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動き出す侵攻作戦と、その対抗策

MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。視察に来たコブルー開発部長の王弟レオストは、ブリアのさまざまな施策がすべてミナの案だということに驚く。今コブルー港は敵国グリダッカルに雇われたモーガダイ国の傭兵船団に狙われていた。その対抗策が開始された……。


このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください


初めてお読みになる方は、下に用語集があります!


第109話 王族のバンサラー表敬訪問


 コブルー港の外れにある酒場は、夜になると船乗りたちでいっぱいになる。木の床は酒でべたつき、天井には煙がこもっていた。

 その中央に近い席に、3人の船乗りが座っていた。


 一人がわざと大きな声で言った。

「聞いたか? 王族がバンサラーに行くらしいぞ」

 隣の男が酒を飲みながら肩をすくめる。

「王族? バカ言え。王族が簡単に海に出るもんか。海が荒れたらどうする?」


「ほら、バンサラーがコブルーに宿舎を建てるだろ。あれの表敬訪問だとよ」

 向かいの席にいた船乗りが身を乗り出す。

「それ、本当か?」

「さあな。だが港湾局の書記が酒の席でしゃべったらしい。また聞きだ」

「どうせガセだぜ。たかだか宿一つで王族が行くもんか」

 船乗りたちは笑う。


「王族って誰だよ」

 船乗りがつっこむ。

「こないだ来たやつさ。王弟殿下様だ。同盟の話だとよ」

 船乗りたちは一斉に顔を見合わせた。

「同盟だと? バンサラーと……か? ねぇぜ、そんなの、ねぇ、絶対」


 その言葉が聞こえて、酒場のあちこちで小さな笑いが起きた。


「ま、宗教違うからな。でも、その宿がすげえんだよ。

 お前ら、入札会、見たか? 俺は見たぞ。ヒーズリー教徒専用だぜ。驚くぜ。同盟を意図して許可したらしいぜ。

 だから贈り物を山ほど積むらしい。たぶん、黄金の板絵に、豪華な金糸のタペストリー。香木に宝石箱だろうな。ああ、見てみてえ…。見たら目がくらむだろうな」


「へえ……。そりゃ大した船団だろうな」

「いやいや、護衛は少ないらしいぞ」

 船乗りは、もっともらしく言う。


「なんでも王族の外交船だからな。海軍を大げさにつけると、相手国を威嚇するから失礼だとかでよ」

「なるほどな」


「で、船はいつ出るんだ?」

 その質問を待っていたかのように、男は「さあ言うぞ」とばかりの態度を見せたが、急にしぼんで、「…知らん」と言った。


 酒場の空気が突然しらける。

「てめえ! 適当なこと言ってやがったな!」

「知らねえよ! また聞きだって言ったろ?! いつって港湾局の奴は言わなかったんだとよ」


「ちっ…」

 問うた船乗りは舌打ちした。


「そんなん、船をみりゃ、わかるだろ?」

 別の船乗りが、離れたテーブルから口を出す。


「王族が乗る船だぜ。そんじょそこらの船じゃねぇ。豪華に決まってらあ」

「そりゃそうだ。豪華な船が出たら、王族が乗ってるってことだよな」


「お、俺は豪華な船、見たぞ!」

 また別の船乗りが声を上げた。

「どこでだよ。いねぇよ。コブルー港にゃ」


 口を挟まれた船乗りがバカにしたように言う。

「チッチッ。プラウ川だよ」

 得意げに船乗りが言う。周りはまた聞き耳を立て始めた。


「なに?!」

「おれは王都からプラウ川を下る豪華な船を見たんだよ。馬よか遅いから、俺が先にコブルーに着いたってわけさ」


「ってことは…。明日か、あさってあたりにはコブルーにその船が来るってか?」

「だろうな~。でも、いつコブルーを出るかは知らん」

 酒場が静まり、みんなが考え始めた。


「てことは、一週間以内には豪華船がコブルーを出るってことか?」

「かもな…」

 酒場の船乗りたちはそれぞれにいろいろな空想を始めた。


「しかしよ……」

 最初の船乗りが言う。

「なんだ?」

「そんな船団、海賊にでも見つかったら、ひとたまりもねえな」


 誰かが笑った。

「バカか! ひとたまりもねえのは海賊だよ。王族の船が一隻で出るとでも思うのか。コブルーの軍船が大挙して守るのに決まってんだろう」


