ミナ、自分の知らぬ間に報復する…
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となり、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。しかし、ブリアは長年の侵略で金を使い、資金が足りない。そのため、ミナは農協の仕組み「農民支援制度」を領地全体で採り入れることにした。やっと準備が整い、初の競りが行われた。領地内の競りを見るために、ミナはアンドリオンと視察の旅に出た。すると、アズーラ伯の別邸で馬糞を撒かれるという嫌がらせを受け…。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください!
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
「はあ…。でも、今回のことと身分は関係がないかと…」
ミナは眉をしかめる。
確かに、嫌がらせができるのは上から下の身分に対してだけかもしれない。だが、嫉妬は身分と関係ないだろう。
「別に身分など欲しくはございません。昨日はただ人の恋路を邪魔した余計な女だと思われただけですわ。普通に仕事をしている分は、平民でも皆様がちゃんと話を聞いてくださっていますし」
ミナは余計な身分など持ちたくなかった。貴族になると平民とは結婚できない。そしたら、カイルと結婚できなくなるではないか! それは逆に困るのだ。
「そうなのか? 恋路を邪魔した余計な女だと?」
アンドリオンはとても驚いたように目を見開いた。
「他に何の理由がございまして?」
逆にミナが驚く。
「ラフカーン。どう思う?」
ラフカーンも騎士団長として宴に出ていた。
「は、私もミナさんのおっしゃるとおりかと…」
ラフカーンは控えめに言った。
そして、ひと呼吸おいて、ひとこと付け足した。
「領主はミナさんとばかり踊っておいででした」
「そ、そうか…」
よく考えると、予測できなかったわけではない。
アンドリオンは、あの宴が伯爵の娘たちの見合いの場になっていることに気づいていた。そのため、逆に彼女たちと踊るのをつい拒んでしまったのだ。
それは伯爵に対して、失礼なこととなっただろう。
ミナへの嫌がらせは夫人の差し金かもしれない。
「身分をわきまえよ」という意味だ。
(ミナと踊りたかったというのもあるが…)
そして、「はあ…」と大きなため息をついた。
「すまぬ。配慮がかけていた」
アンドリオンは自分のふるまいで、ミナに敵を作ってしまったことを素直に反省した。
* * *
早朝の競りは無事に終わった。ネオルの街はタンブリーほど大きくないので、競りも少し規模が小さい。そのため、思ったよりも早く終わった。
このあと、アンドリオンはアズーラ伯と打ち合わせがあり、夜にはまた食事会がある。そのときに、アズーラ伯の娘たちとはまた会うだろう。ミナはそれには参加しない。
「アンドリオン様、あのお嬢さんたちに笑顔を見せてあげてくださいね」
(私に影響が出ますので)と心の中で付け加えた。
「わ、わかった…」
「わたくしはこの街を少し観察してから帰ります」
「そ、そうか? …気をつけるのだぞ」
アンドリオンは少し心配そうだったが、ミナが城にいるのも同じように不安を感じる。
「ゾーイ。ミナを頼む」
「かしこまりました」
そう言って、ミナに護衛を5人つけて、城に戻っていった。
「ミナ殿、どこに行かれるのですか?」
ゾーイが尋ねる。
「中央市場や、その周辺を見て回ろうと思います。…と言ってもどっちの方向かしら?」
地図がなければ、まったくわからない。地元の者がいないのだ。
年配の護衛サーライが進み出て、「うろ覚えですが、私がご案内します。たぶん、こちらです」と城を背にして歩き出す。
「私はカリディオン様のお供でこの街には何度か来たことがございますので」
そう言いながら、前に立って歩く。助かった。
今なら、活気のある市場が見られるだろう。競りの終わった野菜が持ち込まれているかもしれない。
でこぼこした古い石畳の道を少し歩き、広い広場に出た。たくさんの人たちが市場の準備に追われているところだ。
