ミナ、令嬢たちの嫉妬を受ける
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となった。ミナはブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。しかし、ブリアは長年の侵略で金を使い、資金が足りない。そのため、ミナが村で一人で始めた農協の仕組み、「農民支援制度」を領地全体で採り入れるこにとなった。それが領地内でうまく運用されているかを確認するため、領主アンドリオンは地方巡りをすることになり、ミナも同行した。そして、ネオル城での宴のとき、二人の伯爵令嬢がアンドリオンに挨拶に来た…。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください!
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
2人の伯爵令嬢は今にもアンドリオンに恋をしそうだ。
彼は今24歳の見目麗しい、身分の高い男性である。地方貴族の娘にはあこがれの存在なのだ。この宴はお見合いを兼ねているのだろう。
(私、きっとお邪魔よね…)
そう思って、少し離れることにしようとしたら、アンドリオンに手を掴まれた。
「君はここにいなさい」
「は、はい…」
(ぐぐ…逃げられない)
次々と貴族たちが挨拶に来て、それぞれに娘や息子を紹介していく。
アンドリオンがそれらを覚えているのかは知らないが、侍従の1人がそばにいて、彼が書き留めているので、おそらく後で特徴と名前を教えてもらうのだろうと思った。
(領主って大変…)
とはいえ、王族ほどではない。アズーラの貴族はアズーラ伯以下、子爵と男爵を合わせても10人もいないのだ。その家族が多いだけだ。
ひとしきり挨拶が終わると、そばに酒や料理が置かれる。
「領主様」
「ん?」
「こんなに大変なことをなさっているなんて、本当にご立派でございますわ」
と、ミナは褒めておいた。
「私のことも褒めるがよい」と言っていたが、こういう努力こそ、褒められるべきだと思う。外交ほど大変なものはない。ミナが一番苦手なことなのだ。
「ミナが褒めてくれるとは…」
アンドリオンはうれしそうにフフッと笑った。
緊張して周りが見えていなかったが、音楽が聞こえている。ダンスするものたちもいた。
「ミナ、踊るぞ」
「は、はい…」
(いやいや、私と踊るのではなくて、あの令嬢たちと踊るべきでは?)
そう思ったが、もう身体を引き寄せられてダンスに入ってしまった。
アンドリオンにはダンスが似合う。
踊るたびに少し長めのプラチナブロンドが揺れる。表情もやわらかく微笑んでいる。アンドリオンの本来の気品の高さが際立つ。
それを見るのはミナにとっても目の保養だ。
いつもはにらまれたり、しかめっ面をされたりして、叱られることが多いのだから。
思わずミナの目がうれしそうに輝く。
エカーリア付きのダンス教師の指導を受けて練習した甲斐があり、ダンスは優雅に踊れた。
身体を動かすのは、ミナにとってスポーツだ。
いつの間にか夢中で踊ってしまった。
その夜は早めに宴を切り上げた。次の朝は早朝から競りを見に行くことになっているからだ。アンドリオンは貴賓室へ戻り、ミナは別館のゲストハウスに戻っていく。ゾーイと侍女のフリーゼ、それにアンドリオンが付けた騎士二人が一緒だ。
「おや? ちょっとお待ちください」
少し先の建物の入り口に何かが置かれている。ゾーイがミナを止めた。暗いのでよく見えないが、その匂いでそこに何が置かれているかがわかる。
「こ、これは…」
騎士たちがそれを見て、顔をしかめる。
「なんということだ。これではこの建物に入れぬ。誰かがわざとやったに違いない。おい! 城の警備兵を呼んで来い!」
ゾーイが腹を立てた様子で、護衛の1人に指示をした。
(これはつまり…)
馬糞が別館の前に撒かれ、ミナが無理に部屋に入ろうとするとドレスが汚れるようにたくらんだ者がいるらしい。
そして、踏み込む前に気づいても、それを避けるのに時間がかかり、なかなか寝られない、ということだ。
(なんか、源氏物語にこんなシーンがあったっけ…)
