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アンドリオンのトラウマの地フレスタの子爵

MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。税収を増やすため、領地内で競りを始め、それを機に領主アンドリオンとミナは領地視察の旅に出た。最後の訪問地バッカレー伯爵領ティルダスにつくと…。


このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください


初めてお読みになる方は、下に用語集があります!


第98話 負の遺産の活用法


 ミナは馬車の中ではせっせと企画書なるものを見て、考え、書字板にメモし、時々美しい風景を見て過ごしている。


「なあ、ミナ」

 かまってもらえないので、自分から声をかけることにした。

「何でございましょう。アンドリオン様」


「君はずっとそれを書いているが、いったいなんなのだ?」

「これでございますか?」

 ミナはウフッと茶目っ気ある目で笑う。


「新しい税収の案でございますわ」

「なに? 新しい税収と?」

「はい。後日ご提案させていただきます。お楽しみに」


「ふ~む。クレストンでも市内を見て回ったようだが、それに関係するのか?」

「はい。いろいろと調べております」

「そうか…」


 アンドリオンとの旅は北西のクレストン伯爵領を何事もなく訪問し、次に北東のバッカレー伯爵領へと向かっていた。


 バッカレー伯爵領には、あのフレスタがある。アンドリオンを暗殺しようとした、あまり思い出したくない体験をしたシューマイル子爵の領地だ。


 その新しく子爵となった娘が今回バッカレー伯領の城に来ていると思われた。 

 アンドリオンは少し気が滅入る。


 アンドリオンはミナに何か言いたげだ。

「なにかお悩みでも?」


「ああ…。君は知っているか? 私はフレスタで殺されそうになったこと。一年半前になるな。フレスタはバッカレーの領地内だ」

「え? そんなことがあったのですね?」


「ああ。そのとき、カイルもいたぞ。護衛の1人として。ラフカーンの部下としてな。皆で助けてもらったので無事だったのだが」

「まあ、そうでしたの?」


 カイルが騎士団に参加するようになったころだろうか。

 ミナはアンドリオンが大変な目に遭ったのは聞いた気がするが、詳しくは聞いていなかった。

 ラフカーンがそのときの事情を簡単にミナに説明した。


「そのフレスタの貴族が今夜の宴に来るであろうな」

「まあ。そうなのですね…」


 要は会いたくない人物が来るので、宴に出るのはおっくうだということなのだろう。

 しかし、ミナができることはなさそうだった。


 バッカレー伯の城のある街ティルダスに、一行は午後につき、夕方からの宴が始まる。


 アンドリオンはネオルの失敗から学び、一人で登場し、ミナはラフカーンにエスコートされていた。

 そして、何人かの貴族が挨拶を終えると、一人の若い女性がアンドリオンの前に跪いた。


「ブリア領主アンドリオン様。シューマイル子爵マーギナでございます」

「な、なに? そなたがシューマイル子爵…」


 娘が継いだとは知っていたが、そのマーギナという娘は、驚くほど美しい娘だった。


 栗色の髪をゆったりと編み上げ、ひらひらと細いおくれ毛が顔を縁取る。大きな目を濃い茶色の長いまつげが取り巻き、唇はふっくらとサクランボのようだ。


 年のころは19か20であろう。小さい領地とはいえ、とても統治者には見えなかった。


 もともと兄が二人いたので、統治者として育てられてはいなかったのをアンドリオンは知っている。


 兄二人は戦争で亡くなっており、父の子爵はアンドリオン暗殺未遂で断罪され隠遁し、子爵位をマーギナが継ぐことになった。それはちょうど一年前である。


「領主様、折り入ってお話しさせていただきたいことがございます。ぜひ、お時間をくださいませ」

「な、なに…」


 アンドリオンは意表をつかれ、どう答えるべきかわからなかった。

 すると、バッカレー伯が歩み出る。


「これ。子爵。無礼であろう」

 そう叱責したが、マーギナはそのバッカレー伯をキッとにらみ返す。

「いいえ。これは領主様にも責任のあるお話。ぜひ、お時間をくださいませ」


 ミナは扇で口元を隠しながら、ラフカーンに言った。


「騎士団長。あの方、何をお話になりたいのだと思います?」

 ラフカーンも苦々しそうにマーギナを見た。


「領主を暗殺しようとしておきながら、あのような態度。もしかすると、事情を知らないのかもしれませんな」

「な、なるほど…」


 つまり、父親の処分は不当だと言いたいのだろうか。

「しかし、あれは内務大臣ダーグラント卿の采配。領主には責がないはず。何を求めているのだか…」


 マーギナは胸の空いたドレスを着て跪いているため、アンドリオンからは胸の谷間が丸見えだ。


(私を色香で誘惑しているのか…?)


