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ミナの能力がばれて、レオストはミナを…

MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。しかし、開発初期は領地にお金がないため、ミナはいろいろと領地の改革を進める。視察に来たコブルー開発部長の王弟レオストは、ブリアのさまざまな施策がミナの案だということに驚く。アンドリオンはそんなレオストに不安を感じるのだった。


このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください


初めてお読みになる方は、下に用語集があります!

第106話 レオストの望み


 レオストは翌日の午前中に競りを観覧した。そして、その後はコブルーに向かう。


 ミナとアンドリオンは別の馬車で向かっていた。レオストのコブルー視察を案内するために同行しなければならないのである。


 四頭立ての馬車には前のように騎士団長と侍従長も乗っている。

「…ミナ。どう思う?」

 アンドリオンは腕組みをして、前に座るミナをにらむ。


「は? 何をでございますか?」

 ミナは書類から顔を上げてアンドリオンを見ると、彼が怖い顔をしていたので、何事かと思った。


「君は何も感じなかったのか? レオスト殿下の思惑だ」

「は…、何かございましたか?」


「レオスト殿下はコブルーの自由港化、それと農民支援制度、それに…その国家銀行の案も、君の案だとご存じだ。もしかすると…」


 ミナは次の言葉を待つが、なかなか言わない。

「もしかすると…?」


 首を傾けて、その先を問う。

「君は本当に鈍いな。うっかりすると、レオスト殿下に連れ去られるぞ」

「えっ……」

 ミナは意味がわからない。


「人さらい? 王弟殿下にそんなことができるのですか?」

 首を傾げてアンドリオンに聞いた。


「馬鹿者! 何が人さらいだ。王弟が君を王都に呼びたいと望んだとして、少なくとも私は抵抗できぬ」

「はあ…」


(なんのために?)と聞きたかったが、また「鈍い」と言われそうだった。

 レオストは42か43歳だ。彼には正妻もいるし、妾もいるだろう。まさか自分をそういう対象にするとは思えない。ならば、王都に連れていって、何かをさせる? 


(でも、まだそんなに実績ないんだけど…)


 まだこの世界に来て2年半だ。自分ではとても実績と言えるものはなかった…。

 農民支援制度はなんとかなりそうなのだが、まだ始まったばかりで税収はないどころか、経費がかなり掛かっているくらいだ。

 自分が出しているのは、まだまだアイデアに毛の生えたものに過ぎない。


 自由港だって、本格的に自由港になるにはまだ数年かかかる。

 国家銀行もアイデアは出したが、あとは財務庁金融部に丸投げだ。


 そう考えると自分がまったく仕事ができていない気がして、落ち込む。


 心の中でつらつらと考えていると、アンドリオンは怖い顔をしてミナに言った。

「レオスト殿下は王都での立場が弱い。まあ、ブリアにも責任がある…。そのあたりの事情、知っているな?」

「あ、はい」


 一年と少し前、ミナがちょうど王都にいたときにレオスト殿下の王太子暗殺未遂事件があった。


 あのときは、あの事件にカイルが関わっていることを知らなかったが、今は知っている。

 ミナはたまたま王都にいたわけではなく、バンリオルがミナを巻き込まないためにわざと王都に連れてきたのだということも今は知っている。


 要するに、アンドリオンの父である、当時のブリア領主カリディオンから、アルースト王太子を暗殺する命令を受けたのは、カイルなのだ。そして、王弟レオストはカリディオンの共犯者なのだ。


 王太子側のバンリオルがそれを阻止して、カイルをそこから引きはがした。王太子暗殺に失敗したレオストもカリディオンも、そこで処刑されるはずだった。


 しかし、ミナがブリア領主の娘エカーリアと間違われて、当時の王太子アル―ストに呼ばれるという奇跡が起きた。

 ミナはその機会を生かして、王太子に、コブルー港を自由港にするためにふたりを使うべきだと進言した。

 それが、ブリアを侵略から守る道だと主張した。


 こうして、罰として、レオストとブリア領主にコブルーを自由港として開発せよ、という命令が下され、ふたりは処刑を免れた。



「ええっと…。つまり、レオスト殿下としては、王都での地位を上げるために協力せよ、とアンドリオン様にと望むかもしれない…ということでございますか?」

「そういうことだ。そのために、君を連れ去るかもしれぬ」


 アンドリオンは深いため息をついた。

「連れ去る…? それは、わたくしが嫌だと言えないことなのでございますか?」

 ミナは不満気に聞いた。


「…君はブリアにいたいのか?」

 アンドリオンはその問いに答えず、少しかすれた声で別の問いをした。

「もちろんでございます。家族もいますし」


 すると、アンドリオンはまた不機嫌な顔に戻る。

「家族か…。しかし、カイルはよく王都に行くぞ。バンリオルと一緒にな」

(なんで知っているの?!)

