異国でのカイルの任務
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。ミナを愛するカイルは、ミナにふさわしい男になるために、大商会バンリオルの私兵として自分を磨いていた。海の対岸にある大陸に渡り、そこで新たな任務を与えられる…。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
第99話 ドラーハーの夜
ミナが地方回りに出る2週間前の2月のこと。
カイルとフライアを乗せた船は、アーガリア大陸の国スラーラのドラーハー港に着いた。そこから降りて、ドラーハーの港町を歩く。
ここはヨーカイダ大陸とは全く異なる服装をしている。カイルとフライアはまず、港に近い商店街の服屋に入る。そして、現地の服を買った。そのほうが歩いていても目立たないからだ。
それは足首より少し上でしぼめてある、ゆったりとした幅のあるズボンだ。シャツの袖も緩やかで、同じく手首のあたりでしぼめるようになっている。色も派手な色が多く、赤や黄色が普通だ。その上に黒や茶のベストのような上着を着る。これが標準スタイルだ。
今は2月の終わりでまだ寒いので、長い羊毛のフード付きのケープを羽織る。腰には剣。そして、カイルはそのフードを深くかぶって顔を隠した。
フライアも男の服を着ているので、カイルの隣で歩くと少年のようだ。二人は荷物を抱えて港近くの倉庫街へと歩いて行った。
「ここよ」
とフライアが案内する。フライアはドラーハーに何度か来ているようで、街の様子もよく知っていた。
その倉庫はバンリオルの巨大な倉庫だ。裏手には使用人用の宿舎があり、今夜はここに泊まる。二人はその一角にある事務所に入っていく。
「フライアよ。それから、こっちはカイル。旦那様の用事で来たわ。これが手紙と…。これは報告書」
そう言って、フライアは机に紙の束を置いた。
「ああ、ご苦労様です」
60代くらいの丸顔で頭の毛の薄い男性が二人を迎えた。黄色のベストに水色のシャツを着ている。報告書を部下に渡し、自分は手紙の封を切った。
「ふむ…」
支店長トーマムはカイルを眺めた。
「わかりました。では、奥に行って、説明をしましょう」
そう言って二人を案内する。
カイルとフライアは、ルーガンの残党の一掃以外にも、同時に他の仕事を受けていた。それはバンリオルの荷が盗まれている疑いの調査だ。
スラーラで産出するビャクダンやキャラなどの高価な香木が、コブルーに到着するときには減っている。しかも、一見わからないように、木の芯を抜き取られているのだ。これは、積み荷検査の後で抜かれた可能性が高かった。
香木は高価なので、少し抜かれただけでもかなりの損害だ。それがしばらく続いている。これは調査せざるを得なかった。
調査は夜の港の保管倉庫だ。税関検査後の積み荷を置く場所だ。それまで時間があったので、フライアはカイルを誘って、街の市場にやってきた。
あまりにも人が多く、いろいろな音が混じっている。
アーガリアの人々も、ヨーカイダの人々もそれぞれぞろぞろと歩いて、市場の商品の品定めをしている。
売り買いの声もあれば、ケンカの声も聞こえる。
それから、笛の音が聞こえ、小さな小動物を操る大道芸人もいる。火を飲み込んで見せる大男もいる。怪力を示すために、大きな岩を持ち上げる男もいる。やんややんやの喝采をもらい、金を投げてもらう。
うまく行けば、怪力を見込んだ仕事が得られるのだろう。
カイルはこういう見世物を初めて見た。
「すげぇ…。世界は広いんだな」
「そうよ。やっとわかった? 世間知らずの坊や」
とフライアがニヤリとして言うのが憎たらしい。
しかし、本当に世間知らずだと思った。この世界は広い。今更ながら気づいた。
バンリオルの訓練所で学ぶ知識も幅広く、自分がいかに無知かを思い知ったが、実際に目で見るものはさらに衝撃だ。
エルノーから出て、騎士団に入って、それから世界はどんどん広くなった。今や異国の服を着て、他の大陸にいるのだ。
(こんな世界をいろいろ見ているフライアから見れば、本当に俺はまだ青いな…)
自分が傲慢なことは最近自覚していたが、実際に知らない世界を見せられると、どんどん自信が消えて、ため息をついてしまう。
「なに『自信がなくなった~』みたいにため息ついてんの?」
フライアに肘で小突かれた。気が弱くなったのを見抜かれたのが悔しい。
「あんたはバンリオルに認められてるんだから、しっかりしなさいよ」
「…それ、俺を褒めたのか?」
「褒めてない。はっぱ掛けただけ」
「あっそ」
小憎たらしい女なのだが、役に立つのは事実だ。
カイルはフライアのおかげでかなり仕事がラクになるのを認めていた。自分の功績の半分は、フライアのおかげだと思っていた。
だんだん夕方になると、市場の上には提灯がともる。そして、屋台が並んで、酒や炭火焼きの肉がテーブルに並び、たくさんの男や女が酒盛りをする。特別な日ではなく、これが港の日常なのだ。
カイルとフライアもその中にいた。カイルは今まで食べたこともない肉や料理に不思議がりながら、軽く食事をした。
「これからが本番なんだから、食べ過ぎて動けなくならないようにね」
(ああ、…うるせぇ…)
まるで姉ヨーカのようにフライアはカイルに指示するのだった。
上弦の月は西に少し傾いていた。半月とは言え、結構明るい。
夜のドラーハー港は、潮と木材や香辛料の匂いが混じっていた。
波止場に近い1番保管倉庫は、灯りが落とされ、番小屋だけがぼんやりと赤く光っている。ここはバンリオルの香木の保管されている場所だ。
昼間に支店長が倉庫の品を帳簿と確認したとき、数字は合っていた。本数も重量も、検査印も。
だから、もし荷が抜き取れられるとすれば、夜の倉庫の中だ。その現場を押さえるか、証拠を押さえなければならない。
フライアは正面の扉に立つ。ナスコムで姿を隠している。誰かが来たら、カイルの姿を消す予定だ。とはいえ、月明かりの倉庫内だから、すぐにみつかることはない。
扉には頑丈な錠がかかっている。ここからは入れない。裏手の高い小窓は、簡単な木枠だ。支店長は昼間、わざとその窓の鍵を中からこっそりと外していた。
カイルはナイフを隙間から差し込み、音を立てずに窓を開け、中へ滑り込んだ。
カイルが真にバンリオルの戦士となる試練が始まる…
用語集
ミナ … MBAを取得したあと、異世界に来て、自由港を作り上げようとしている。
カイル … 元冒険者でミナの恋人。今は大商人バンリオルの私兵
フライア … 先輩のバンリオルの私兵で姿を消す魔法が使える
バンリオル …大商会。代表のボリックはミナを支援している。
旦那様 … バンリオル商会代表のボリック
ルーガン…バンリオルのライバル商会でバンリオルに掃討された
エルノー … カイルの住んでいた村
ナスコム … 認識阻害魔法




