ミナ、レオストの依頼で王都に行く
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。視察に来たコブルー開発部長の王弟レオストは、ブリアのさまざまな施策がすべてミナの案だということに驚く。そこで、ミナを王都の問題を解決させようと、ミナを王都に呼ぶ。アンドリオンはそれが心配でならなかった。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
レンダならぬカイルと、船長オルデンならぬジオルダンは荷を積み替えると、そのまま西バッフマを出て帰っていく。
舷側に寄り掛かり、5月の温かい潮風を受けながら、二人で遠ざかるバッフマ湾を眺めていた。
「なかなかいい作戦だったな」
とカイルが褒める。
「ああ。相手がいつ出るかを待ってるのはバカだ。罠をしかけて、こっちの都合の良い風の吹く時期に、あっちから動いてもらうのさ。そしたら、経費節減できるってわけよ」
王族の船など動かしもしなかった。元ドーハイの仲間にたんまりと金をばらまいただけだ。コブルーから軍船をわざわざ呼ぶよりも、そのほうがはるかに安上がりだからだ。
元ドーハイの船乗りたちは、モーガダイに一泡吹かせられると聞いて、こぞって参加した。
「作戦考えたのは、アルソーだろ?」
「ああ。そうだ。あいつは頭がいい」
「最後の『マカリ島』はよかったな。その名を出せばモーガダイは怒り狂うんだな。ザイトンなんて傭兵団、俺は知らん」
「ふふん。海のことなら任しとけ。…でもよ。おめえの演技も大したもんだぜ」
「ああ。バンリオルではかなり鍛えられるんだ。役者並みにな」
クスッと笑った。無口だったころとはかなり性格が変わった気がする。今や芝居もすれば、ダンスもする。詐欺師もやれば、番頭もやる。
かつて王太子暗殺を依頼され、しかも失敗することが決められていた。そのとき自分はもう死んだと思ったが、ある意味、古い自分が死んだのだ。今や新しい自分が生まれていた。
「ところでよ…」
ジオルダンが海を見ながら話題を変えた。
「おめえ、あのねえちゃんと結婚すんだろ?」
「ん? ミナか?」
「そう、ミナさんだ。俺が『ねえちゃん』って呼んでも、ニコニコしてくれるんだよ」
ジオルダンは頭をかいて、照れたように笑った。
「ああ。ミナはそういうこと、気にしない」
カイルはフフッと笑った。ミナらしいと思った。
「ちっ。俺も婿の候補に入れとけって言ったのに、俺に断りもなくよう…」
「悪いな。俺はずっと前から決めてたから」
「ま、しかたねえな…」
「酒、つきあってやるよ」
「ぐっ、ライバルに慰められるってのはプライドが傷つくわい…」
それから数日間、カイルはジオルダンの恨み言を聞くことになるのであった。
第111話 レオストの苦悩
ミナの侍女頭のフリーゼは、荷物の用意に追われていた。1か月の旅のためにたくさんの衣装を衣装箱に詰め込む。ミナが5月になっても来ないので、レオストからの催促が来てしまったのだ。
アンドリオンは青ざめて、ブリアの仕事はいいからさっさと行けと言いだした。王族を怒らせるのは本当に怖いらしい。
コブルーのほうはセグリオとバラントンに任せておけばよいし、農民支援制度と優先権事業はイソールズとエカーリアに任せておけばよかった。
ミナとしては職安と郵便事業の詳細を官僚たちに教え、それがミナなしでも進むようにしなければならなかった。
(あとは…。貯水池の件は設計図がまだだし…。他には…)
そんなことをしていると、気が付いたら5月4日になっていた。4月にはブリアを出られなかったのだ。
カイルに会いたかったが、4月には3回会っただけだ。今、彼はどこにいるのかわからない。
ミナはブリア領主の馬車を借りて、ひとりで王都に行く。もちろん、フリーゼやゾーイはいるが、実質ひとりで行くのだ。それは初めてのことだった。
アンドリオンに出発の挨拶に行くと、彼は暗い顔をしてハグすると、「必ず帰ってくるのだぞ」と念押しした。
「もちろん、1か月後には帰ってまいります」
と笑顔で言った。
最短で3日間で王都に着くが、道がガタガタなのであまりに速く飛ばすと馬車の揺れがひどくなり、身体がきつい。40代のフリーゼもいるので、ゆっくりと4日の行程で行くことにした。バンリオルの特別仕様の馬車とは違うのだ。
今回の旅の目的は王族に会うことだ。しかも、バンリオルやセグリオのような仲介役はいない。それはかなり緊張する。
ミナはエカーリアの家庭教師になったとき、逆にかなり貴族のマナーを学ぶことができた。貴族の女性の言葉遣い、しぐさなどだ。フィルベラも園遊会でのふるまい方など、ミナに貴族同士の付き合い方を教えてくれた。
