レオスト、自らミナに王城を案内する
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。視察に来たコブルー開発部長の王弟レオストは、ブリアのさまざまな施策がすべてミナの案だということに驚く。そこで、ミナを王都の問題を解決させようと王都に呼んだ。だが、ミナはその意図がまだよくわからなかった……。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
「ふむ…。君はまだ気づいておらぬのかもしれぬ」
レオストは、すぐには多くを語らない。
しばらくゆっくりしたのち、レオストは立ち上がった。
「今日はまず、城を案内しよう」
「はい」
ミナはまだ、レオストが自分を呼んだ意図がわからない。なぜ王弟の身で自ら王城を案内するのかもわからなかった。自分はただの地方官吏だ。王弟が自ら王城を案内するほどの身分ではなかった。
それは2人の侍女も思っていることで、ふたりとも渋い顔で歩いていた。ミナをレオストが特別扱いする意味をいろいろと考えていたのだろう。
ふたりは外の石畳の道を歩き始めた。ビオンダは銀月宮の中にとどまったので、侍女はルーシャだけがついてくる。そしてレオストの護衛2人もついてくる。
城内にはたくさんの建物が並んでいる。
(私が行っていた大学の構内みたい…)
城の中庭には兵士が行き交い、書記官らしい者たちが巻物を抱えて急ぎ足で通り過ぎていく。同じ道を通る者は、王弟だと気づくと立ち止まり、お辞儀したまま道を開ける。
遠くでは騎士たちが訓練をしていた。槍の音が乾いた空気に響く。
王城の中にも門があり、検問がある。王弟と見ると衛兵は下がり、敬礼をして道を開ける。それを超えて、つぎの区域に向かう。
「このあたりは王城の外郭だ」
レオストが説明する。
「軍務庁、財務庁、法務庁、商務庁の庁舎が集まっている」
ミナは周囲を見回した。
石造りの建物が1棟1棟、離れて並ぶ。その間はアーチになった回廊でつながれている。雨の日もぬれずに移動できる。
入り口は教会によくみられる大きな扉となっており、どこも人の出入りが激しい。官僚だけでなく、ロビー活動をする者たちも出入りしているのだろう。
(りっぱな一国の庁舎だわ)
ブリアの役所とは格が違う。
「王都の役所は大きいであろう?」
歩きながらレオストが言う。
「はい。驚きました」
「ブリアはどうだ?」
「はい、ブリアの執務棟はこんなに大きくございません。この3分の1くらいの大きさの建物3棟でございます。わたくしが行くのは2棟のみでございます」
「そうであろうな。その違いはわかるか?」
「大きさ…以外でございますか?」
レオストは横を向いて、ミナの顔を見た。
「つまり、ここにはそれだけ多くの人がいるということなのだ」
ミナはレオストが何を言いたいのか、だんだんわかってきた。
「つまり…殿下がおっしゃりたいのは、実務の効率のことでございますね?」
「そういうことだ」
なるほど、とミナは思った。実際に歩いて、大きさを感じ取って、この大きさの省庁が動くのにどれだけの時間がかかるのかを感じてほしかったのだろう。
それは、距離のことではなく、人の流れの抵抗なのだ。
「君は今まで、ブリアの行政顧問としてどれだけの施策をした?」
「はい、まずは農民支援制度、そして、自由港づくり。そこでは新しい標準箱の導入、宿の入札、それから特典付き優先権の導入…。最近動かしておりますのは、仕事案内所と郵便制度でございます」
「それはどれくらいの期間でしたことなのだ?」
「ええと…、1年半? まだたったの…? ……1年半でございます」
自分でも驚いた。
まだ行政顧問になって、1年半しか経っていない。その前には労役の改革を少し行ったが、それは行政顧問としてではない。
そして、まだ案だけの貯水池計画が待っている。
「それが、どれほど驚くべきことか、わかるか?」
「……今まで、あまり考えたことがございませんでした…」
ミナは首を傾げた。
ふたりは元の中央部へと戻っていく。長い回廊を抜けると、その先には広い庭園があった。中央には大きな噴水。円形の回廊がそれを取り巻くように続く。
その庭園の先には、いくつかの塔を持つ瀟洒な白い宮殿がその奥に建っている。
「ここが王宮だ」
レオストが言う。
「国王陛下が住まわれる場所でもある」
ミナは思わず立ち止まった。塔のてっぺんがキラキラしてまぶしい。
「塔の先が皆、光っているように見えますが…」
「ああ、塔のてっぺんには大きな水晶がはめ込まれているのだ。元は魔除けだ。しかし、その反射で民は時間を計る。もちろん、時の鐘も鳴るがな」
なるほど、とミナは思った。
(本当に、別世界だわ……)
ブリアの城は実務の場所だった。だがここは、権威の象徴だ。圧倒的な威風に感嘆しながらボーッと眺めていた。
レオストはその様子を見て笑った。
「驚いたか?」
「はい。こんな大きな城は初めて見ました」
「この城は300年かけて増築された」
レオストは遠くの塔を指す。
「あの塔が最も古い」
「この庭園は……?」
5月の花々が咲き乱れる美しい庭。大輪のバラやラナンキュラスに似た花に、小花をつけるカスミソウのような花などが立体的に組み合わされ、園芸の設計が見事だ。
「百年前の王が命じて作らせたものだ。…最初はこのような庭や演習場があったという。しかし、だんだんと建物で埋め尽くされたのだ」
「発展したということですね?」
レオストが笑った。
「そうとも言えるな」
そして少し声を落とす。
「だが、この国はそれを喜べぬのだ」
ミナはレオストを見た。その意味がまだよくわからなかった。
レオストは王宮の近くに立つ建物を指した。
「あそこが会議棟だ。明日、あそこで君の話を聞かせてもらいたい」
「は? なんの話をでございましょう?」
「君が今している仕事の内容を言えばよい。ブリアで成功したならば、他の領地でも導入したくなるであろう?」
「それはもちろんでございますね」
そういうと、レオストはフフと寂しげな笑い方をした。
「君にはわかるまい。私がどれだけ、アンドリオンをうらやんでおるか…」
ミナはまた、首を傾げる。他の領地で導入できるなら、ブリアはある意味実験場なのである。それをうらやましがる?
ミナはそのときはまだ知らなかった。自分がどれだけ貴重なものを手にしていたかを。
それを、翌日思い知ることになるのである。
さて、王城でのミナの最初の驚きは?
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア行政顧問。カイルの恋人
レオスト … 王弟で、かつて前ブリア領主と結託して王太子暗殺未遂事件を起こした
ビオンダ … レオストの侍女頭
ブリア … ミナの働く領地
アンドリオン … 現ブリア領主




