ワモワ海でのコブルー防衛戦と、アンドリオンの不安
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。視察に来たコブルー開発部長の王弟レオストは、ブリアのさまざまな施策がすべてミナの案だということに驚く。今コブルー港は敵国グリダッカルに雇われたモーガダイ国の傭兵船団に狙われていた…。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
第107話 モーガダイ防衛会議
翌日の午前中、ミナがセグリオやバラントンら文官と打ち合わせしている間、アンドリオンはコブルー港湾局内の小会議室にて、レオストと王国海軍コブルー分隊司令官バルマスに、港の防衛作戦を説明する会議を開いた。
作戦の主軸は「王の剣」であるバンリオル、トガリアだ。
グリダッカルがモーガダイに、傭兵船団を使ってコブルーを襲撃することを交渉しているという件を真っ先に察知したトガリアの参謀アルソーが作戦を述べる。
「トガリアはご存じの通り、モーガダイに滅ぼされたドーハイの出身です。当時、航海中だったドーハイの船は約150隻」
「な、なんと!」
レオスト以下、面々は顔を見合わせる。
「150隻の船が行き場を失ったということか?!」
レオストは唸る。
「国を失うというのは、それほどに大変なことなのだな…」
アンドリオンも眉間に皺を寄せる。
「ええ。ですんで、この150隻の船長たちはあちこちの港に残ることとなりました。トガリアはこのコブルーに。他の船はアーガリアとヨーカイダの両方に渡りました。
なんで、モーガダイの情報は各国にいる150の船で共有しています。共通の敵と認識してるんです」
「おお…!」
バルマスとレオストは顔を見合わせた。
「ですんで、モーガダイが動き出したら、俺たちが一番早く情報を得るでしょう。そして、150の中には一部、傭兵になったものもいるんで、血の気が多いやつらを使えます」
「その傭兵を使って戦うというのか?」
バルマスが問う。
「いや、それは無理です。モーガダイの海軍力はバカになりません。やつらは大砲を持っています。そんじょそこらの国の海軍では相手にならないくらい強いです」
この時代、まだ大砲を持つ国はほとんどなかった。モーガダイと、火薬を産するバンサラーくらいのものである。
「ですんで、150隻合わせて戦っても、勝ち目はないです。ま、半分以上は商船か漁船ですけど」
「ではどうすると?…」
「あとは頭を使うんですよ。…モーガダイの軍港バッフマは、出口の小さな湾なんです。それを利用します」
アルソーは鋭い目を光らせながら、作戦を披露する。
レオストはしばらく黙って聞いていたが、やっと感想を漏らした。
「その作戦は見事だな。それは軍費としては、かなり削減される。その分、傭兵の報酬を上げられるし、長期の待機も必要ない。
しかも、トガリアの防衛網を使えるとなると、アラゴンキアは直接手を出さずに済む。良い案だと思うが…」
レオストは再び黙り込んだ。頭の中でシミュレーションをしている。
彼は軍人なので、たくさんの戦いを体験してきたのだ。
「この案のかなめは、最後のバンリオルの出番だな」
「は。さようでございますな」
バルマスは同意した。
「はい。お任せください。モーガダイとは数10年の取引がありますし、良い私兵がおりますので」
にやりとバンリオルは笑う。
「ふむ…」
レオストは頭の中で過去のバンリオルの功績を思い出していた。
(そう言えば、つい最近では王都を金融恐慌に陥れようとしたルーガン残党を一掃したとか…。少し前には、グリダッカル領内の橋を爆破し、進軍を阻止したと聞いたな…。ああ、その前にはマーガドナ鉱山の秘密裏の売却を阻止したとか…)
この2、3年のことを少し思い出しただけでも、いろいろな功績が思い浮かんだ。
彼らは王国警備隊工作員顔負けのことを私兵でおこなうのだ。まさに、王の剣にふさわしい働きだった。
それが、海に強いトガリアと協力すれば、かなりのことができるのだろう。
「わかった。十分に資金を用意しよう。財務庁からの通達を待つが良い」
「はっ」
裁可が下りた。本格的に防衛作戦が動き出すだろう。