帝の寵愛を受けた桐壺の更衣が、渡り廊下を通れぬようにされた話を思い出す。身分が低い桐壺の更衣に、身分の高い女御たちが嫉妬したのだ。
(…ということはつまり、私は嫉妬された?! 平民だし…)
う~ん、とミナは考えた。
確かに、結局アンドリオンは他の娘とは踊っていなかった。見知った顔の年上の夫人たちとは踊っていたが。
ミナはと言うと、初めてのダンスが楽しくて、つい誘われるままに踊ってしまった。
(ま、気持ちはわかるわ。独身の領主が地元にやってくるなんてこと、めったにないのに、私がじゃましちゃっているんだから…)
「すみません」という気持ちになってしまう。
(とはいえ、こんないやがらせは良くないな…)と心の中で、誰だかわからない相手の姿を思い浮かべ、バシッと頭を叩いておく。
あいまいにせず、「ダメなものはダメ」としっかり判断することを、心理学の先生に習ったのだ。
「ミナ様、こちらへ」
フリーゼが元の道に戻り、城の入り口付近にある長椅子まで戻るように勧める。そうすると、少なくとも匂いは避けられる。
警備兵たちがぞろぞろとやってきて、シャベルでザッザッと汚物を掘り出していく。ちょっとした夜間工事現場のようになっていた。
「どうしたのです?」
そこへアンドリオンの侍従長がやってきた。音に気づいて出てきたのだろう。
「侍従長様、別館の前に汚物が撒かれ、通れないようになっておりましたので、今、警備兵たちが除去しているところでございます」とフリーゼが答えた。
「なんと…」
侍従長は絶句し、「領主にご報告いたします」と踵を返した。
(いやいや、アンドリオンに言うほどのことじゃ…)
とミナは思ったが、ミナがどう思うかではなくて、領主に対する無礼ということになるのかもしれない。
(はあ…。宴に出るんじゃなかった…)とミナはため息をついた。そして、ふと星空を見上げる。そこには、満天の星空があった。
(きれいだな…。現代では見たことがない美しい星空。でも、星座がぜんぜんわからない)
ミナはこの世界が、地球とはまったく異なる宇宙の位置にあるのだろうと思った。星座は星を地球から二次元で見て作られる。宇宙の別の位置から見ればまったく姿が変わってしまう。だから、ミナが知っている星座が意味をなさないのだ。
(あの赤い星はアンタレスかな…。あっちの青白い星は…)
そんなことを考えて時間をつぶしていた。フリーゼが暖かい赤ワインを持ってくる。
「まあ! ありがとう」
それはこのタイミングで最高の飲み物だ。フリーゼは侍女の鑑である。
それをゆったり飲みながら優雅な時間を過ごした。
警備兵たちは小一時間ほどかけて汚物とにおいを取り除き、他の場所から持ち込まれたきれいな土が敷かれる。そして、ミナはやっと別館に戻ったのだった。
第95話 地方の問題点
翌朝は早くからアンドリオンと競り市に出かける。馬車には昨日と同じく侍従長とラフカーンが乗り、アンドリオンとミナだ。
「ミナ、昨日の夜は大変であったな…」
アンドリオンがしんみりと言う。
「いえ。わたくしはただ美しい満天の星を見ながら暖かいワインをいただいて待っていただけでございます。大変だったのは警備兵の皆さんですわ」
ミナはクスッと笑う。本当に、警備兵は災難だったろう。
「そうか。…君はいつでも楽しめるのだな」
アンドリオンはフフッと笑った。
「だが、問題点がわかった」
「え、何でございましょう?」
「君の身分だ。それがないから、こんなことになる」
「はあ。でも、平民は平民ですから…」
「いや、身分はその気になれば得られるのだぞ?」
「えっ?!」
それはミナにとって初耳だった。
この世界では、責任者として大きな仕事をするには上の地位が必要。そして、上の地位に上がるためには、身分が必要…。ミナはまだそれに気づいていない。
平民のミナはどうやってのし上がる?
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用語集
ミナ … MBAを取得したあと、異世界に来て、自由港を作り上げようとしている。
アンドリオン … ミナが住むブリア領の若き領主
エカーリア … アンドリオンの妹。元引きこもり
ラフカーン … 騎士団長
ゾーイ … ミナの護衛
フリーゼ … ミナ付きの侍女