しかし、相手が王族となると、まだまだマナーには不安がある。
それで、馬車の中で、フリーゼにいろいろなマナーを聞いておいた。彼女は元々カリディオン付きの侍女であったため、マナーについては詳しい。それはミナにとって良い情報となった。
* * *
王都に着いたのは5月9日のことだった。
王都フリストルの街に入る城壁の検問を抜けて、いくつかのロータリーを通り、中央大通りを進む。王都を訪れるのは3回目だ。王城は相変わらず巨大で、遠くからでもその姿が見えた。
城の中央にあるヒデラ門の前には衛兵が並び、旗が風にはためいている。土色の城壁に囲まれた広大な敷地の中に、塔と宮殿がいくつも並んでいる。
いつもはバンリオルかセグリオに連れてきてもらっており、自分は馬車の中にいたので、あまり全体像を把握していなかった。王城内は城というより、一つの町のようだった。
建物は数えきれないほどあり、官庁舎もあるが、宮殿と呼べる豪華な建物も少なくないのだ。
ブリアの城とは比べものにならない。
まずは衛兵に案内されたコラル宮に向かう。これは地方貴族たちが宿泊する宮殿で、高級な宿のようなものだ。平民のミナがここに宿を与えられるのは、破格の待遇だ。
フリーゼとゾーイは荷物を下ろし、ここで少し休憩して、身支度を整えてから、宮殿内の移動専用の二人乗りのバギーに乗り、レオストの住む銀月宮に向かった。
衛兵が先ぶれに行く。
馬車を降りて銀月宮の階段を上がると、扉の前に侍女が2人立っている。
「ミナ様、お待ちしておりました。わたくしはレオスト様の侍女頭、ビオンダ。こちらは王城内でミナ様のお世話をさせていただくルーシャでございます」
そう言って、ふたりでお辞儀をした。
「ビオンダにルーシャですね。ミナです。よろしくお願いしますね」
ふたりとも表情が硬い。もしかすると、このふたりはミナよりも身分が高いのかもしれないという気もした。王族の侍女になるのは、下級貴族の次女、三女などの娘たちが多いからだ。
宮殿内に案内され、三階に上がっていく。
「こちらでございます」
ビオンダが手で案内すると、衛兵が扉を開けた。
「ミナ様、お着きでございます」
侍女二人が並んで、レオストの前でお辞儀をした。
「ミナか! よく来たな。待っておったぞ」
レオストは執務机から立ち上がり、ミナのほうに歩いてくる。
侍女二人はその様子に少し驚いたようだった。
レオストは、正式な王族の装いをしている。濃紺の上着に銀糸の刺繍が走り、肩には王家の紋章がついている。
ミナはドレスの端を持ち上げて、お辞儀をする。
「王弟殿下。お招きいただき、光栄でございます。遅くなりまして、申し訳ございません」
レオストは軽く笑う。
「まあ良い。どうせアンドリオンが手放したがらなかったのであろう。それでも君を王都によこしたことは褒めておこう。まあ、座るがよい」
ミナは応接セットのソファを勧められ、そこに座った。
侍女たちは壁に並び、護衛騎士たちも扉付近に2人ほど立っている。ほどなくして、お茶が運ばれてくる。
「まあ、疲れたであろう。お茶でも飲んで、話を聞いてほしい…」
そう言って、レオストはしばらく黙っていた。その間に、ミナはお茶を飲む。
「君はブリアでいろいろな改革をしているが、そのことをどう思う?」
「はい? どう思う…とおっしゃいますと?」
「もちろん、良い案だと思って、推進しているのであろう。そこに障害はないか?」
「障害…とおっしゃいますと…? もちろんわたくしの力が足りず、ときどき失敗いたしますが…」
首を傾げた。レオストが何を聞きたいのか、わからなかった。
いったいレオストはミナに王都で何をさせようとしているのか……?
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用語集
ミナ … 主人公。ブリア行政顧問。カイルの恋人
レンダ … バンリオルの番頭。実は私兵カイル
オルデン … バンリオルの船長。実はトガリア商会のジオルダン
ドーハイ … かつてモーガダイが滅ぼした国
モーガダイ … ワモワ海の国。ドーハイを滅ぼした
アルソー … トガリア商会の参謀
マカリ島 … ワモワ海の補給地
レオスト … 王弟。王太子暗殺未遂の処分でで力が弱い
アンドリオン … ブリア領主
コブルー … ブリア領の港で自由港としてミナが開発中
セグリオとバラントン … コブルー担当の官僚
イソールズとエカーリア … ブリア内政担当の官僚と領主の娘
ゾーイ … ミナの護衛騎士
フィルベラ … ブリア侯爵夫人
カリディオン … 前ブリア領主