すでに商品を並べ終わっている店を見て、商品を見て回る。
護衛がぞろぞろいる貴族の令嬢風では、店主に気軽に声を掛けられない。向こうが恐縮して仕事の邪魔になるだろう。値札がないので、声を掛けられないと値がわからない。
仕方なく眺めるだけにして、街をそのまま歩いてみることにした。
すると、街の角に座り込んでいる男たちが何人かいることに気づく。浮浪者なのだろうか。しかし、それほどひどい格好でもない。
「サーライ、あの人たちはどうしてあそこにいるの?」
案内役の騎士に聞く。
「ああ、あの者たちは仕事を探している者たちなのです」
「え、仕事を探している?」
「はい。このあたりにいると、人夫を求めている者が声をかけるのです」
「まあ、そうなのですね?!」
ミナは驚いた。タンブリーでは見かけないからだ。
「なぜタンブリーでは見かけないのかしら?」
「はい。タンブリーは慢性的な人手不足でして、角に座って待たなくても、現場に行って仕事が欲しいと言えば、仕事があるのでございます。
また、元締めはたいがい中央市場にいますので、そこに行けば仕事がもらえるのです。しかし、多くの地方都市では仕事がそんなにございません」
「なるほど…」
今、建設ラッシュのコブルーでも人手不足だ。タンブリーでも木箱を作ったり馬車を作ったりと、人手が足りない。しかし、地方ではそうではないようだ。ミナはそれを知らなかった。
(…そうか。この世界では情報が行き渡らないから…)
ミナは少し考えた。
(人材の需要と供給が合っていない)
それは、カイルがグリエンダルで素材を売ったときにも思ったことだ。
欲しい素材の需要と供給が合わないと、買い取り価格が安くなってしまう。
街に仕事に関する情報の公的な場があれば、情報交換はしやすい。
そして、領地内で主要な街には、領主が運営する定期郵便制度がある。これに仕事の情報を乗せることができたら、人材の需要と供給が合うようになるだろう。
(うん、新しい事業のプランが湧いたわ…)
ミナは満足して、城に戻ろうとする。
すると、ゾーイが小声で言った。
「ミナ殿、今夜は大丈夫でしょうか。また何か悪意を仕掛けられる可能性は…。食事に何かするとか…」
「そうねえ。まあ、今夜はわたくしは早めに部屋に戻って、部屋でおとなしくしていますわ」
そう言って、ミナは市場に戻り、屋台でパンとチーズと果物などを買い、帰ることにした。自分の分だけで十分だ。
ミナは今回の旅で、自分が何をすべきなのかという目的をみつけた。
この領地の労働市場を変えるのだ。せっかく地方視察に来ているのだ。自分の目で地方の状態を見て、調査しようと決めた。
(よし、次は労働情報改革ね!)
アンドリオンが社交をしている間に、ミナは部屋にこもり、暖炉でチーズを温めてパンに塗ったものをかじり、果物やナッツを食べながら、食事の時間を惜しんでせっせと仕事情報改革の案を練った。
昔寝ずに頑張って企画書を書いた時のように。
(うん。個人で仕事を直接探したり、斡旋したりすると、領地には税金が入らない。でも、公的機関を通せば…)
…と夢中になって企画を練った。
領地の収入にならなければ、公的機関として仕事を斡旋する意味がない。
次の朝、フリーゼがミナの髪の毛を整えながら、昨日の夜、別館付きの侍女が三人ほどおなかを壊して寝込んだ、と報告した。
城から運ばれていたミナ用の夕食を、ミナが手を付けなかったということでこっそり食べたらしいということだ。
「自業自得ですわ」
フリーゼはそう言って、「ムフッ」と思わず鏡の中で笑ったのを、ミナは見逃さなかった。
次回から、ルーガン商会残党に大損害を受けそうになった、バンリオルの反撃の話が始まります。
用語集
ミナ … MBAを取得したあと、異世界に来て、自由港を作り上げようとしている
アンドリオン … ミナが住むブリア領の若き領主
ラフカーン … 騎士団長
ゾーイ … ミナ付きの護衛騎士
カリディオン … アンドリオンの父
タンブリー … ブリア城のある街
コブルー … ブリア領内の港。ミナが自由港に設計中
カイル … 元冒険者のミナの恋人で、大商人の私兵
グリエンダル … 素材買い取り屋
フリーゼ … アンドリオンがミナにつけた侍女