「いや、だってさっき、護衛は少ねえって」

「少ねえったって、王族を守るんだぞ。海戦に行くほどじゃねえってだけさ。少なくとも10隻はいらぁ。海賊の1隻や2隻、ひとたまりもねぇさ」

「だよな…」


 酒場のカウンターで、フードをかぶった男がゆっくり席を立った。カウンターに勘定を置き、何も言わずに外へ出ていく。


 翌朝早く、その男は小型の高速船に乗り、コブルーを出て、モーガダイに向かっていった。


 * * *


 その7日後。

 ヨーカイダ大陸の東、モーガダイの軍港・東バッフマ。

 コブルーからは大型船で順風で14日。小型船では7日だ。


 ここは大きな湾になっており、湾の中に軍港の東バッフマ、商業港の西バッフマがある。湾の入り口は狭く、約3キロの幅しかない。この自然の地形で守られた港なのだ。


 湾の奥には無数の船が停泊していた。東に軍船、西に商船。その間に無数の小さな漁船。帆柱が林のように立ち並び、湾内は油のように静かだった。


 小型の高速帆船でコブルーから東バッフマに戻った男が一人、港湾局の裏にある軍司令部の建物に向かう。

 司令官室に入ると、がっしりとした体躯に焼けた肌の男がいる。黒い髭に坊主頭だ。モーガダイ傭兵隊司令官、ガルバだった。


「司令官」

「おお。アルガン。戻ったか」

「は。コブルーで得た情報です。王族が軍船を率いて、バンサラーに向かうそうです」


「王族が? 何をしに?」

「外交とのことです。同盟を結ぶためにかなりの財宝を持って表敬訪問に行くとか」

「なんだと?! いつだ?」


「はっきりとはわかりませんが、俺がコブルーを出たのは7日前。そして、王族がコブルーに着いたのがその次の日あたり。とすると、今頃、コブルーを出て、3、4日あたりと思われます」

「ふむ…」

 ガルバは潮の流れと風の向きを計算した。この季節なら西の風が続く。


「ということは、今頃、コブルーから200里あたりだな…」

 ガルバは少し考えた。

(これは2つの戦略が使える…。王族を追うか、コブルーを襲撃するか…。どちらを狙う?)


 口髭をいじりながらしばらく考えた後、にやりと笑う。

「グリダッカルの使者殿を呼べ!」

「はっ」


 側近が走り出て、グリダッカルの使者を連れて来る。

 使者は豪華なローブに身を包み、従者を従えてやってきた。グリダッカルの外交官だ。


「使者殿。襲撃の時が来たぞ。今、コブルーは手薄だ。王族が軍船を連れてアーガリアに出たそうだ」

「な、なんと?! ではいよいよ…?」


「ああ、コブルー襲撃に出陣する。お約束の金、ご用意願おうか」

「も、もちろんである。前金として金貨1000枚。行軍1日につき10枚。早速、手配を…」


 グリダッカルの使者は自分の従者に手配を命じた。

「では、頼みましたぞ」

 使者は安全な場所に去っていく。


 使者が去ったのを見て、ガルバは副官ギゼブを呼んで別の指令をする。


「ギゼブ。コブルー襲撃隊50隻が出た後、秘密裏に別動隊30隻を王族確保に向かわせろ。そして、お宝をいただけ。それは我らのものだ。王族は傷つけず捕虜にせよ」

「はっ!」

 ギゼブは司令官の命を受け、走り去った。


 ガルバは二つの作戦を考えた。しかし、経費がグリダッカル持ちである以上、王族を捕虜にしてお宝を入手したのがグリダッカルにばれれば、お宝の分け前を要求される。だから、そちらは内密にして独自でおこない、コブルー攻略をグリダッカルの経費でおこなうことにしたのだ。


 今の時期コブルーに行くのは逆風で時間がかかる。だが、経費がグリダッカル持ちなら、逆に儲かるというものだ。


 夜どうし用意が続けられ、モーガダイの東バッフマから50隻の軍船が出航しようとしていた。


経費をできるだけ少なく、モーガダイを叩く! その方法は…?

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好評価、リアクションなどいただけると、とても嬉しいです!


用語集

バンサラー … アーガリア大陸にある、ヒーズリー教の国

モーガダイ … 傭兵船団を持つ国。ミナの守るコブルーを狙う敵国グリダッカルが、この傭兵船団を使ってコブルーを奪おうとしている。

ヨーカイダ大陸 … コブルーがある大陸

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