王弟の訪問で、アンドリオンの嫌な予感
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。しかし、開発初期は領地にお金がないため、ミナはいろいろと領地の改革を進める。コブルー開発の部長という立場の王弟レオストはコブルー開発を視察に来た。アンドリオンはレオストに不安を感じるのだった。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
第105話 コブルー防衛計画
それから数日後、王家の紋章を掲げた四頭立ての馬車が、タンブリー城に着く。春の風がやや強い午後のことであった。アンドリオンは領主として出迎えている。
レオスト殿下が颯爽と馬車を降りた。後ろでまとめた長い黒髪が風ではためく。
「レオスト殿下。ようこそ、ブリアへ。再びご足労いただき、誠に光栄でございます」
アンドリオンは丁寧に挨拶をし、レオストを城の中へと向かい入れた。
王の咎めが許されたばかりの昨年の状態とは違う。レオストはすでにしっかりと王家の一員として役目を果たしていた。それなりな歓待をしなければならない。
後から続々と王府の調査団の者たちも馬車から降りてくる。結構な集団である。
まずは広間に案内する。巨大な会議机の正面にはレオストが座り、その左手にアンドリオンが座る。そして、その後ろにミナが立った。
レオストはミナをちらりと見たので、ミナはそこで一礼をする。
アンドリオン側の官僚たちがレオストの左手に並び、右手に王府の調査団が並ぶ。イソールズやバラントンはアンドリオン側だが、セグリオはレオスト側に座っている。彼はレオストに派遣された王都の官僚だからだ。
そして、入り口付近には彼らの護衛たちがずらりと並んでいる。
「で、今回の調査とはどのようなご用向きでございましょうか?」
アンドリオンが尋ねる。
「うむ。もちろん、自由港の進みを見るためであるが、もう一つある。最近、聞き及んだのであるが、農民支援制度というものを始めたということだな」
(やはり来た)とアンドリオンは思った。
「はい。もうお聞き及びで…。こちらはまだ始まったばかりでございます」
まだ始まってからちょうど1か月なのだ。成果というものはまだ出ていない。
「それを説明してもらいたい」
「はい。では、担当のイソールズ卿から説明させていただきます。イソールズ卿、説明せよ」
「はっ」
イソールズが一礼し、説明を始める。
「こちらは、税となる穀物以外の農産物を役場が一手に買い取り、それを商会に競り落とさせるという仕組みでございます。役場はそこで多少の手数料を取りますが、収益というほどのものは得ません。
ですが、領地全体としては、商会の取引の利益に課税できますし、領地内をその商会が農産物を運搬する際には、通行税が発生するなどの利点がございます。
農民は市場の半額程度の買い取りとはなりますが、運搬や売り買いを心配する必要がございません。その分、農業に専念できます」
「ほう…」
レオストも、王府財務官カフランも、感嘆の声を上げたが、カフランはすぐにひとつ質問をする。
「今まで自由に取引できていたものを役場が買い取るとは…。農民から苦情はないのですかな?」
「はい。今のところは出ておりません。農産物を全部差し出せということではございませんので。全員参加ではございますが、役場に出す量は各自で決められるのでございます」
とイソールズは答えた。
「なぜこのような取り組みを?」
レオストが尋ねる。
「はい、それは…」
アンドリオンは一呼吸おいて、ゆっくりと説明を始める。
「昨年からコブルー港の税率を下げましたので、領地は一時的に財政難になりました。それを克服するために、新しい収税の仕組みとして、このような案を採り入れたのでございます」
「ほう…。誰の案だ? 領内の商務官か、財務官か?」
「いえ…」
アンドリオンは少し迷った。あまりミナの名前を出したくなかった。
すると、イソールズが代わりに答えた。
「こちらにいる行政顧問のミナでございます」
ミナはびっくりする。アンドリオンが言い淀んだので、そこで自分の名前を言われるとは思わなかった。
「なに? ミナか…」
レオストはしばらく黙っていた。
「はい。ミナがもともと自分の商会の仕事として行っていた事業を、領地全体に採り入れたのでございます」
アンドリオンも仕方なく、経緯を説明した。
「先日の王都の取り付け騒ぎでも出た国家銀行の案も、そなたの案だというではないか」
レオストはミナを振り向いて言った。
「は、恐れ入ります。レオスト殿下にはバンリオル銀行の前でご発表いただき、誠に見事に騒ぎを収めていただきました。心より感謝しております」
ミナは頭を下げた。
「そなたはそこにいたのか?」
「はい。バンリオルの事務所におりました」
「ああ、そなたはバンリオルと仲が良いのだな」
フフッとレオストは笑った。
「はい。農民支援策の元となったわたくしの商会の事業に、最初の大口の顧客として参加してくださったのがバンリオル商会なのでございます。そのときからご縁をいただいております」
「ほう? そうなのか…」
そのあと、レオストは特に質問もせず、しばらく考え込んでいた。
アンドリオンは嫌な予感がしていた。
暗殺未遂で処罰を受け、王都での立場が弱いレオストはミナの能力に目を付けた…。
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用語集
ミナ … MBAを取得したあと、異世界に来て、自由港を作り上げようとしている
アンドリオン … ミナが住むブリア領の若き領主
レオスト… アラゴンキアの王弟殿下で、かつて前ブリア領主とともに王太子暗殺未遂を犯した
イソールズ … アンドリオンの補佐官僚
バラントン … コブルー担当のブリアの官僚。コブルーに常駐
セグリオ … コブルー担当の王府商務部からの官僚でレオストの部下