 アンドリオンはさっさとどこかにやらなければと思い、ミナに「来い」と手招きする。

「領主様。お呼びでございますか?」


「ミナ。シューマイル子爵はブリア侯爵に話があると言う。君が行政顧問として代わりに話を聞くがよい」

「は、はい。かしこまりました」


 驚いたのはマーギナである。唖然として言葉が出ない。同じくらいの年の娘ではないか、とバカにした表情がありありだ。行政顧問などという役職が信じられない。


 ミナはさっさと連れていけ、というアンドリオンの意図を理解したので、適当にあしらえばよいと思った。


「バッカレー伯。恐れ入りますが、お部屋をお貸しいただけますか?」

 と、ミナはバッカレー伯に向かって言う。


「かしこまりました。すぐにご案内いたしましょう」

「あ、あの…」

 マーギナは何か言おうとしたが、抵抗できなかった。



 ミナは不満気なマーギナと、応接室で対面する。

「ブリア侯行政顧問のミナでございます。本日はどのようなご用件でございましょうか?」

 と笑顔で言った。すると、マーギナは表情をツンとした顔に変える。


「わたくし、あなたには何もお話しすることはございません」

 その続きは「どうせ何もできないでしょう」と言いたげだった。


 その態度でミナもわかった。アンドリオンに泣きつきたいのだ。


 美しさを武器にできると思ったのだろう。それに、ミナの見かけはマーギナと同じくらいの年頃だ。話が通じるはずがないと思うのも無理はない。


「まだお若いのに、子爵として領地を治めるのは大変なことでございますね。何かお手伝いができまして?」

 彼女はそっぽを向いて黙っていた。ミナに助けを求めるのはプライドが許さない、と言った様子だ。


 こういう時は、相手が言いたそうな怒りを吐き出させるのが良いだろう。黙っていられては会話が始まらない。


「子爵は、お父上が隠棲を余儀なくされた理由をご存じですか?」

 するとマーギナは待ってましたとばかり、ミナを見て、にらみながら言った。


「父は騙されたのですわ。侯爵は父が裏切ったのだと思い、父を捕らえにやっていらっしゃいました。でも、反対に父の護衛たちに囲まれて…。これは誤解なのです」


「まあ、そうなのですね?」

 ミナはその話が間違っていることを知っていたが、反論はしなかった。


「で、そのことを侯爵に訴えて、どうなさりたいのですか?」

「父を復帰させていただきたいのです」


 そのとき、マーギナの表情に悲しみの感情が現れた。泣きそうになったのだろう。


「なるほど…。わかりました。では、そのように侯爵にお伝えさせていただきます」

 ミナは采配する立場にない。だから、さっさと終わらせようと思ったのだ。


 しかし、マーギナはすごく驚いたように目を見開いた。

「あ、あの…。侯爵に取り次いでいただけるのですか?」

「はい。ご采配は侯爵がなさるでしょう。その結果をお待ちください」


 マーギナはすごくホッとしたようで、ミナに対する態度が変わった。


 マーギナはゆっくりと両手で顔を覆って、しばらく黙っていた。


「あ、あの…。もう少しご相談させていただいても?」

「ええ、もちろんです。どうぞお話しくださいませ」



カイルがルーガンを一掃する一方で、ミナとアンドリオンは過去の清算を…。


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用語集


ミナ … MBAを取得したあと、異世界に来て、自由港を作り上げようとしている。

アンドリオン … 若きブリア領主

クレストン … ブリア領地内の街

カイル … ミナの恋人で、今は大商人の私兵

ラフカーン … 騎士団長

ネオル … 最初の視察地。ミナが嫌がらせをされた

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