表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
129/136

バンリオル、ミナに小粋な恩返し

MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。一方、大商人バンリオルは倒産危機をミナに救われる。ミナの恋人で元冒険者のカイルはバンリオルの私兵として、王城にまで付き添う護衛兵に変身していた。そして、ミナが地方視察から帰ると…。


このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください


初めてお読みになる方は、下に用語集があります!


第103話 バンリオルの恩返し


 10日ぶりに侍女のフリーゼと共に、午後早くにタンブリー城内の若草宮に戻ると、留守番の侍女カエラが言った。

「カイル様が1週間前においでになりました。しばらくタンブリーにいらっしゃるとのことでございます」

「ま、ほんと?!」 


 明日の朝、合気道の稽古をすると言って呼び出そうと、ミナは一番下の侍女のシオーヌにバンリオル邸へ手紙を持たせた。カイルの住んでいるところは別の場所なのだが、バンリオル邸に渡せばカイルのところに届く。


(カイルに、次はあの技をおしえなきゃ…)

 王都でりっぱに合気道を身につけているカイルを見て、ミナは彼に教えるのがどんどん楽しみになってきたのだった。


 カウチでひと眠りしていると、シオーヌはバンリオルのバギーに乗って、手紙を持って帰ってきた。


「ミナ様、バンリオル様からのお手紙でございます」

「えっ、ボリックさんから?!」


 見ると、今夜の夕食会の招待状だった。カイルも出席するというので、疲れが吹っ飛び、すぐに馬車の御者に出席の返事をして返した。

 

 

 バンリオル邸はミナの住む若草宮から歩いても15分くらいなのである。十分歩ける距離なのだが、バンリオル邸から夕方に迎えの二頭立て馬車が来る。


 初めて婚活ツアーでバンリオル邸に行ったのはもう一年半前の秋だ。バラが満開だった。

 あの時は村娘として訪問したが、今回はドレスを着て二頭立て馬車でバンリオル邸に行くとは、短期間の間に自分の環境がまったく変わってしまったことに改めて気づく。


 入り口でマントを侍女に渡し、玄関に入ると、カイルが正装をして待っていた。

「カイル?!」 

 久しぶりに顔を見られて、嬉しくて思わず走り寄る。


 カイルは白の長めの上着に、きちんと整えた髪型。まるで凛とした騎士のようで、地方の宮廷で出会った貴族たちとあまり変わらない上品さだ。


「どうしたの? その恰好…」

 うっとりしながら、彼を眺めた。彼は照れたように笑っている。


「やあ、ミナさん! ようこそ」

 バンリオルが二階から階段を降りてやってきた。彼も襟にジャボを付け、それをグリーンの宝石のブローチでとめている。高級な布地の上着を着ており、貴族さながらだ。


 そして、すたすたとミナの前に来ると、ミナの手を取って軽く口づけをする。

「ミナさん、ようこそ。お待ちしておりました。お疲れのところ、お呼びだてしてしまい、申し訳ございません」


「いいえ。カイルも一緒にお食事に誘っていただけるなんて、絶対にすぐにまいりますわ!」

と勢いよく言った。


「ははは。ミナさんを楽しませる余興を少しばかり用意しておりますので、お楽しみいただきたいと思います」


「まあ…。何かしら? 楽しみですわ」

 ミナは予想もつかない。


「カイル」

 バンリオルはそう言って、カイルに何かを目で指示する。


「はい」

 カイルはさっと右手を上に向けてさし出し、左手を自分の背に置いて、「ご案内いたします」とミナに言った。これはダンスの誘いのポーズだ。


 ミナはまるで夢を見ているようにぼうっとした表情で、すっと左手を出す。

 すると、カイルはその手を取って、階段を上り始めた。


 ミナは魔法にかかったようにその手に導かれて、すっと階段を上がっていく。カイルのエスコートは生まれてはじめてだ。


 そして、二階の大きな広間に用意されたダイニングテーブルの椅子に案内される。カイルが椅子を引き、ミナが座ると同時に椅子をさっと前に押した。

(か、完璧…)


 バンリオルも使用人に椅子を引かれて座り、そしてカイルも座った。

 部屋の奥にはチェロの演奏者がおり、ゆっくりと音楽を奏で始める。


「ミナさんには王都で大変お世話になりました。バンリオル銀行が今無事なのは、ミナさんの国家銀行の案のおかげです。そのお礼として、何をさせていただこうかといろいろと考えておりました」


 バンリオルが話すあいだに、使用人が食前酒を注ぐ。

「まあ。そんなことを?」


「ええ。それでカイルと相談したのですが…」

 カイルがそこでちょっと照れたように目線を落とした。


「彼はミナさんと結婚する約束をいただいたとか。ということで、彼がミナさんとどこに出ても恥ずかしくないマナーを身につけるために、私がマナーとダンスを教えることにいたしました。いえ、もちろん専門の教師をつけて、ですが」


