取り付け騒ぎ、他の銀行に波及…。ミナは国を守れるのか?
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で起業する。ミナの賢さに気づいたブリア領主アンドリオンはミナを行政顧問に迎えた。ミナは、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。ミナを保護する大商人バンリオルは、奴隷商法を使ったルーガン商会を糾弾したため、復讐に燃えるルーガン残党に取り付け騒ぎを仕掛けられた。一挙に崩壊へと向かうバンリオル銀行。バンリオルは悔しさに震える…。ミナは彼を守れるのか?
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください!
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
バンリオルは握りこぶしに力を込めた。
(私のしたことは間違いだったのか? ルーガンの商売を止めたかった。奴隷を認めるなど、もってのほかだと。それは…?)
悔しさが目ににじむ。
自分の行動のせいで、国全体が危機に陥っている。自分の甘い正義感が間違いなのか?
あれを許せないという思いは感情なのか? 自分は、自分の感情を満たすことだけを考えていたのだろうか?
(いや、違う……)
バンリオルはアルソーの言葉を思い出す。
「バンリオルは商人の鑑だ」
アルソーが言ったあの言葉が、バンリオルを支えた。
(私は正しいことをする。そうでありたい。それが否定されるような世界を、私は認めない…!)
バンリオルは改めて決心した。
(絶対に乗り越える。絶対だ! 私が世界を決める。世界はどうあるべきか? 私はそれを奴隷を使うような愚か者に決めさせることはしない!)
バンリオルがそう決意したそのときだ。
「これはもはや……」
息苦しさを抑えながら、カルドゥスは重々しく口を開いた。
「ミナ殿が先日提案した、あの案を採用するしかなかろう…」
ミナは顔を上げて、カルドゥスを見た。そして、希望の色を浮かべた。
「国家銀行でございますね?」
思わず笑顔がほころびる。
「ああ、そうだ。……あの意味がよくわかった」
カルドゥスはあの日から、ずっと考えていたのだ。国が銀行に金を貸す。それが何をもたらすかを。
それが今、ここで明らかになっている。
バンリオルの井戸の水はたっぷりあるのだ。それが、手桶がないために水を掬えない。そして、王都中の銀行が巻き添えになりそうなのだ。
こんなバカなことがあるだろうか?
「この状態を脱出できるのは、ミナ殿の言う国家銀行しかあるまいな…」
バンリオルはビクッと動く。
「そ、それはどのような…?」
彼はその言葉を初めて聞いたのだ。ミナが何かを提案したことは聞いたが、内容は聞いていない。
一方、その言葉を聞いてカルドゥスと同年代の年配の官僚が口を開いた。
「いやいや、国が最終の貸し手になると? 民間銀行を国家が保証するのですか? そんな例はいままでございません」
正面に座る金融部長カルドゥスを厳しい目で見る。
「前例になりますぞ」
別の官僚が続く。
「他の銀行も要求します。そうなれば国庫が持ちません」
「財政規律が崩れます。市場が国家依存になりますぞ」
反対論が一斉に噴き出した。
バンリオルが拳を握りしめる。希望が見えたと思ったが、反対者が多い。具体的な内容はまだわからなかったが、通りそうもなかった。
ミナも黙っている。自分がこんな場所で口を出せるほど、自分は金融には詳しくないことを自覚しているからだ。
ミナはただ心の中で祈り続けた。思いは力になるはずだ。思いに力がなければ、誰が願いや祈りを心にいだくだろうか。
カルドゥスがゆっくり言う。
「では逆に聞きましょう」
全員が静まる。
「国が保証しない場合は?」
誰も答えない。
カルドゥス自身が続ける。
「銀行が倒れる。信用が崩れる。決済が止まる。商取引が止まる。税収が止まる」
そして静かに言った。
「国家が止まります」
誰も口を開かない。身じろぎもしない。
しばらくの沈黙のあと、一人の比較的若い官僚が口を開く。
「ということは…」
皆の目が彼に集まる。
「国庫に金がなくなろうが、キア通貨の信用を救え…ということですか? それが国にとって重要だとでも?」
それは反論だったのかもしれない。しかし、カルドゥスは頷いた。
「どうやら、そのようですな」
しばらくの間を取って、カルドゥスが言った。
「国には徴税権があり、通貨発行権がある。だから、簡単に金はなくならない。だからこそ銀行を守れるのです。銀行を守れるからこそ、不安を解消でき、取り付け騒ぎが収まる」
カルドゥスは自分の言葉に大きく頷いた。そして、続けた。
「…ミナ殿が言いましたな。『支払いを保証するから、支払いが少なくなる』と。これは確かにそうなのでしょう」
そう言って、彼はミナを見て、頷いた。
ミナはそれだけで満面の笑みとなった。
(バンリオルは守られる…!)
そう確信した。
「では、暫定措置を取ります」
カルドゥスは書記に命じた。
「筆記せよ。文案を起こします」
「はっ」
書記が国の重要事項を告知するときに使う羊皮紙を広げる。
インクが置かれる。
書記は緊張に震えながら、ペンを持つ。
「第一項」
カルドゥスが口述する。
「王国はバンリオル銀行の支払い能力を確認した」
「第二項」
「緊急時、国庫は当該銀行に対し必要な流動性を供給する」
つまり、「国は銀行に通貨を貸し出す用意がある」という意味だ。
バンリオルの顔が上がる。あまりにもありがたすぎて、耳を疑うほどの内容だ。
官僚の一人が驚く。
「そこまで明記するのですか?」
カルドゥスは即答する。
「曖昧では信用にならない」
「第三項」
「銀行の支払いは国家の保証のもとで継続される」
書記の手が止まる。
これは事実上の国家保証。
しかし、書記は黙って、書き進めた。
バンリオルは確信した。聞き間違いではない。これは自分を助けるための案だということに。
「第四項」
カルドゥスの声が低くなる。
「虚偽の破綻情報の流布は、国家信用を害する行為とみなし、厳罰に処する」
これは金融防衛宣言。
バンリオルは満足した。これでルーガンに勝てる。
文案が完成する。
全員が黙って見つめる。
国家銀行の土台となる歴史が開かれた。
「お、お待ちください。本当によろしいので?! 暫定案とは申せ、これは国家銀行の案。国家銀行は時期尚早だと皆で話し合ったではございませんか?!」
何人かの官僚がざわつく。
「これは国家が最終的な金の貸出人になるということですぞ」
一週間前にミナがそれを提案したときには、反対意見ばかりだったのだ。それがあっという間に決まろうとしている。官僚たちは背筋が寒くなるような恐れを感じた。
そこへ、財務官が一人、会議室に息を切らして飛び込んでくる。
「ご報告いたします。バンリオル銀行には今、60人の列ができております。そして…」
財務官はつばを飲み込み、息を整えた。
「周辺の銀行にも波及しております。ブラーゼ銀行にも10人、コマキア銀行にも6,7人…」
何人かの高官が青ざめてバッと立ち上がった。これはもう緊急事態宣言のレベルなのだ。
取り付け騒ぎが五大銀行に波及! これはもう、国家崩壊の危機…!
バンリオルは救われるのか?! ミナはどうする?
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用語集
ミナ … 主人公。MBAを取得したあと、異世界に来て起業する。ブリア領主にブリア侯行政顧問に任命される。
ボリック・バンリオル…大商人でミナの知恵を高く評価している
ルーガン商会 … 奴隷を使うことを許容する商会
アルソー… トガリア商会の参謀。バンリオルを慕う
カルドゥス … 王府財務庁金融部長
国家銀行 … ミナが提案した中央銀行にあたる仕組み




