ミナの脳が高速回転し……面倒事を作り出す
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。アンドリオンは領主となって1年経ち、ミナとともに視察の旅に出た。すると、最後の訪問地でアンドリオンを暗殺しようとした子爵の娘が、ミナに窮状を訴えた。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
「わたくしは、結婚したい相手がいたのでございます。ところが、いきなり子爵を継ぐことになり、そのかたとは身分違いということで…」
マーギナはとつとつと話し始める。
「まあ、そうなのですね」
ミナは興味を持って聞き始めた。
ここでも身分の問題だ。もちろん、相手は平民ではないのだろうが、子爵とはいえ、領地を統治する立場となると、地位の低い貴族では結婚を反対されるのはよくあることだ。
「でも、父に期待され、頑張ってまいりました。でも、昨年の夏、大変な事態に…」
「まあ、何が起きたのですか?」
話に聞くと、ブリア領主の指示で造っていた防御のための城壁が途中で放棄されたため、山と山の間を半分塞いだまま、残ってしまった。
そのせいで、大雨が降った際、狭くなった通路を流れ込む水が急流となって、その下の村に洪水を起こしたのだと言う。
「わたくしが子爵になってから、いきなり洪水になり、村は食べ物がなくなり、この冬はとても苦しい状態です。わたくしは村から非難を受けることになってしまったのです」
「まあ…。それはお気の毒な…」
父親の無罪は彼女の誤解だろうが、この事件のほうが問題だった。それを解決しなければならないだろう。
要するに、自分には統治する力がない。好きな人とも結婚できない。だから、何が何でも父親に戻ってきてほしい。父の罪は絶対に誤解に違いない。
今の不幸のすべての責任はブリア侯爵にある。だから、なんとかせよと言いたいのだ。
「かしこまりました。では、明日、その調査にうかがわせて行きたいと思いますが、ここからどのくらいの距離にございますか?」
「えっ、よ、よろしいのですか? それは解決できるのですか?」
「ええ。もちろん。解決できるできないではなく、解決しなければなりません。どう解決できるのか、現場を見せていただければ、何か良い策が出るかもしれません。
農民が困っているのを解決することこそ、統治者の役割ですわ。わたくしも全力でお手伝いさせていただきます」
ミナが明るい顔で力強く答えると、マーギナは心の底から驚いたようで、ミナを見る目がまるで女神を見るような目に変わっていった。
* * *
翌日、ミナは午前中にティルダスの競りを見て、市場周辺の調査を終えると、午後にはマーギナと一緒にフレスタに向かった。アンドリオンはまだティルダスに残り、翌日合流する予定だ。
ティルダスから東へ馬車で半日ほどで、フレスタに着いた。城壁はそのまた東の国境沿いなので、まずは洪水が出たというビルガン村を見に行くことにした。
ミナはフレスタの主席行政官であるナードンと、土木技師であるフッタール、それにミナの護衛たちを連れてビルガン村に向かった。
「村は2つの山のふもとに位置しております。壁は…ここからは見えませんが、あのあたり」
と、ナードンが見晴らしの良い小高い丘から地形を説明してくれる。
「今までも大水はなんどかありましたが、昨年の夏の大雨はひどく、村全体が水没し、田畑が全滅いたしました。その責をマーギナ様が負うことになり…」
それは確かに気の毒な話だった。
「本来は、山からの水はこちらの川に少しずつ流れ、緩やかに流れるはずなのですが、城壁のせいで川に流れず、村を直撃したのでございます」
なるほど、とミナは思った。これは確かに、城壁を途中までつくりながら、それを放棄し、その影響を考えなかったブリア領主の責任だろう。
その危険性を指摘できなかったブリアの技術部の官僚たちの責任でもある。
今や巨大な城壁は、領主の間違った判断の負の遺産として見られているのだ。
しかし、今それを言っても仕方がない。アンドリオンが多方面に忙しく、未来の危険性を予知する余裕がなかったのも確かなのだ。
「で、村に食べ物を補給したのですか?」
「はい。なんとかぎりぎりでございますが、バッカレー伯からの補給で飢えはしのげましたが、多少の疫病が発生し、結局、村に7人の犠牲者が…」
「まあ。それは災難ですね」
ミナは心が痛んだ。
「村人の非難はマーギナ様に向き、大変おつらい思いをされていらっしゃいます」
「お気の毒な」
マーギナにしてみれば、踏んだり蹴ったりとはこのことだ。父親は罰を受ける。恋人とは結婚できない。毎日の責任が重い。さらに村人に非難される。いいことは一つもないのだ。
あの見るからにふわふわした天真爛漫な女の子風のマーギナには、困難を乗り越えようとする根性はなさそうだ。「愛されるべき自分が、なぜ憎まれるの?」という心の声が聞こえそうだ。
「…フッタール、あなたはどのようにすべきだと思いますか?」
中堅の土木技師のフッタールに意見を聞いた。
「私が思いますに、この村の降水量は差が激しいのです。ここは盆地となっておりまして、雨が降れば洪水になりやすく、雨が降らなければ、干ばつになりやすいのでございます。
ですから、水をもっとうまく利用できるような構造にしませんと…」
「なるほど。つまり、貯水池を造るのですね?」
「は。さようでございます。水利技師がいなければ、私にはそれが可能か、わかりかねますが」
ミナは少し考えた。
水利事業は大昔から、統治者の面目躍如たる事業だ。税金を取り立てるのも、このような事業をして村を豊かにさせてこそ理解されるのである。
(これは、貯水池を造るしかないか…)
ミナはそう思ったが、もちろん土木や水利に関しては素人だ。タンブリーに戻って、技師たちの知恵を借りなければならない。地質や天候の専門家も必要だ。
明日はアンドリオンと共に城壁を見に行く。彼もその必要性が理解できるだろう。
(成功すれば、水が富を生む。でも、失敗すれば、…フレスタはもう一つ負の遺産が増える。造るにしても、その財源はどうするのよ?
ぐぐぐ…。また面倒なことに首をつっこむつもり?! ミナ…)
ミナは自分で突っ込みを入れる。
(いやいや、私は世界が私に望むことをする…。それが世界の望みなら…)
また自分に余計な責任を負わせて苦しくなるのではないかと思いながらも、感情とは別の部分の脳が、新たな計画にワクワクするのだった。
自分が大変になるのに、つい頭を働かせてしまい、事業を広げてしまうミナ。
苦しい…と思いつつ、事業がおもしろくて止められない…。
よかったら、ブックマークしてくださると、とてもうれしいです!
用語集
ミナ … MBAを取得したあと、異世界に来て、自由港を作り上げようとしている。
アンドリオン … 若きブリア領主
マーギナ … フレスタの子爵。父はアンドリオンを暗殺しようとして罰を受けた
ティルダス … フレスタのあるバッカレー領の城下町
タンブリー … ブリア城のある街




