騙されるルーガン一味
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。ミナを支援する大商人バンリオルはルーガン商会に取り付け騒ぎを仕掛けられ、倒産寸前まで追い込まれたが、ミナの案で救われた。そして、私兵カイルを使って、ルーガン残党に反撃に出る。カイルは残党たちに保険金詐欺を持ち掛ける…。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
第97話 残党一網打尽
夜明け前のコブルー港は、まだ青黒い闇の中に沈んでいた。霧が低く漂い、波止場の灯火がぼんやりと揺れている。
船はすでに準備されていた。
中型の帆船の貨物船だ。積み荷が次々と大型の標準箱で運ばれてくる。甲板には油の匂い。濡れた縄。張られた帆。
その前に、16人の男女が立っていた。ルーガン商会の残党だ。
かつては誇り高かった者たちだが、今は追い詰められた獣の群れのようだ。
レディアが低く言う。
「……あれが荷? あの橋みたいなのは何?」
まとめ役のレンダが肩をすくめた。
「あんた、最近のコブルーを知らないのか? 標準箱で搬入することになってるんだよ。箱ごと移動するから、船に橋みたいなのをつけてんだ」
レンダは帳簿の名前を見る。
「この名前は間違いねえだろうな。船が沈んだら、この名前を消す。名前が偽名なら、消しても意味ないからな」
「ああ、その名前でいい…」
ドルクが重々しく言った。
「なんと16人もいるとは思わなかったぜ」
アハハとレンダは笑う。
「このくらいの人数が疑われにくい。助かったぜ。少ないと、奴隷を使ったと思われるからな」
荷の搬入が終わったのを見て、「乗れ」とレンダは言った。
一人ずつ、標準箱用の頑丈なタラップを登る。レンダが人数を数える。
甲板から奥に入り、大きな船室に案内される。16人がハンモックで寝られるくらいの大きさだ。入り口の扉はバタンと閉められた。
船室からは何も見えない。
やがて扉が開き、レンダが顔を出して、短く言う。
「出すぞ」
そう言って、また出て言った。遠くで船乗りの声がする。
「船が出るぞ~!!」
錨が上がる。帆が風をはらむ。港の灯がゆっくり遠ざかる。太陽が昇る。南に向かって船は動き出した。
16人の残党たちは誰も口をきかない。ただ、木材が軋む音と波の音だけが続く。
半日ほど経った。その間、パンとチーズが配られる。皆、黙ってそれを食べた。
扉には鍵はかかっていない。だが、出る気がしなかった。遠ざかるアラゴンキアを見るのは気が重かった。それに2月の船上の風は冷たい。
パンを食べ終えたころ、いきなり「ドスン…!」と腹に響く音が聞こえ、船が揺れる。
「なんだ、これは…。もしかして…」
みんながざわつく。
「今のは海賊船か…?」
「……本当に沈めるのか?」
もう一度、船が大きく横揺れした。
「俺たち、まだ乗ってるぞ?!」
悲痛な声で叫ぶ男。
「騙されたの?!」
レディアが青ざめる。
「いや、そんなはずはない。あいつだって、この船に乗っていたぞ?」
ドルクが叫ぶ。
急に全員不安にかられる。
「あいつ、もしかすると出航直前に降りたとか?」
「ま、まさか…」
ドルクが慌てて扉を開けようとすると、向こうから扉が開いた。
「おい、みんな! 船を乗り換えるぞ」
レンダが怒鳴る。
ホッとした半面、新たな緊張感に包まれた。
「金は?」
「心配するな。用意してある」
レンダは言って、全員を上に案内した。
ドルクはもう一艘の船が横付けされているのを見る。縄が投げられ、鉤がかかる。
それは確かに海賊船だ。海賊旗が翻り、乗っているのは海賊たちだった。
ドルクは突然恐怖にかられる。
(金を奪われ、俺たちは殺されるんじゃ…)
「金はあっちに積んである。受けとれ」
レンダはそう言って、向こうの船の男を指さした。その足元には確かに、金を運ぶための金袋がある。
「移れ」
「ま、待て……もうか? 早すぎないか?」
ドルクは何かがおかしいと感じる。しかし、抵抗できる状態ではない。
「予定通りだ」
レンダはそう言った。
海賊たちは慣れた手つきで一人ひとり、太い腕で引っ張り、船に移す。
最後にレディア。ぶるぶると震えて、足が出ない。海に落ちたらと思うと怖くてたまらない。それをレンダが後ろから抱き上げ、持ち上げる。そして、海賊がそれを片手で引き揚げた。
「…16」
レンダは全員を数え終えた。
「後は任せだぞ」
海賊たちは16人をひとまとめにして、船室に歩かせた。
それを見送ると、海賊が鉤を外し、レンダの乗る船をドン!と蹴る。
一番後ろのレディアが振り向き、ザッと髪の毛を逆立てる。
「な、なんで?!」
沈めるはずの船にレンダが残っている。
騙されたことに気づいても、もう遅い。
レンダは甲板に立ち、腕を組んで、遠ざかる海賊船を見送った。そのまま船は南のアーガリア大陸に向かう。海賊船は北のコブルーに戻る。
「これで、ルーガンの残党は一掃した」
「やるじゃん」
いつの間にかフライアがそばに立つ。
「ああ、いい案だろ。この船はついでにアーガリアに行って、そのまま荷を下ろす。一石二鳥だ」
フライアは足元の縄の束を踏み台にして、背の高いカイルの肩に無理やり腕を乗せ、ふたりで遠ざかる海賊船…に偽装したトガリアの船を見る。
これから残党は再びコブルーに連れ戻され、港湾局の兵に引き渡され、拘留されるだろう。
「あんたの策?」
「なわけないだろ。俺が海上保険なんか知るか。船にだって、最近やっと乗れるようになったんだぞ」
「だよね。旦那様の策か」
「そういうことだ」
カイルはバンリオルの訓練所で、海上保険についての会話の仕方の特訓を受けた。船乗りの常識や船の見分け方なども即席で学んだ。
「ふん。ルーガンごときがバンリオルに勝てるわけないのさ」
「ああ。俺がいる限り、バンリオルは守ってやる」
フライアはじろりとカイルを見る。
「あんた、何様?」
「俺様だ」
そう言って、えらそうに肩に乗せられたフライアの腕をはらうと、すかさずフライアにスネを蹴られた。
「イデッ…」
「ま、ちょっとは成長してきたってのは認めてあげるよ。髭面の坊や」
「いつか泣かす…」
カイルはスネをさすりながら、腰に手を当てて笑っているフライアをにらむのだった。
(……絶対にやめさせてやる。その「坊や」呼び…)
それができないうちは、ミナと結婚できないと自分で決めてしまっていた。
無事にルーガン残党を一掃したカイルとフライア。次はアーガイル大陸の国での出来事…。
カイルが決断を迫られる…。
用語集
ミナ … MBAを取得したあと、異世界に来て、自由港を作り上げようとしている
ルーガン商会 … バンリオルを殺そうとして、逆につぶされた
レディア … ルーガン商会の大番頭の女
レンダ … バンリオルの私兵カイルの偽名
ドルク … ルーガンの大番頭
アラゴンキア … ミナたちの国の名
フライア … 姿が消せる魔法を使うバンリオルの私兵の女
トガリア … バンリオルと共に国のために働く商会
アーガリア … アラゴンキアのある大陸の向かいの大陸
旦那様 … バンリオル商会の代表ボリック




