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囲まれたバンリオル銀行

MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で起業する。ミナの賢さに気づいたブリア領主アンドリオンはミナを行政顧問に迎えた。ミナは、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。ミナを保護する大商人バンリオルは、ルーガン商会の残党に取り付け騒ぎを仕掛けられる。あっという間に5代続いたバンリオル商会が崩壊しようとするとき、ミナの「国家銀行」案が救いとなった。反対者が異議を唱える中、取り付け騒ぎは他の銀行にも波及し、王国そのものの危機となった。大騒ぎする金融部官たち。しかし、国家銀行の暫定案を書き上げたカルドゥスは…。


このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください!


初めてお読みになる方は、下に用語集があります!


 カルドゥスが羊皮紙を持ち上げた。

「よい。これを国王陛下に上奏します」 


 官僚たちは青ざめた表情で部長をみつめる。何か言いたそうにぶるぶると震える者もいる。


「私にはこれを上奏する権限がある」

 カルドゥスは厳格な表情で冷ややかに言う。そしてバンリオルを見た。


「これで足りますかな?」


 バンリオルは深く頭を下げた。

「はい。……救われます」


 ミナは自分のことのようにホッとして、大きく息を吐いた。

 カルドゥスは羊皮紙を一人の官僚の手に渡し、衛兵と共に王へと運ばせた。


 しばらく、会議室は沈黙が支配した。誰もが疲れたように頭を抱えている。バンリオルも目を閉じて、祈るように俯いていた。


 衛兵が扉を開く。

「陛下がお待ちです」

 ついに王の裁可の時が来た。


 衛兵に導かれ、カルドゥスとバンリオルたちは玉座の間へと入った。


 高い天井。磨き上げられた石床。左右に並ぶ近衛。

 その中央――玉座に、国王アルーストが座していた。


 すでに文書は先に届けられており、王は肘掛けに腕を置き、静かに羊皮紙を読んでいた。そばにいる金融部の官僚が解説をしたようだ。


 足音が止まる。皆、玉座の前に跪く。誰も声を出さない。空気そのものが張りつめていた。


 カルドゥスが進み出る。


「陛下。金融部にて審議の結果――本書を上奏いたします。ご裁可をいただきたく…」

 そして、説明を続ける。


「時は急ぎまする。午前中のバンリオルの行列が、他の銀行に飛び火しております。今日中になんとか収めませんと、地方にも飛び火するでしょう」


 やがて王の視線が止まった。静かに顔を上げる。


 その目がカルドゥスを見た。次にバンリオルを。


 最後にミナも控えているのを見る。


「そなたはミナではないか」

「はい。陛下」

 ミナは立ち上がって一礼した。

 つい先日の「王の剣」授与式にもアル―ストに会っている。


「いつも不思議なときに現れるな。なぜここにいる?」


 カルドゥスが代わりに答えた。

「ミナ殿は、この国家銀行の案の発案者でございます」


 王は驚いたように目を見開いたが、次にフフッと笑った。


「そうか。そなたはいつも突飛なことを考えるようだ」

「お、恐れ入ります…」

 ミナは本当に恐縮した。


 自分でも、いつもよく知りもしないことを提案して、首を突っ込むバカなやつだと思っている。でも、つい提案してしまうのだ。


「カルドゥス、バンリオル銀行が倒れれば……国の信用は揺らぐか?」

 カルドゥスは一歩進み、深く頭を下げた。

「はい、陛下。確実に」


 短い沈黙。

「ふむ…」


 王は再び文書を見る。指先で羊皮紙をなぞる。そして、静かに言った。

「ならば守れ」


 王は右手を差し出した。侍従が即座に印章箱を捧げる。重い金属の蓋が開く。そこにあるのは、王国の紋章が刻まれた国璽だ。

 王はそれを取り上げた。


 別の侍従が台を足元に運び、そこに羊皮紙を広げる。そして、ゆっくりと確かに、文字の末尾へ押し当てる。

 侍従が国璽を戻し、羊皮紙をカルドゥスへ差し出す。


「これを発布せよ。レオストを行かせよう。バンリオルの銀行の前で儀式を行い、発布するのだ。そして、そのあとで、銀行の前に大きく書き出した札を立てるがよい」


「は、かしこまりましてございます!」

 全員が頭を下げた。


 バンリオルも喜びのあまり思わず涙を流したが、頭を下げている間にそれを拭いた。

 王はその様子を見ながら、バンリオルに言った。


「バンリオル。そなたが何度も国を救ってきたのを知っておる」

 アル―ストはまたフフッと笑った。


「今度は余が守る番であろう。しかし…」

