アンドリオン、愛される領主になる
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。ミナと領主アンドリオンはフレスタを訪れた。かつてアンドリオンを殺そうとした子爵の娘、マーギナは、父は無罪だと言い、村の洪水の責任を取ってほしいとアンドリオンに訴えた。ミナはアンドリオンに村人に謝罪することを勧める。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
第102話 敬愛される為政者
馬車はゴトゴトと揺れながら、ビルガン村へと向かっていく。
道が悪いので、速くは走れない。洪水からすでに半年経っているので、道はぬかるんではいないが、でこぼこのまま固まっている。ところどころに積み上げられた土砂の跡や、流されてきた枯れ枝があった。
そして、木立を抜けると、村が見えて来る。エルノー村と似たような、大きな家が並んでいる。ほとんどが木造だ。
昨日のうちに先ぶれをしておいたので、すでに村人たちは集まっていた。
ブリア領主を見るのは初めてだ。ティルダスを訪れることはあっても、小さな村をブリア領主が訪れることはないからだ。
アンドリオンは立派なマントを羽織り、馬車を降りた。そのあとに、ミナが続く。ラフカーンがミナの手を取って降ろしてくれる。
村長が大きな声で宣言する。
「ブリア侯爵アンドリオン・ローガン様のおなりである!!」
村民はみな帽子を脱ぎ、頭を下げる。
その前をアンドリオンは歩き、村役場の前の広場に置かれた台座に上がり、立つ。
マーギナはすでに来ており、先に台座の横に立っていた。
「ブリア侯爵アンドリオンである。この度は、皆の苦難を聞き、ティルダスから飛んでまいった」
まずそう言って、村民を見回す。
「皆には苦労をかけたようだ。そのことで、シューマイル子爵マーギナ殿が心を痛めている。それを聞きつけ、私はやってきた」
村民はみな黙って聞いている。領主が何を言おうとするのか、まだわからなかった。
「死者も出たと言うことも聞いている。そのことで責められるべきは、シューマイル子爵ではない」
村人は唇をかみ、うつむく。子爵を責めたことを叱責されると思っていた。
「責められるべきは、この私である。前ブリア領主が城壁を造ることを命じた。それを中断したのは私である。どちらも、フレスタを守るためにしたこと。しかし、それが洪水を招いてしまった。そのことを予測できなかったのは、私の責任である」
村人は全員、顔を上げ、アンドリオンを見た。思いがけず、領主の言葉から悔恨と謝罪の言葉が出たのだ。
「皆には申し訳なかった。そのことを詫びるために、私はここにやってきた。皆に心から謝罪をしよう。皆を守れなかったこの私を責めるがよい」
村人はざわざわと動き出した。中には、泣き出した女性もいる。
「侯爵様が…」
「なんと…。もったいない…」
村人は雲の上の人だと思っている存在に謝られて、動揺し始めた。
「だが、このままでは終わらぬ。私は必ず、この問題を解決しよう。約束する。だから、これからは安心して暮らすが良い。
この街を侵略から守るために、城壁ではない別の策を今進めておる。そして、不運にも起きてしまった洪水に関しても、これから技師を集めて、対策を練るつもりだ。
だから、もうしばらく待ってほしい。皆にはもう少し苦労をかけるが、新しく子爵家の当主となったこのマーギナ殿も、皆を守ることを決意しているからこそ、ティルダスまで来て私に訴えたのだ。子爵とともに一丸となって、このフレスタのために働くがよい」
そう言って、アンドリオンは大きく両腕を広げた。
「そして、私もできる限りのことをして、この村を守ろう!」
すると、村人から歓声が上がる。
「おお~!! 侯爵様!!」
「ありがたい! 侯爵様が…」
感涙を流す者が続出し、アンドリオンに対して、拝むように手を合わせるものもいる。
子を抱く母親が一歩前に進み、思わず声を上げた。
「本当に…本当に守ってくださるのですか?」
「ああ、できる限りのことをして、守ろう」
アンドリオンは優しく微笑む。
「おお……」
膝をついて泣く者、顔を覆って泣く者。みな感涙にむせていた。
「皆、幸せに暮らせ」
そう言って、アンドリオンはマントをひるがえし、台座を降りた。
それから、再び馬車に乗り、子爵の邸宅に向かう。
「いかがであったか? ミナ。私の演説は」
アンドリオンは少し得意げだった。
「はい。お見事でございました! 完璧でございます! すばらしかったですわ。皆、大感激しておりましたわ。これこそ為政者の鑑でございます」
ミナは最大級の賛辞を述べた。
いつもは黙っているラフカーンもさすがに感動したようで、
「はい。皆神々しいものを見るような目で領主を見上げておりました」と感想を述べた。
「そうか…。やってよかったな」
そう言って、アンドリオンはミナに微笑んだ。
「ときには民に謝り、弱点も見せる。それが敬愛される統治者になるコツなのだな。強いばかりが良いとも限らぬのだな」
ふむふむと納得の顔で、アンドリオンは頷くのだった。
「はい。アンドリオン様はきっと名君におなりですわ!」
ミナも大きく頷いた。そして、きっとそうなるだろうと思っていた。
最高の笑顔で称賛すると、アンドリオンも素直に嬉しそうだった。
統治者と民は親と子のようなもの。親が強いと子は安心するが、強すぎると子は弱くなり、強くなろうとしない。親が少し弱気を見せると、子は強くなろうとするのである。
子爵邸の執務室でミナはナードンとフッタールを呼び、いくつかの指示を出した。
ティルダスに戻った例の水利技師を呼び出し、貯水池建設を含む治水事業について皆で検討し、報告書を作成してアンドリオンに届けるように依頼しておいた。
まだ、本当に貯水池が一番良い案なのかはわからない。水利技師の調査は不可欠だ。ミナは専門家たちの決断を信じるだけだ。
こうして、アンドリオンとミナの地方巡りは終わったのだった。
アンドリオンが領主になってから一年ちょっと。少し成長しました。
次回は、バンリオルとカイルがタンブリーに戻ってきます。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
用語集
ミナ … MBAを取得したあと、異世界に来て、自由港を作り上げようとしている
アンドリオン … 若きブリア領主
ビルガン村 … 洪水が起きて死者を出したフレスタ内の村
マーギナ … フレスタに住むシューマイル子爵。父はアンドリオンを暗殺しようとして罰を受けた
ティルダス … ブリア内バッカレー領の城下町
バッカレー … フレスタのある領地の名
ラフカーン … 騎士団長
フレスタ … バッカレー領の町
ナードンとフッタール … フレスタの官僚