「ま、まあ~……」

 ミナは顔が真っ赤になった。うれしいのと恥ずかしいので、思わず頬を両手で包む。


 チラリとカイルを上目遣いで見ると、彼も恥ずかしそうに笑っていた。

「それは……すごく……うれしいです」


 ミナはあまりにうれしくて恥ずかしいので、手を顔から離せない。

「本当に…。すごくありがたいです。わたくしでは教えられませんし……」

 バンリオルが自分とカイルの結婚を望んでくれていることもうれしかった。


「私はミナさんがその才能を存分に発揮できるよう、支援させていただきたいのです。その一つがカイルとの結婚であれば、そのように支援させていただきます」

「はい……」


 そうなのだ。カイルと結婚するには、カイルはまだ貴族の世界の常識を知らなさすぎる。今のままでは伴侶として紹介することはできないのだ。それはミナの大きな懸念だった。


 カイルと結婚したくても、その点が障害となって、二人の仲がうまくいかなくなるのではと、不安があった。


 王城では護衛としてかなりマナーを身につけたようで、ミナは本当にうれしかった。しかし、夫となるとさらにハードルが上がる。バンリオルはそれを察してくれたのだ。


「ミナさんは王族ともお話しする機会があります。結婚すれば伴侶と共にサロンに呼ばれることもあるでしょう。ですから、貴族並みのマナーを身につけなければミナさんが恥をかく、と彼に言いましたよ」


「はい…。ありがとうございます。そう注意してくださることもうれしいですし、カイルが努力してくれることもとてもうれしいです」

 ミナは顔を真っ赤にしながらも手を膝に上に戻した。


 涙がにじむくらい、二人の誠意がとてもうれしかった。

「あはは。とはいえ、まだカイルもタンブリーに帰ってきたばかりで、教えてから3日しか経っておりませんからね。今日はテーブルマナーとダンスの練習だと思ってください」


「あ、はい…」

(それでチェロを…)

 あれはあとでカイルとダンスをするためなのだ。


 オードブルが運ばれ、食事が始まる。

 カイルはナイフとフォークを使い、上品な料理を口にする。一口食べて、ミナを見て微笑む。このくらいは朝飯前だと言いたげだ。


 それを見て、ミナはすごく幸せな気分になるのだった。

(カイルが私のために努力してくれる…)

そんなカイルを見て、ミナは今まで以上に彼を愛していると感じていた。


 今まで、カイルとの結婚をあまり考えてこなかったのは、この世界観の違いだ。

ミナ自身はどんどんと身分の高い人たちと接する。しかし、カイルは別世界だった。


 これでは結婚してもうまくいかないことはわかっていた。だから、自分がカイルを愛しているかなどと考えないようにしていた。


 だが、王城でのカイルを見たとき、ミナには希望が見えたのだ。すると、カイルを愛している気持ちが堰を切ったように湧き出てくるのだった。


 2年半前、ミナが最初に会ったときは、カイルは無口で人とあまり接しない男だった。それが今では貴族のマナーを学び、王城に出るまでになっている。


 それはラフカーンの高潔な姿に憧れたのがきっかけだ。そして、村で暮らしているときには知らなかった視座の高い考え方や広い世界を知った。


 そして、王都でバンリオルに助けられた。彼もまた、高潔な考えの持ち主だと知る。

商いを単なる金儲けと思っていたカイルの狭い考えは打ち破られた。

そして、バンリオルを守ることで、彼自身も世界に貢献する組織の一員となれることに気づいたのだ。


 今までカイルは、ミナをただ自分にとって特別な女性としてしか見ていなかった。その意味で好きだったし、結婚したいと思った。


 だが、ミナが国王を動かしてバンリオルを救ったのを見て、それだけではダメだと思った。

今のままの自分ではミナには全然足りない。


 自分がミナと結婚することで、彼女を制限してはならない。ミナがやりたいことはすべてできるように支えたい。

 それはバンリオルの望むことでもあった。


 肉体的な努力はカイルにとって難しくない。しかし、精神的な努力は彼にとって難しい。

 だが、やり遂げる。どこから見てもミナにふさわしい男になる。

 そんな自分になれば、自分の生きる目的がすべてつながるような気がした。


結婚するって、さらに成長を促されること。カイルも成長を促されています…。


そろそろ、モーガダイを利用して侵略しようとする敵国グリダッカルの対策をなんとかしなきゃ…。


いつもお読みいただき、ありがとうございますm(__)m 

よかったら、ブックマーク、お願いします!


用語集

ミナ … MBAを取得したあと、異世界に来て、自由港を作り上げようとしている

ボリック・バンリオル … 大商人にして、諜報部を持つ

カイル … ミナの恋人で、バンリオルの諜報員

ラフカーン … 騎士団長



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