王都での冷ややかな歓迎……。ミナは黙っていません
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。王弟レオストはミナの行政手腕を見て、王都での問題を解決してもらおうとミナを王都に招聘した。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
第112話 ミナ、報復の皮肉
翌日、ミナは王城の会議棟に呼ばれた。大きな石造りの建物で、内部には長い廊下がいくつも走っている。文官たちが書類や書字版を抱え、忙しそうに廊下を行き来していた。
ルーシャに案内されなければ迷子になりそうだ。
その一室に通される。待合室のようだ。そこでしばらく待っていた。
「王弟殿下がお越しになります」
その声とほぼ同時にレオストは入ってきた。
「ミナ、行くぞ」
レオストはクイと人差し指でミナを促す。
「は、はい。かしこまりました」
ミナは慌てて立ち上がり、レオストについていく。
向かったのは大会議室であった。扉が開くと、長い机を囲んで十数人の男たちが座っていた。そこにいたのは、商務庁、財務庁の官僚数名と、各領地の王都駐在員たちであった。
そして、従者や護衛騎士たちがそれぞれの位置に立っている。
ミナについてきたルーシャも壁際で待機した。
机の正面にレオストが座った。
「皆、集まっているようだな」
レオストが言う。ミナはそのそばに立つ。
「今日はブリアから来た客人の話を聞いてもらう」
視線が一斉にミナへ向く。
「ブリア侯行政顧問のミナだ。財務庁の者は知っている者もおるな」
ざわりと空気が動いた。
「ミナ・クロエでございます。よろしくお願いいたします」
誰も返事をしない。
レオストは、侍従を一人呼んで、椅子をひとつ持ってこさせ、レオストの隣に置かせた。
そして、ミナにそこに座るように言った。
(えっ、ここに座るの?)
それは本来、レオストの妻のような同等の存在が座る席である。しかし、レオストの命なので、恐る恐る座った。
「ブリア侯行政顧問……?」
「噂の女か。国家銀行の案を出して、バンリオルを救ったという、あの……」
「いや、その前には自由港を作ろうと王に進言したという…」
「なぜ王族の庇護を受けているのか? 解せぬ…」
「平民のはず。本来、末席に座るべきでは…」
小声がいくつも聞こえ、ざわざわとざわめき始めた。
レオストが軽く手を上げる。すると、スッと静まった。
「では、ミナ、まずは農民支援制度について話してくれ」
ミナは頷いた。
「かしこまりました。では、ブリア領で行っております農民支援制度についてお話しいたします。
そもそもの発端となったのは、農民たちが徒歩で2時間も歩いて、毎日のように、市場に野菜を売りに行くということを知ったからでございます。往復で4時間はただ歩いているだけです。これは仕事の効率として、とてももったいないと思いました。
しかも、市場には屋根がないため、雨が降れば予定通りに野菜を売ることができません。売れ残った葉物の野菜は捨てざるを得ません。
これらのことを見て、この無駄をなんとかできないかと考えました」
ミナはいったん話を止めて真横のレオストを見る。このようなストーリー的な話で良いのか、それても淡々と作業だけを述べた方がいいのかわからなかった。
レオストはその視線を感じて、「そのまま続けよ」と言った。
再び、前を向き、ミナは続けた。
「そこで、村で野菜をまとめて、村の馬車で運ぶことを考えたのでございます。農民は直接売らず、商会がまとめて買い取ります。
すると、農民は利益が半分になりますが、その分、1日歩くだけで4時間、市場で売る時間が6時間、つまり、計10時間分の仕事から解放されます。
逆に言えば、これは村全体の労働力が増えたということになります」
聴衆は真剣に聞くつもりがないようで、下を向いていたり、窓を向いていたりと、それぞれに時間をつぶしているようだった。
「わたくしは農民の効率性を高める目的で始めたのですが、それをご覧になったブリア領主が、まったく別のことにお気づきになりました。
それは、今まで課税できなかった野菜に、課税ができるという点でございました」
すると、聴衆が少し聞く耳を持ったようで、ミナのほうを向き始めた。