 バンリオルは次の言葉を待つ。アル―ストは声を強めて言った。


「皆に言っておく。これはバンリオルのためではないぞ。国のためだ。余は国のために動いたのだ。新しい時代を作るためにな」


 そう言って、アルーストは立ち上がった。


「王弟が銀行の前に出るのだ。皆黙って静まるであろうよ」

 そう言って、部屋を退出する。


 バンリオルはその言葉に打ち震えた。深く頭を下げて、感謝の意を示した。


 謁見は終わった。

 誰も声を出せない。そして、静かに立ち上がり、一人ひとり部屋を出る。


 ただ一人、バンリオルだけが膝をつき、深く頭を下げた。肩がわずかに震えていた。

 ミナは扉の外で、彼が立ち上がるのを待っていた。


(国家銀行の提案は間に合った…。カイルを助けてくれたお礼、できたかな…?)


 自分が知らないところで、たくさんのバンリオルの働きがあるのだろう。それがすべて、彼を救う実りとなって返るのだと、ミナは思った。



 第91話 まほうつかいミナ



 バンリオル銀行本店の前には、すでに人だかりができていた。

 朝のうちは20人ほどだった列は、どんどん膨れ上がり、今では大量の人が銀行を取り囲んでいる。


 出金に来た者。様子を見に来た者。噂を確かめに来た者。ざわめきが波のように広がっていた。


「やはり危ないらしいぞ」

「ルーガンの件は本当だ」

「昨日から金貨を隠していると聞いた」

「もう遅いかもしれん」


 銀行の扉の前にはバンリオルの警備員が並び、商会員が必死に応対している。


「我が銀行は何も問題ございませんので、ご安心くださいませ」

 商会員が笑顔でそう言うが、その裏の必死さは見抜けてしまう。


 そこへ、王都警備兵の一団がやってきた。


「銀行の前にいる者、散れ! 今から王弟殿下がおいでになる。入り口の前を開けるがよい!」

 隊長が大声で怒鳴る。


 入り口に並んでいた数10名の客たちも、商会員ごと散らされた。

「な、なにごと?!」


 商会員も何が始まるのかわからない。客と一緒になって、遠巻きに警備兵たちの様子をうかがうことになった。


 これは、アルーストから指令を受けた警備隊長が、状況を理解して、客を早めに解散させたのだ。

 レオストが到着するのにはまだ時間がかかるが、準備をするフリをして、客がもう並ばないようにしたのだった。


 しかし、王弟殿下が来るとあっては、庶民たちは見逃せない。これから何事が起きるのか、ますます興味を持って、銀行入り口を遠巻きに囲みながらも、どんどん民衆が集まってきた。


 バンリオルたち一行は、馬車を走らせて戻ってきたが、途中で群衆に道がふさがれ、馬車が通れない。


「もう進めません。ここで降りてください!」

 と、御者が前窓を開けて叫ぶ。


 カイルが先に降りて、安全を確かめ、3人を下ろした。


「おお? これはバンリオルの馬車だぞ?!」

 と、群衆の誰かが言う。馬車の紋章を見たのだ。

「あれはバンリオルだ!」


 何人かの群衆がこっちに向かってやってくる。走り去る4人。


「待ってくれ! 俺の預金は…」

 入り口を追い出された客なのか、前方からバンリオルに詰め寄ろうとする。カイルが前に出る。


「傷つけるなよ!」

 思わずバンリオルはカイルに言った。

「はい! わかっています」


 カイルは合気道の技で、何人かを簡単にひっくり返した。

(カイル! ちゃんと身につけてる…)

 ミナは目をみはった。すばらしい技だった。


 相手を傷つけずに攻撃を無力化する。それは合気道が得意とするユースケースだ。


 そして、カイルが道を開けたところを3人も走り抜ける。


 ひっくり返った客を振り返って、バンリオルが叫ぶ。

「預金は守ります! ご安心ください!」

 倒された客たちはまだ道路に座ったまま、呆然として4人を見送った。


 ここを走って通り抜けるしかない。商会本社は銀行の裏だ。

「あっ」

 ミナの足元がゆらいだ。ブーツのヒールが石畳の石と石の隙間に挟まったのだ。


ミナはただのお嬢さんではありません…。


よかったら、ブックマークしてくださると、とても喜びますm(__)m


用語集

ミナ … 主人公。MBAを取得したあと、異世界に来て起業する。ブリア領主にブリア侯行政顧問に任命される。合気道が得意

ボリック・バンリオル…大商人でミナの知恵を高く評価している

ルーガン商会 … 奴隷を使うことを許容する商会。

アルソー… トガリア商会の参謀。バンリオルを慕う

カルドゥス … 王府財務庁金融部長

国家銀行 … ミナが提案した中央銀行にあたる仕組み

レオスト … 王弟。アル―ストの弟

カイル…ミナを助けた冒険者で恋人。今はバンリオルの私兵

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