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第14話 初めての定期便

異世界に来てしまったミナ。MBAのキャリアはパーに。

それでも、この世界で自分が求められていることがあるはず、と信じて、ミナは起業する。

それは野菜の一括買い取りだった。

第一便が出発するその日…。


ミナ … 主人公。

カイル … 冒険者でミナを助けた。

レイ … カイルの弟。

 冬の2か月が過ぎ、肌寒い春となった。

 3月に入って最初の野菜の定期便が出る。


 レイはこの一か月で、役場の荷馬車を何度か操り、御者の自信が付いたようだ。


「レイ、荷馬車の確認をしてね。車輪がずれていないかとか、ねじが緩んでないかとか、ホロが破れていないかとか。途中で動けなくなったら大変だからね」

 ミナがレイに声をかける。


「お、おう。わかった」


 次の朝8時前に、荷馬車に木箱を積んでいく。1頭でも運べる量だが、練習を兼ねて、2頭立ての荷馬車だ。レイと役場の男性職員と、カイルも手伝ってくれた。


「よし、出発だ!」

 ミナはレイの隣に乗り込む。まだ寒いので、二人とも防寒用のマントを着ている。


「うん! レイ、よろしくね」

「おう、まかせとけ!」

「気を付けろよ」


 カイルが見送る。彼もこのあと狩りに行くのだ。


 レイが鞭を当てると、荷馬車がゴロゴロと音を立てて動き出した。


……無事にタンブリーの街にたどり着けるのか、まだ保証はなかった。


「う~ん、ドキドキするね」

「そうか?」


 ミナはドキドキして仕方がないのだが、レイは気楽に荷馬車を動かしている。


「ちゃんと無事につけばいいけど…」

「ま、この時間なら、動物や魔物も出ないし、他の村人とも会わないよ」


「やっぱり、この道にも動物や魔物が出るの?」

「たまに、だけどね。出るとしてもだいたい早朝なんだ。まだ薄暗い5時とか6時とか。もう8時だから、たぶん出ない」


「そっか」


 たまにしか出ない危険な敵のために、こちらはずっと自由が制限されている。とんでもないことだとミナは思った。



 しばらく行くと、木陰に朝日を受けて光るものがある。


「レイ…。あそこ、何か光ってる。金属みたい。剣かな?」

「え? あ、ほんとだ」


 レイは目を凝らして光るものを見た。木陰に人影があるのがわかる。


「あいつ、クルムじゃないか。あの赤い髪と背格好…」


「え、クルムってあの?」

「そう、兄貴を嫌っているやつ」


 ミナはちょっと不安になった。


 荷馬車はその前を通り過ぎたが、誰も出てこなかった。ミナはほっとした。

「見間違いだったかな?」


 レイもホッとして言った。



 しばらく行くと、急に2頭の馬がいなないて止まった。


「あ、オオカミだ! まずい!」

 レイが叫ぶ。


 ミナも前方を見た。そこには、4、5匹のオオカミが道の真ん中にたむろして、何かを漁っているようだ。小動物を食っているところらしい。


 食うのに忙しく、こっちには襲ってこないが、これではこの道を通れない。


「どうしよう。…どうしたらいいの?」

 ミナはレイにすがるように聞いた。


「俺もわかんね…。このまま突き進むことはできないし…。あのオオカミを何とかしないと…」


「何か食べてるよね? あれを食べ終わったら、去るかしら?」


「さあな。こっちに襲ってくるってこともあるぞ。見えてるし、風上だし…」


「えっ、そうなの?!」


 ミナとレイはしばらくじっとしていたが、ミナは焦ってきた。

 これでは街にたどりつくのが遅くなってしまう。


 初日から遅刻では信用を無くす。かといって、どうやって追い払ったらいいかわからない。

 下手に攻撃して、こっちの馬が襲われたらさらにひどいことになる。


「オオカミを追い払う方法ってないの?」

「いや、あったら誰も困んない」


 レイはミナほどは焦っていないのだ。ここでは待つしかないだろう。


 ミナはイライラしてきた。一番怖いのは、オオカミに襲われるよりも、初日からすべての信用を無くすことだ。たくさんの人の期待がかかっているからだ。


 そんなこと、絶対に嫌だ!


 ミナは荷台のほうを見た。

(何か武器になるものは…)