 と思ったが、黙っていた。


「カイルが月の半分は王都にいるとしても、…ブリアにいたいか?」

 アンドリオンは不安げに聞く。


「はい。ブリアはわたくしにはちょうど良い大きさなのでございます。いろいろな施策を試すには…」


 アンドリオンは目を吊り上げる。

「そこは嘘でもいいから、私のために仕事をしたいと言うべきであろう!」

 アンドリオンはイライラしてつい声を荒げてしまった。


「は! 申し訳ございません! アンドリオン様のために仕事をしたいと思います!」

 と慌てて言ったが、もう機嫌が直らない。


「……もういい…」

 そう言って、アンドリオンはプイと窓を向いてしまった。


(ああ…。怒らせちゃった…。しまった…)

 正直、アンドリオンのために仕事をしたいと思ったことはなかったので、そのセリフは思い浮かばなかったのだ。


(ごめんね…)

 ミナは心の中で謝っておいた。


 要は、これ以上目立つなということなのだろう。

 馬車の中はシーンとお通夜のように静まりかえった。


 侍従長はうつむき、ラフカーンは腕組みをして寝たふりをし、ミナは恐縮して書類から目を離さないようにした。


 アンドリオンは一人で窓の外を見ていた。


 * * *


 4月のコブルーは華やかだ。港のそばに市場には提灯が並び、たくさんの出店が出ている。レオストにとって、ほぼ1年ぶりの来港だった。あちこちから来た異国の者もたくさん歩いている。


 彼は護衛を連れて、コブルーの生の様子を見ようと、そぞろ歩いた。そのすぐ後ろをアンドリオンとミナが歩く。


「あれはバンリオルの倉庫だな」とつぶやく。

「お、船が着いて荷揚げをしておる。……ん?」

 レオストはしばらく黙って観察している。


「ブリア侯爵。なぜあそこには2列あるのだ?」

「は、どこでございましょう?」

 アンドリオンはレオストが指さしたところを見る。


 それは積み荷を荷揚げして、検査を受ける列のことだ。

「あ、あれは優先枠でございます。いくつかの商会は、優先的に荷揚げできる権利を持っておりますので」


 ミナに任せているコブルーだが、アンドリオンもそのくらいは知っていた。

 つい最近コブルーに来たときに、彼も港湾局長からいろいろと案内され、説明を受けていたのだ。


「優先枠? それはなんだ。そんなことをすれば不満が出るであろう? 隣は長い列ができておるぞ」

「は。優先枠は、毎月一定の額を払ったものだけが使える仕組みでございます。逆に言えば金を払えば誰でも得られるのでございます」


 アンドリオンは冷や汗をかき始めた。またミナの案がひとつばれてしまう。これはミナの提案で始めた特典付き優先制度だからだ。


「ふむ…。あとで詳しく聞かせてもらおうか」

 レオストはアンドリオンをにらんだ。



 コブルーにはまだ王族を泊めるようなりっぱな宿はないのだが、ここで一番良い宿に一同は泊まり、シーフードたっぷりの夕食を取った。洗練された料理ではないが、新鮮な魚介はうまかった。


 食後、ソファにゆったりと座り、レオストは酒のグラスを持ちながら、ゆるくグラスを回して酒をくゆらす。


 テラスの窓は開け放たれ、そよ風が頬をなでる。


 ミナはすでに下がっており、この部屋にはいなかった。いるのはアンドリオンと、レオストの侍従長と護衛たちだ。


 そして、アンドリオンに聞く。

「さきほどの優先枠のことだが…」

「は」

 アンドリオンは(来たぞ!)と身構えた。


「どうせ、ミナの案であろう」

「は。ご明察でございます」

「ふむ…」

 春の港の夜風を浴びながら、レオストはしばらく考えている。


「侯爵。…ミナを少し貸してはもらえぬだろうか」

(やっぱり来た…!)

 とアンドリオンはこわばった。


「は、…貸す…とおっしゃいますと…?」

「ま、1か月でよい。王都によこすがよい」


(なんのために)とアンドリオンは聞きたかったが、王族にそんなことは聞けなかった。


「1か月…でございますか…」

「ああ。1か月だ」


 アンドリオンは少しほっとした。1か月で良いのなら、それほど困ることはないかもしれない。

「案ずるな。ミナに王都での政治を見せてやろうと思っただけだ。広い世界を知っておくのは悪くないであろう。自由港のためにもな」

 レオストはニヤリとした。


 アンドリオンは断ることができない。

 仕事案内所は後でも良いとして、急ぐのは貯水池の件だ。それはあと2週間で報告書が提出される。それを見てからでも良いだろう。


「今、進行中の案件がいくつかございますので、5月以降であれば可能かと…」

(1か月で帰ってくるなら…)

 アンドリオンは自分で自分を安心させようとした。


(王族には逆らえない。所詮、侯爵は王族の家臣。そして、侯爵の家臣であるミナも王族の家臣なのだから)


「では、5月になったら、ミナをよこすのだぞ」

「…かしこまりました」

 ミナのいないところで、ミナの行方が決められるのだった。


(あの娘は地方ではなく、王都で使うべきだ)

 レオストは心の中でつぶやいた。


(1か月…それで帰ってくる保証は……ない)

 アンドリオンは自分の心の中の声に不安になった。


(カイルも半分王都にいるなら、ミナもブリアに帰りたいとは思わないかもしれない…)

 アンドリオンは自分の懸念が真実になりそうな気がした。


 春の夜風が肌寒く感じられ、彼はブルリと身を震わせた。


レオストに能力を期待されるミナ。一方、モーガダイ対策はどうなる?


いつもお読みいただき、ありがとうございます。よかったら、ブックマーク、お願いします!


用語集

ミナ … MBAを取得したあと、異世界に来て、自由港を作り上げようとしている

アンドリオン … ミナが住むブリア領の若き領主

レオスト… アラゴンキアの王弟殿下で、かつて前ブリア領主とともに王太子暗殺未遂を犯した

バンリオル … 大商人でミナを支援している

カイル … ミナを助け、一緒に暮らしていた家族で、今は恋人

ラフカーン … 騎士団長


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