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初競りの興奮と、地方貴族の令嬢たち

MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で認められ、ブリア侯行政顧問となった。ミナはブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。しかし、ブリアは長年の侵略で金を使い、資金が足りない。そのため、ミナが村で一人で始めた農協の仕組み、「農民支援制度」を領地全体で採り入れるこにとなった。やっと準備が整い、初の競りが行われたのだが、商人たちは誰も声を上げない。ミナは青ざめた…。


このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください!


初めてお読みになる方は、下に用語集があります!



(手を上げて! 誰でもいいから、さっさと上げて! ええい、サクラを用意しておくんだった!)

 ミナは手に汗を握る。


 長い3秒。

 5秒。

 7秒。


(上げなさい! さっさと手を上げなさい! ここで上げないと、制度が死ぬ…ぐぐぐ)

 心の中で歯ぎしりしそうだ。自分が焦って立ち上がりそうだ。


 ジリジリと腰を浮かせるミナの肩を、アンドリオンが抱いてポンポンと叩いて抑える。


 そして……やっと一人の若い商人が手を上げる。


「開始値で…」

 おっかなびっくりだ。

 諸所でざわめきが聞こえる。


(よ、よかった…)

 ミナのドキドキが収まる。少なくとも、買い手が一人はいた。


 すぐ別の声が焦ったように続く。

「待て! うちはその1割増しだ」

 さらに手が上がる。

「2割増し!」


 一気に動く。

「いや、3割増し!」

 価格が跳ね上がる。


 農民の目が見開く。

 競り人が叫ぶ。


「3割! もういないか?!」

「4割だ!」

 商人の声が鋭くなる。


 会場が沸く。空気が熱を帯びる。


 農民の一人が震える声で言う。

「……値が上がってる」


 農民たちが互いに顔を見合わせる。通常の市場で売る時は、値が上がることなど絶対に体験しない。下げて下げて、やっと買ってもらうのだ。


 もちろん、もともとの開始値が安く設定されているので、最終的には似たような額になるのだが。


「おお…。俺の野菜が…。見たか、みんな! あれは俺の野菜だぞ! 俺の野菜だ~!」


 春青菜を出した農民が感動で涙を流す。商人たちが自分の野菜を奪い合うように値を口にする様子が、農民には夢のようだった。


 やがて――

「落札! 開始値の6割増しでコーガイル商会!」

 カンカンカン!と鐘が鳴る。最初の取引成立だ。拍手が起こった。


「おお…! ろ、6割増しだと? こんな値が付くなんて…」


 野菜を出した農民は、うれしさのあまり膝をついて泣きそうだ。

 農民たちの歓声と驚きの声が漏れる。


「なんと…。なら俺の野菜はいくらで売れる…?」

 誰もが大きな期待に胸を膨らませる。


 アンドリオンがミナに寄って小さく言う。


「……これが競りか。なんという熱気だ」

「はい。良い商品をどれだけ安く買うか。でも、手に入れたければ値を上げねばならない。…これは戦いですわ」


 ミナも興奮していた。

 さっきまでの恐怖の身震いは消えて、興奮でドキドキしていた。



 競りそのものも興奮するが、新しい制度が無事にスタートできたことに大きな安堵と高揚感を感じていた。

 最初に定期便を出してから丸2年でたどり着いたのだ。


「ご覧くださいませ。商会が落札した野菜を、あそこで書記が一つ一つ記録しております」

「うむ。これで、今まで課税できなかった野菜に競りを通すことによって課税ができるということだな」

 アンドリオンも目を輝かせる。


「はい。そのとおりでございます」

 ミナはアンドリオンの嬉しそうな顔を見て、満足した。


「よくやった。ミナ」

 そう言って、アンドリオンはミナの手をぎゅっと握った。


 あまりにも彼が嬉しそうなので、ミナも思わず、彼の手を両手で包んで、ポンポンと叩いた。「よしよし」の意味だ。


 やはりミナは彼よりも年上なのであった。


(はあ…。それにしても、初めての取り組みは、商人たちもどう対応していいかわからないんだわ。見本を見せるべきだった。…今後の課題ね…)


