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フライアの危機にカイルは…

MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。ミナを愛するカイルは、ミナにふさわしい男になるために、大商会バンリオルの私兵として自分を磨いていた。今回の任務は香木が盗まれている証拠をつかむこと。相棒のフライアと調査を開始した。


このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください


初めてお読みになる方は、下に用語集があります!


 月が沈む前の薄暗がりでカイルは倉庫を確認する。

 匂いが頼りだ。ひとつひとつの標準箱の匂いを嗅ぐ。香木の香りをたどり、荷に近づいた。


 支店長から預かった鍵で、箱を開けた。そして、香木をいくつか触ってみる。

(……やっぱりな)


 バンリオルの倉庫で持った香木の芯材は樹脂を多く含み、ずしりと重い。しかし、この香木は軽いのだ。


 カイルは短剣を抜き、丸太の端を小さく削る。すると、中から木くずが出てきた。

 つまり、外側から見えないように、中身が抜き取られ、そこに木くずが詰められている。

(検査後にやったな)


 倉庫の奥に、小さな木くずの山がある。詰められた木くずとは色が違う。濃く、油分を含む粉。カイルはそれを指でつまむ。指先がわずかにべたつく。


 間違いない。これは中身を抜き取ったあとの香木の削りくずだ。これを証拠にすればいい。カイルはそれを皮袋に詰める。細い穿孔工具もみつけた。


 抜き取ったやつらはもう帰ったに違いない。ゆっくりと作業をしていた。


 * * *


 男たちが2人、1番倉庫に近づいてくる。

 フライアはそれに気づき、扉から少し避けた。姿を消しているから、それだけで大丈夫だと思った。


「穿孔工具を置いてきちまった」

「間抜けめ」

 そう言いながら倉庫の入り口に近寄ったが、一人の大柄な男がパタッと止まった。


「なんだ、お前も忘れものか?」

 連れの男が声を掛けたが、大柄な男は一点をにらみながら、じっと黙っていた。


 そして、その男がいきなりフライアに向けてナイフを投げた。

 フライアは思わず「ヒャッ」と声を上げた。その瞬間にナスコムが切れて、姿が露になる。


「やっぱりいやがった! うっすら影が見えてんだよ! お前は…」

 フライアは走って逃げる。


「捕まえろ!」

 あっという間にフライアは二人の男につかまり、殴られ、気絶し、担がれてさらわれた。

 そのまま、小舟に乗せられ、フライアは明日出航するアーガリアの船に連れ込まれた。


 * * *


 フライアはハッと気づく。すると、男が目の前に座っている。フライアは立ち上がろうとしたが、手足を縛られて、柱に括りつけられているとわかった。しかも、さるぐつわをかまされている。


「お前、フライアだろ」

 男はランタンを使づけて、女の顔を見た。フライアは背筋が寒くなる。


「知ってるぞ。ナスコムを使うバンリオルの手先だ。お前のせいで、俺たちの仲間が3人も捕まった。俺の弟もな!」

 海賊のようなその荒々しさは、フライアを恐怖に落とした。


 たばこのにおいのする指で、フライアの顔をつついた。その指がぞっとする。

「ずっと復讐してやろうと思ってた。今度来たら絶対に捕まえてやるってな」


 フライアはさるぐつわのせいで声が出ない。しかし、思い切り顔を振って男の指を振り払った。


 男はすかさずフライアの頬をぶっ叩く。

「相変わらず気の強い女だよ。ワハハ。でも、これまでだ。お前を奴隷として売ってやるよ。それが一番の復讐ってもんさ。生き地獄を味わうがいい」

 男はフフッと笑うと、立ち上がる。


「おい、バンガ。もう行くぞ。早くしろ」

 もう一人の男がやってきて、バンガと呼ばれた大男をせかす。

「ああ、わかった。…明日の朝早くにまた来るからな」


 そう言って、バンガはフライアの縄を確認し、ランタンを梁にひっかけると、積み荷をいくつかフライアの前に移動した。


 フライアはぞっとした。ここは船倉とわかった。船に乗せられている! このまま船でさらわれて別の国に連れていかれれば、二度と戻れない。


(いや~!!)

