言葉の裏に隠された意味を理解して、フフッと笑った。
要するに、ミナが言いたいのは、「商会などに通行料を払えるか」という傲慢な貴族が、踏み倒す可能性だ。だから、王族級の出資者がいれば、貴族といえども踏み倒せない、と言いたいのである。
「やはりそなたは賢いな」
アル―ストはミナを見てにやりと笑った。
「は、恐れ入ります」
意味が伝わったと思い、ミナはほっとした。さすがに王族は察しがいい。それだけ視野が広いのだ。
ここに集まっている重鎮の官僚たちはみな貴族だ。公爵級の大貴族もいるだろう。
こんなに不満を持っていれば、踏み倒すこともやりかねない。
それを見越して、「出資者の中に大貴族の名があれば」とミナは言ったのである。
つまり、「あなた方は払わせる側ですよ。踏み倒す側ではありませんよ」という意味であり、「高位の貴族の方」の意味は王族だ。「王族が出資していれば、あなた方も払う側に回るでしょ」と言いたいのだ。
「いや、しかし…」
官僚たちがザワザワする。
「商会が公共の財産を自分の利益のために整備するなど、可能でしょうか?」
「そうですぞ。彼らは自分たちの都合の良いようにしか動きませぬ」
「商人たちに街道を奪われれば、防衛のための道路とはなりますまい。これでは本末転倒」
ミナに鋭い視線が向かう。
レオストのときには言えなかった反論が、ミナには言える。
商務庁長官と財務庁長官は腕組みをして、下を向いて考え中だ。
レオストの後ろに立ったまま、ミナはゆっくりと説明を始めた。
「商人は、道路が整備されれば、とても利益が得られるのでございます。
でこぼこの道を荷馬車が通れば、その分荷馬車は大きく揺れ、積んでいる商品、特に野菜は傷みます。それは、廃棄率が高くなるということでございます。
また、道路が整備されれば馬車の速度は速くでき、それは商人の宿泊費や人夫の費用を節約します。これらは商人に大きな利益をもたらします。
このように、道路の整備を望んでいるのは、日々道路を使う商人自身なのでございます。商人が満足するほどに道路が良い状態に保たれれば、当然、軍の移動にも最高の状態となるでしょう」
レオストはその言葉に満足し、大きく頷く。
「いや、しかし…」
それでも官僚たちは納得しない。通行税という財源が消えるのは許しがたいのだ。
会議室にはざわざわとした声があふれた。
このような会議では、はっきり言うと失礼になるようなことは、別の言い方で察してもらいます。
これが腹芸。
言葉の裏を読むというのが交渉術。
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア行政顧問。カイルの恋人
レオスト … 王弟で、かつて前ブリア領主と結託して王太子暗殺未遂事件を起こした
アルースト … 国王。レオストの兄




