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ミナ、アンドリオンに課題を課す

MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。ミナは領主アンドリオンと地方の視察に来ていた。かつてアンドリオンを殺そうとした子爵の娘、マーギナは、父は無罪だと言い、村の洪水の責任を取ってほしいとアンドリオンに訴えた。


このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください


初めてお読みになる方は、下に用語集があります!

第三部 進化する王国

第一章 噂の天才官僚


第101話 身分の義務と責任


 もともとフレスタには来る予定はなかった。しかし、マーギナの直訴のおかげで、アンドリオンはティルダスを出て、フレスタを訪れることにした。

 フレスタは山間にある人口2万人くらいの小さな町だ。


 その管理者、シューマイル子爵の邸宅は、そんなに大きくはない。その中のこじんまりとした一室で、アンドリオンとミナ、そしてマーギナは顔を合わせた。


「マーギナ、まずは言っておく。そなたは一昨年の事件について、誤解をしている。前子爵は確かに私を暗殺しようとしたのだ。私はただ工事の停止について事情を聞きに来ただけだった。そこをいきなり斬りつけられた。『防御では領地を守れぬ』と言ってな。


 これは死罪に値する。お父上の命が助かっているのは、領地内にこれ以上の動揺を与えないための、王家の采配である」


 アンドリオンはマーギナにきっぱりと言った。マーギナは青ざめて少し震える。

「そ、そんな……」


「だから、今お父上が生きているのは幸運。その幸運に感謝せよ。そして、お父上が亡くなって統治者にならざるをえなかったのだと覚悟を決めよ。統治者になったからには、最後まで責任を取るのだ。それが貴族に生まれた責任であろう」


「はい。申し訳ございません…」

 マーギナは半べその顔だ。


 アンドリオンはマーギナにそう言いながら、実は自分が胸の苦しさを感じていた。


 アンドリオンとマーギナは、実は同じ立場にあった。

 マーギナの父、シューマイルはアンドリオンを殺そうとし、失敗した。

 アンドリオンの父、カリディオンも王太子を殺そうとし、失敗した。


 マーギナもアンドリオンも、どちらも次期当主として、父の罪を負わなくてはならなくなった。本来ならば、どちらも死罪になるのである。


 しかし、アンドリオンは王太子の計らいで、父ともども死罪を免れた。

 マーギナはまだ正式に次期当主となっていなかったので、自分の運命に気づいていなかったのだろうが、穏便に収めたい王太子によって父ともども助けられたのだ。


 アンドリオンは、一年前のあの時のことを思うと今でも胸が苦しくなる。


 愛する父の狂気の行動で、どれだけ動揺したか。…当主が憎しみに浸り、判断を間違うと、家族や領地を巻き込んで不幸にするのだ。


 それを思い出すと、マーギナの気持ちもわからないでもなかった。マーギナも父親の無謀な行動で巻き添えを食ったひとりである。

 この無邪気そうな女性が、あのときどんな衝撃を受けたかを想像するだけで、自分の受けた衝撃を思い出してしまう。



 アンドリオンはしばらく黙っていたが、やっと口を開く。


「……だが、今はそれはどうでもよい。問題は、あの城壁のせいで、洪水が生じたということだ」

「はい…」


「ミナ、どう思う?」

「はい。領主様。一度領地内の最高の土木技師たち、測量士たちなどの技術者を連れて、しっかりと調べてみなければわかりませんが、すでに案がございます。それは調べたのちに後日お話しいたしますが…。 


 …とりあえず、領主様にお願いがございます」


「なに? 君が私にお願い?」


「マーギナ様は突然この地の統治者となられました。そこへこの洪水。村人がマーギナ様を責めるのは筋違い。しかし、民とはこういうものでございます。責めやすいところを責めるのです。


 ですが、これは本来、壁を造る指示をなさり、それを途中で放棄したブリア領主の責任と思われます。村にはこの件で死者が出ているとのこと。これを領主の責任でお詫びいただきたいのです」


「な、なに…。私がか…」

 今度はアンドリオンが青ざめる。


「はい。これが統治者の責任です。そして、必ずこの件を解決するから安心せよとおっしゃってくださいませ。そうすれば、マーギナ様も村人から非難されなくなり、少し心の余裕ができましょう」

「うむ…。一理あるな」


 マーギナは驚いた目でミナとアンドリオンを交互に見る。

  ミナとアンドリオンの力関係に驚いているのだ。ブリア候のほうが、平民の顧問の言いなりだ。


 ミナは続ける。

「確かに、まさかこのようなことが起きるとは誰も予想しなかったでしょう。雨が多くなければ起きなかったこと。しかし、それでも村人は統治者なら予測すべきと考えるのです。


 確かに、統治者は予測不可能なことの責任を問われることもございます。

 しかし、それが起きたときには謝罪するのが統治者の矜持であるとわたくしは思います。それでこそ、村人は統治者を神の代理人のように思い、敬愛するのではございませんか?」


「統治者を敬愛…」

「はい。責任を取ることで、敬愛される統治者におなりくださいませ」

「う…む。……君がそう言うなら、……そうしよう」


 アンドリオンはしぶしぶだが、納得した。

「では、明日、ご一緒にビルガン村にまいりましょう……で、次の問題でございますが…」

「まだあるのか?」


「はい。マーギナ様のご結婚についてでございます」

「えっ?」

 マーギナは突然の話題に驚いた。


「ご結婚なさりたいかたがいらしたとか。それが身分違いでできなかったというお話をもう少しお聞かせください」

「は、はい。わたくしが結婚を約束しておりました相手と申しますのは、バッカレー伯爵付きの技官でございます。フレスタに派遣されてまいりました」


 アンドリオンが眉をしかめる。

「それは難しいな。技官ならば、その者は平民であろう? 確かに、子爵家の当主となったそなたが平民と結婚すると言えば、まわりは皆反対するのは道理」


 この世界では、身分の高い女性が身分の低い男性と結婚することは基本出来ない。当主となればなおさらである。


 そもそもマーギナは兄たちが戦死したあと、甥が子爵位を継ぐ者と思っており、父が存命であれば自分が爵位を継ぐことはないと思っていたのだ。


「いえ。でも、騎士位をいただいているのでございます…」


 騎士位というのは、功績があったものに与えられる地位で、世襲ではない。武官だけでなく、文官、技官も与えられる称号だ。

 ただ、子爵当主と結婚するには低すぎる身分である。


「なんの功績なのですか?」

 ミナは少し興味を持った。

「はい。あの方は水利技師なのでございます」

「まあ! 水利技師!」


(それならばぴったりだわ?!)ミナは心の中で叫んだ。


ここから第三部です。

レオストとミナの関係が深まり、王都でミナが力を持ち始めます。

そして、カイルの活動の舞台が海になります。

お楽しみに。


続けてお読みくださる方、ありがとうございます!

初めてのかたも、ありがとうございます。お時間のあるときに、ぜひ最初からお読みください!


用語集


ミナ … MBAを取得したあと、異世界に来て、自由港を作り上げようとしている

アンドリオン … 若きブリア領主

マーギナ … フレスタに住む現シューマイル子爵。父はアンドリオンを暗殺しようとして罰を受けた

ティルダス … ブリア内バッカレー領の城下町

フレスタ … バッカレー領の町

ビルガン村 … 洪水が起きて死者を出したフレスタ内の村


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