 心の中で叫んだが、さるぐつわのせいで声が出ない。

(カイル…。助けて…。カイル…)


 しかし、ここは船の中だ。気を失っていたのでどのくらいの時間が経ったのかもわからない。

 カイルは気づくだろうか。まだあの倉庫にいるかもしれない。自分がいなくなったことに気づいて、街を探しているかもしれない。そしたら、絶望的だ。

 船に乗せられたことに気づくなんて奇跡でしかありえない。


 フライアは恐怖で震え始めた。



第100話 任務完了



 カイルは夢中で証拠の木屑をていねいに集めていた。他にも証拠はないかと見回す。

 そのとき―――。

「ヒャッ」かすかな女の悲鳴。

(フライア?)


 倉庫は閉まっている。それから、男の怒鳴り声がして、次にドタンという音がして何人かが走る音がする。そして静かになった。

(フライア! どうした?!)


 カイルはトーチを起動した。

 すると、フライアがいたはずの場所には誰もいない。そして、3つの点が急速に倉庫から離れて移動するのがわかる。そこにマーカーをつけた。


(さらわれた?!)

 カイルは小窓から飛び出し、トーチを頼りに後を追う。しかし、途中で海に阻まれた。岸から出ていく小舟が見える。マーカーはそこだ。


(小舟に乗せられた?!)

 フライアが小舟に乗って連れ去られたことがわかると、逡巡した。

(どうする?)


 しばらく見ていると、その小舟は大きな運搬船へと付け、何人かが上がっていくのが見えた。しかし、何といっても暗いので、フライアを連れて行ったのかどうか遠目では確信がない。


 2月だ。水は冷たい。それにこの距離を泳いだことがない。もし、たどり着いても、船にどうやって上がる? 綱はあるのか?


 カイルはもう一度トーチを見た。1番倉庫の周りには誰もいない。フライアはそこにはいないのだ。

 だとしたら、あれがフライアなのだろう。


 トーチを見ると、船には7人がいることがわかる。3人が小舟から来たとしたら、4人は当直だ。トーチが感知するということは、それは100メートル以内だということだ。


 …覚悟を決めるしかない。


 幸い、さっき拾った穿孔工具、そして短剣はある。縄がなければ、この二つを使って船に上がる。カイルは革袋の木屑を港の建物の隅に隠した。そして、上半身の服を脱ぎ、海に飛び込んだ。


 恐ろしく冷たい! しかし、なんとか泳げる。あの船が出たら、フライアが連れ去られる。それはまずい。なんとしても助けなければ…。


 幸い、船はそんなに遠くない。頑張れ。もう少しだ。

 自分を励ましながら、冷たい水をかき分ける。湖より海は泳ぎやすい。


 フライアを失うわけにはいかない。それはバンリオル私兵としての大失敗を意味し、ミナとの結婚も遠ざかる。絶対に任務で失敗することは許されない。今までの実績が一挙に消える。カイルには後がない。


 フライアが自分にとってどれだけ貴重な存在だったかを思い知りながら、カイルは必死に泳いだ。



 やっと船に着いた。息が白い。小舟はロープで運搬船に括りつけられている。小舟に上がり、そこでトーチを起動する。すぐ上には誰もいない。皆奥に入っているようだ。


 カイルは船によじ登ろうとする。小舟の縁に足をかけ、濡れたロープを握る。指がかじかみ、うまく力が入らない。波に合わせて身体を持ち上げ、一気に舷側にしがみついた。なんとか船の甲板に上がる。そこで指先や腕を動かして、身体をならす。


 船内から声が漏れる。当直たちだ。酒でも飲んでいるのだろう。船に残っている当直たちに見つからず、フライアをみつけなければならない。カイルはそろりそろりと移動した。

 マーカーがあるから水平の位置はわかるが、上下の情報はないのだ。


 * * *


 バンガは積み荷を移動してフライアの姿を隠すと、「せいぜいいい夢を見るんだな」と捨て台詞を残し、出口に向かおうとした。

 もう一人の男が先に出口を出ようとして一歩踏み出したとき、いきなりふっとんで、どさっと倒れた。


「な、なんだ?!」


大事な相棒を奪われ、怒りのカイル。それだけではなく、カイルの結婚もかかっている。何が何でもフライアを取り戻さなければ…。


よかったら、ブックマーク、お願いします m(__)m


用語集


ミナ … MBAを取得したあと、異世界に来て、自由港を作り上げようとしている。

カイル … 元冒険者でミナの恋人。今は大商人バンリオルの私兵

フライア … 先輩のバンリオルの私兵で姿を消す魔法が使える

バンリオル …大商会。代表のボリックはミナを支援している。

ナスコム … 認識阻害魔法

アーガリア … ミナたちが住む大陸の向かいの大陸

トーチ … 索敵用の魔法具

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