 かろうじて乗り越えた競りを見て、ミナはまたひとつ学びを得た。



第94話 ネオル滞在



 3月の最初の週、ミナはアンドリオンと共に四頭立ての馬車に乗っていた。

 侍従長とラフカーンも共に乗っているので、二人きりではない。

 これから、アズーラ伯爵ドレガの住む街、ネオルに向かうのだ。


「まあ! 美しいですこと! アンドリオン様、建物がピンク色ですわ」

 遠くに見え始めたネオルの街は、薄いピンク色に包まれた美しい街だ。


「ああ、ネオルの建物は、ここで獲れる赤みがかった石灰岩を使っているのだ」

 ミナはワクワクしてきた。

 最初は行き渋っていたミナだが、実際に街を見るとワクワクする。


 アンドリオンが領主を務めるブリア侯爵領には3の伯爵領がある。


 北西のクレストン伯爵領。

 北東のバッカレー伯爵領。

 西のアズーラ伯爵領。


 そして、タンブリーのある領地はブリア侯爵の直轄領なのだ。

 この4つの地域が合わさってブリア領となっている。


 アンドリオンはタンブリー以外の3つの領地に視察に回ることになった。

 表向きは競りが正しく行われているかを見るのが目的だが、アンドリオンが領主となってから1年とちょっと。まだ領地の視察をしていないので、視察を兼ねているのである。


「君は絶対に各地を見た方が良いと思う」

 とアンドリオンが言うので、ミナも同行することになったのだ。


 ゆっくりと休みながら行くので、速くはないが、朝早くタンブリーを出ると、午後4時あたりにネオルに着いた。


 そこでミナが案内されたのはアズーラ伯爵の住むネオル城の別館だ。アンドリオンは城内部の貴賓室に泊まる。


 領主がここまで来ることはめったにないので、城では今晩、宴が催される。そのため、ミナは前もって簡単なダンスを習得しておいた。


 ブリアからの客はアンドリオンとミナだけなので、必然的にミナのエスコートをアンドリオンがする。


「ブリア侯爵アンドリオン・ローガン様、行政顧問ミナ・クロエ様のおなり~」

 アンドリオンに手を引かれ、ミナは広間に入っていく。


「君のドレス、なかなかであるな」 

 と、アンドリオンはミナのドレスを称賛した。どこから見ても、完璧な貴族の娘である。


「はい。ありがとうございます。ボリックさんからいただきました」

「な、なに?!」


 余計なことを言ったかな?と思ったが、本当なのだから気にしない。


「はあ…。王都で買ったのだな?」

「そのとおりでございます」


「王都にはブリアにはない美しいものがあるからな…」

 と、アンドリオンはため息をついた。


 広間にはたくさんの男女が集っていた。アンドリオンが椅子に座り、そばにミナが立つ。そして、たくさんの貴族たちが領主に挨拶に来た。


「領主様。お久しぶりでございます。アズーラ伯爵夫人サルキーラでございます。こちらは娘のマーリエラ、ロロエリーナでございます。19歳と17歳でございます。どうぞお見知りおきを」


「マーリエラでございます。領主様、お初にお目にかかります」

「ロロエリーナでございます。領主様、お見知りおきを」


 娘たちは頬を染めながら、…目はきらりと野心的に輝かせていた。


ミナが初めて体験する地方での暮らしと人々…。

ここでミナが得るものは…?


裏ではバンリオルがルーガンに反撃を準備中…。


いつもお読みいただき、ありがとうございます! 

ブックマークしていただいたかた、励みになっています! ありがとうございます!


まだのかた、よかったらブックマークしていただけると、泣いて喜びます(T^T)


用語集

ミナ … MBAを取得したあと、異世界に来て、自由港を作り上げようとしている。

アンドリオン … ミナが住むブリア領の若き領主

ラフカーン … 騎士団長

タンブリー … ブリアの城主が住む中心地

ボリック・バンリオル … 大商人にして、諜報部を持つ

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