 少しばかりの工具と、車輪がぬかるみにはまった時に使う分厚く長い板しかない。とりあえず、これでなんとかするしかない。ミナは板を引っ張り出した。


「ミナ、何する気?」

「これで追っ払う!」


「ミナ、相手はオオカミだよ? わかってる?」

「でも、このままじゃ街に行けないじゃない!」


「いや、無謀だって!」

「じゃ、どうすればいいの?!」


 ミナはレイが持っている鞭を見た。

「ちょっと、それ貸して!」


「えっ、ダメだよ。どうやって馬を御すのさ?!」

「これでオオカミを追い払うの!」


「いや、無理だって! 馬車を降りるなんて、絶対にダメだから!」


「降りなくても近寄ればなんとかならないの?!」


「相手はオオカミだぞ。近寄ったら御者台に簡単に上がってくるぞ?!」



 御者台で二人がドタバタとしていると、黒い影がオオカミに向かってさっと走りこんだ。


 そして、剣で一閃し、あっという間にオオカミを2匹薙ぎ切った。驚いた残りのオオカミたちはダッと駆け出して、後ろの茂みの中に走って逃げていった。


「兄貴…」

「カイル…」


 オオカミを追い払ったのは、カイルだった。


「お前たち…」


 カイルはあきれたように、荷馬車の二人を見上げた。何か言いたそうにしているのは、さっきのミナの様子を見ていたからだろう。


「カイル…、ありがとう」

「ほら! いいからさっさと通れ! また何か来るかもしれないぞ」


「おう!」

 レイが手綱を握って、鞭をふるい、荷馬車は動き出した。カイルが簡単に死骸をどけ、レイは上手にその横を避けていく。


 ミナが振り向くと、カイルが手を振っている。

 思わずミナも手を大きく振った。


「カイル…なんで来てくれたんだろう。狩りに行くって言ってたのに」


「きっと、心配して後ろからついてきてたんだろ」

「うん…。そうかもね」


 無事にタンブリーに入り、なんとか時間に間に合うようにプライク商会の倉庫に着いた。


「初日の成功、おめでとうございます。よかったです!」


 トージャーが大げさに褒めてくれた。


 藁をしいたおかげで、傷みも少なく、初日としては、うまくいったようだった。

 質と量をトージャーが確認し、証明の木札をもらって、今日の仕事は終わりだ。


 プライク商会は中堅の複合商社のようなもので、さまざまな商品を扱っているが、農産物は今まで扱っていなかった。今回、新しく乗り出す分野なのだ。


 だが、広い倉庫を持っていて、まだまだ取り扱い商品を広げたい意欲が見えた。

 

 市場や常設店の価格などを確認して帰りながら、ミナはレイに聞いた。


「レイ、何か武器とかないの? またオオカミとか出たら困るし」

「う~ん、俺、そういうの詳しくないから、兄貴に聞いてよ」

「そっか…」


 ミナは考えていた。無力な二人では道中が危険だ。もう少し自警力がなくてはいけないだろう。


「私たち、二人じゃ無力だよね」

「う。俺、兄貴みたいに強くないからな…」


 レイもちょっと自分にがっかりしているようだ。

(仕方ないか。レイは戦闘向きじゃないし…。私がなんとかしなきゃ)


「大丈夫。私が何か考えるわ!」

「ミナが考えることって…不安しかないんだけど」


 レイは朝のミナの無茶ぶりに不信感を抱いているようだ。

 ミナはそんなレイをにらんで、「大丈夫だから!」と繰り返した。


 村に戻ると、役場に報告をして、帳簿に各家の売り上げを記録すると、ミナは一足先に家に帰った。レイは少し馬と荷馬車の世話をするようだった。


 夕食の時間にはカイルが帰ってきた。食事のあと、カイルが言った。


「あの後、よく調べたら、森からイタチの血がついていた。オオカミがあの時間に人間のいる場所に現れるはずない。誰かがわざと道にオオカミをおびき寄せたんだな。イタチの足には紐が括りつけられていたし」


 傷を負わせたイタチの血を流しながら、森から道へとオオカミがおびき寄せられるようにしたというのがカイルの見立てだ。


「あ、あいつかも! クルムがいたんだよ。オオカミが出る前に」


 レイが言う。ミナもそれは疑ったのだが、証拠がないことは言えない。


「クルムがいた?」

 カイルは眉をひそめた。


「剣と赤い頭が見えただけよ。彼かどうかわからないわ」


 一応、ミナはクルムをかばった。クルムのためというよりも、証拠がないときに敵をつくるのは時間の無駄になることが多いからだ。


 クルムに限らず、道中の危険をまったく考慮していなかった自分のミスだと思う。


「それにしても、ミナにはまいったよ」とレイが愚痴るように言う。

「あぶねえったらねえ。オオカミに鞭で対抗するとか、板で殴りつけるとか。まともじゃねえよな」


「ミナ! 天然はやめろって言ったろ?」

 カイルに怖い顔で怒られた。


「す、すみませんでした…」


 とりあえず素直に謝る。オオカミがどれだけ怖いのか、自分にはわからない。とりあえず、大型犬くらいにしか思っていなかったかもしれない。


「ね、カイル。何か武器はないのかしら? 荷馬車の上から、オオカミとかを威嚇できるような武器」


 ミナは銃のようなものをイメージした。アメリカでは、銃は中古で10万円くらいから買えるのだ。


「ある。武器屋に行けば、魔道武器がいろいろある。でも、かなり高いぞ。だから、農民が持つようなものじゃない」


「そうなの?」

 魔道武器! それはかなり興味がある。


 カイルが言うには、この世界には魔法使いはいるが、数がとても少ないので王都に集中しているという。それで、魔法使いがいなくても魔法が使える魔道武器が発達したという。


 しかし、高すぎて、普通は手が出ないのだ。貴族か大商人くらいしか買わないという。


「カイル、私を武器屋に連れていって! お願い!」


 次にレイと街に行くのは5日後だから、それまでに武器を用意しておきたい。


 そう、ミナには奥の手があるのだ。


(今こそ、身に着けていたアクセサリーを売るべきよ)

 ミナはその金で武器を手に入れようと考えたのだった。


これは、ひとりの女性が経済の知恵を駆使して、不屈の精神で国を繁栄に導き、侵略を阻止するという壮大なお話です。まだまだ村娘の時期。よかったら、お付き合いください。


ブックマーク、よろしくお願いします!!

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