ブリアでのレオストの予定していた用事はほぼ終わった。
(後は、ミナを確保する…)
レオストはそのことを考えていた。
レオストは決して、地位や名誉を追い求める人間ではない。軍人として、いくつかの戦いを重ね、この国が侵略を受けることが我慢ならなかった。
だから、それをブリア割譲で終わらせようとする兄のアルーストと対立した。
そんな弱腰では、グリダッカルにはさらなる要求をされるだろうし、他国もアラゴンキアを弱者とみなして、侵略をしかけてくるだろう。
それを阻止するためには、何度話しても考えを変えないアルーストを亡き者にするしかないと考えて、アルーストを暗殺しようとした。
だが、今やアルーストも考えを変え、割譲案は消えた。そして、アラゴンキアを敵の暴力から守るという点では、レオストと考えを同じくしている。
そのためには防衛費が必要だ。知恵があれば、防衛費を効率よく回せる。コブルー自由港化による防衛案は賢いやり方だ。儲けることが防衛につながるからだ。
そして、税収を上げることができれば、さらに防衛費は増やすことができるだろう。
ミナがブリアで推進している案は、どれも税収を上げようとしている案だ。
(まずは、農民支援策とやらを全国に広げる。そこから始めるとしよう)
レオストにはミナの王都での活用案が頭にあったのである。
レオストはコブルーからそのまま王都に帰る帰路に着く。
馬車に乗る前に、彼はアンドリオンに念押しした。
「ミナを5月によこすこと、忘れるなよ」
「は、…はは! かしこまりました」
アンドリオンは頭を下げた。
* * *
アンドリオンはレオストが王都に帰るのを見送ったあと、ミナと共に馬車に乗り、タンブリーへの帰路に着いた。
馬車に乗り込んだアンドリオンはかなり疲れた顔をしていた。
「お疲れ様でございました」
とミナはねぎらったが、アンドリオンは顔を上げてミナを見ると、目をぎゅっと閉じて顔を曇らせる。
(どうしたんだろう…?)
その様子はまるで失敗をごまかす子供のようだ。
「すまぬ…」
いきなりアンドリオンが謝るので、ミナは首を傾げる。
「は? 何がでございましょう」
「ミナ、落ち着いて聞いてくれ…」
「はい…?」
アンドリオンは大きくため息をついた。
「レオスト殿下が、君に王都に来いと…」
ラフカーンも顔を上げた。
「え? 王都に? いつ? どのくらいでございましょう?」
「5月に1か月ほど…とおっしゃっているが…」
「5月?」
「本当に1か月で帰れるかどうか…」
アンドリオンの嘆きを聞いていると、ミナはまるで自分が虜囚にされるような気がした。
「あの…、アンドリオン様。1か月だけ王都に呼ばれた、ということだけでございますよね? 前回まいりましたときには、往復の日程を入れて18日でございました。それより少し長いだけでは…?」
「表向きはな」
「表向き…」
なんだかすっきりしないまま、会話は終わった。少なくともそれは1か月後の話だ。今は、他に考えることがたくさんあった。
(進化した未来の自分のために必要なことをする。不要なことはしない)
そう唱えることで、そのことはしばらく忘れることにした。
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用語集
ミナ … MBAを取得したあと、異世界に来て、自由港を作り上げようとしている
アンドリオン … ミナが住むブリア領の若き領主
レオスト… アラゴンキアの王弟殿下で、かつて前ブリア領主とともに王太子暗殺未遂を犯した
セグリオ … コブルー担当の王都の官僚
バラントン … コブルー担当のブリアの官僚
王の剣 … 商会でありながら、国防のための実験を与えられている商会
バンリオル … 王の剣として働く大商会で、代表ボリックはミナの支援者
トガリア … 最近王の剣となった、振興の商会。外国出身
グリダッカル … コブルーを長年狙っている内陸の敵国
モーガダイ … 東の傭兵の国でワモワ海に面している
ドーハイ … かつてモーガダイの対岸にあった国で滅ぼされた
アーガリア … 対岸の大陸
ヨーカイダ … ミナの住む大陸
バンサラー … アーガリア大陸の国
ラフカーン … 騎士団長