「個人同士のやり取りでは記録がないために、課税ができません。しかし、村役場が帳簿をつけて買い取り、商会に売ります。商会の取引となれば、そこに税が掛けられます。
そのため、ブリア領主はこれを領地全体に広げるようにとご指示なさったのでございます。こうして、わたくしが細々と始めた事業が、今では領地の事業となっております」
ミナはそこで話を止めた。そして、レオストを見る。
彼は頷いて。言葉を引き取った。
「誰か、聞きたいことがある者は?」
しばらく皆黙っている。
レオストはじろりと皆をにらみつけた。
すると、一人の男が手を上げた。
「で、どれくらい税収が増えたのですかな?」
それはミナが一番答えたくない質問だ。
「この事業は、今年の3月から始まったばかりでございますので、まだ数字は出ておりません。試算では、領地全体の税収の3割ほど増える予定となっております」
「実質的な利益はまだ出ていないと…。となると、この制度を作るのに、かなりの手間がかかっておりますな。つまり、経費がまだまだ上回っていると…」
「はい。おっしゃる通りでございます。ですが、経費はかなり抑えることができております。臨時雇いというやり方で、農民を雇っているのでございます」
つまり、パートタイマーや臨時職員だ。
「なんですかな? それは」
「つまり、正規の職員として雇うのではなく、仕事があるときにだけ就労するという仕組みでございます。
この度の、ブリア領全域の農民を全部登録するのは大変な作業でございましたが、退職した役人などに一時的に働いてもらうということで対応いたしました。
また、野菜の選別をする検査官には、朝だけ、あるいは夕方だけ、働きに来る農民にお願いしています」
聴衆はまた黙ってしまった。自分たちの理解が及ばないところになると、頭が止まるようである。
レオストが代わりにミナに尋ねる。
「つまり君は、労働力を柔軟に増やしている、ということだな?」
「はい、殿下。そのとおりにございます」
ミナはニッコリした。さすが殿下、わかっていらっしゃるのだ。
でも、目の前の聴衆たちは、なぜこのことがわからないのだろう? まるで、新しいことを耳が拒否しているようだ。
労働力が増えることは、人口が増えるに等しい。それは国力が上がるということなのだ。なのに、なぜ無関心なのだろう?
「まあ、とりあえずお話は聞きました。ブリアではそのようなやり方で税収減をなんとかしようと、涙ぐましい努力をしているということですな。ブリアは今、金がなくて大変だということですから…。いや、失礼を…」
ブリアを見下したような言い方をする男がいる。
(そうか。ブリアはもともと割譲されようとしていた土地。この人たちは割譲案に賛成していたんだわ。だから、お荷物の領地のブリアのマネなんかできるか、というプライドなのね)
ミナは冷ややかな態度の理由を理解した。
割譲案に反対していたレオストにとっても、彼らはかつての反対陣営なのだ。
「レオスト様は王都での力が弱い」と言っていたアンドリオンの言葉を思い出す。
「まあ、こんな若い平民の女を行政顧問にするということは、確かにお金がないように見えますな」
と別の男もワハハと笑いながら言った。すると、全員がムフフと声を押さえて笑い出す。
(なるほど…。そう来たか)
ミナは微笑みながら言った。
「はい。わたくしはブリア領主様にはとてもよくしていただいておりますが、まだまだ若輩者。ですから、わたくしにかかる経費は少ないと思いますわ」
と「オホホ」と応じた。
「つまりは、ブリア領主はとても賢い方なのだと思います。経費は少なく、利益は最大限に、と常に考えておいでなのでございます。領主でありながら、商人のような柔軟性もお持ちでございます。…ウフ」
と、最後に笑っておいた。
ベテラン官僚ばかりの会議室で、ミナは大人しくはしておりません……。
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア行政顧問。カイルの恋人
レオスト … 王弟で、かつて前ブリア領主と結託して王太子暗殺未遂事件を起こした
ルーシャ … レオストの侍女
バンリオル … 大商会で、先日取り付け騒ぎを起こした
ブリア … ミナの働く領地
アンドリオン … 現ブリア領主




