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取り付け騒ぎという最悪の悪夢

MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で起業する。ミナの賢さに気づいたブリア領主アンドリオンはミナを行政顧問に迎えた。ミナは、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。ミナを保護する大商人バンリオルは、奴隷商法を使ったルーガンを糾弾した。それにより逮捕されたルーガンの残党がバンリオル銀行に取り付け騒ぎを仕掛けていることがわかった。それはバンリオルを一挙につぶしかねない危機だった…。


このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください!


初めてお読みになる方は、下に用語集があります!

「あ、それと金融部のカルドゥス卿にもできれば一緒に来ていただきたいとお伝えください」

 とミナは付け足した。



 カイルは護衛として、ニキールも番頭として馬車に乗り込んだ。帳簿は銀行の営業が終わってからでなければ持ち出せないが、数字は控えてある。業務が終わったら、帳簿で確認する予定だ。


 4人は馬車で王城に向かった。その前に銀行の前を通る。


 そこにはすでに30人ほどの人が並んでいる。騒いでいる客が数人。大声でバンリオル銀行の危なさを言い張っているようだ。

 それらはもしかすると、ルーガンの手の者が紛れ込んでいるのかもしれない。


 バンリオルは目を背けた。それは銀行家として決して見たくない光景なのだ。


 銀行前で馬車をいったん停めると、銀行の者が馬車に乗り込んで、報告をする。

「会長、客に話を聞きましたところ、このような話が広まっております」


 ルーガン商会が傾いたのはバンリオル銀行が資金不足で出金を拒否したからだという噂だ。ルーガンが倒産寸前なのをバンリオル銀行が危ない証拠に使っているということなのだ。


「我々はご指示の通り、にこやかに対応し、まずは噂を否定しております。それでも引き出したいというお客様には、別の部屋に来ていただくなど、時間を稼ぐ方法で引き延ばしております」

 銀行の商会員はそのように説明した。


「そうか…」

 そこに、入り口に並んでいる客の大声が聞こえてくる。


「ルーガン商会を黙らせるために、罪をでっちあげて、ルーガンは処刑だとよ! とんでもねえじゃねえか!」


 あれは確かにルーガン側の工作員かなにかなのだろう。しかし、捕まえようとすると騒ぎが大きくなる。銀行員がとりあえず、「お客様、お静かに願います」と笑顔でなだめるだけだ。


 バンリオルは絶句する。

 ミナも怒りにふるえた。

(早くなんとかしなくては…)


 ミナも焦っているのだから、バンリオルはどれだけ焦っているだろうか。しかし、彼は腕を組んで俯き、黙っていた。


「わかった。その調子で頼む。時間を稼げ」

 そう言って、客の大声の罵倒を背に、バンリオルはまた馬車を走らせた。彼の額に脂汗が浮かんでいるのをミナは見ていた。


 幸いなことに、国王陛下には昼食時に会えそうだ。その前に財務庁でカルドゥス卿が会ってくれることになった。

 4人は王城の近くにある財務庁に先に向かい、応接室でカルドゥスに会った。


「これは…バンリオル殿。それにミナ殿も? 急に面会とは。何かありましたかな?」

「一大事でございます。悪意のある噂が流れ、バンリオル銀行に取り付け騒ぎが発生しております」

「な、なんですと?!」


 さすがにカルドゥスも青ざめた。

 バンリオル銀行はこの国の主要五大銀行の一つと数えられていた。ここがあぶなくなれば、この国の大量の商会に影響が出るからだ。それは国力を大幅に損なう。


「こ、これは一大事。金融部の職員を集めましょう。少々お待ちください」

 そう言って、カルドゥスはドタバタと応接間を出ていく。


 バンリオルは椅子に座ったまま再び腕を組み、黙り込んだ。かすかに腕が震えているのをミナは見逃さなかった。怒りと不安の両方なのだろう。


 ミナはその姿を見て、なんとか力になりたいと思う。そっと、彼の腕を抑える。

 バンリオルは驚いて顔を上げる。


「ボリックさん…。これは実はまだ口外できないことなのですが…」

 ミナはそんな悲痛な顔のバンリオルに、少しでも希望を感じてもらいたかった。


「わたくしは、このような事態のために、国ができることをつい1週間ほど前に、カルドゥス卿にご提案させていただいたのです」

「な、なんですと?!」


「ですから、きっと良い策をご提案いただけると思うのです」

 そう言って、ミナは微笑んだ。


「あ、それでミナさんがカルドゥス卿をご存じなのですね?」

「ええ。ボリックさんもご存じの通り、イルマランのたくらみをトガリアが撃退した件で、このようなことが起きにくくなるようにという案を出させていただきました」


「そうなのですね?! ああ、イルマランが通貨攻撃を仕掛けようとしたことは、耳に入っています。…そうですか…」


「ですから、きっと希望がございますわ。思ったよりも早く収拾できるとわたくしは思います」

 そう言って、ミナは微笑んだ。


「そ、…そうですね。信じます」

 バンリオルは少しだけ安堵して、ホッと息を吐いた。


「ありがとう、ミナさん。いてくださるだけで、心強いです」

 バンリオルはほんの少し、笑顔を見せた。



 第90話 財務庁緊急会議


 バンリオルにとっては長い待ち時間に思えた。


 やっと応接室の扉が開いた。職員がバンリオルとミナを会議室に案内した。ニキールなど付き添いたちは応接室で待たされる。


 そこにはカルドゥスと金融部の高官たちが数名待っていた。誰もが顔色を失っている。

「お待たせしました。緊急会議を開きます」


 机の上に書類が広げられる。ニキールが用意した王都のバンリオル銀行の保有財産と債務、債権。そして、銀行内にある現金残高。王国内の主要支店の資金流動表の推計。


 財務官の1人が立ち上がって、報告をする。


「こちらでも、ある程度の状況を確認いたしました。今、40名近くが銀行の周りにいるようです。全部が引き出しに来ているわけではなく、噂話をしているものもおります。今、部下を張り付かせています。随時、連絡が来るでしょう」


 高官たちがざわつく。

「もうそんなに…」

「これを仕組んでいるのは…」

 小声で隣と話している。


「まず確認します」

 カルドゥスは落ち着いた声で言った。

「バンリオル。現在、取り付けは本店のみですか?」


 バンリオルが答える。

「現時点では。しかし…今日中に他支店へ波及する可能性は高いかと」


「保有現金はいかほどで?」

「三日分。……最大でも五日くらいだと思われます。今、部下ができるだけ対応を引き延ばしておりますが…」


 部屋が静まり返る。

 高官の一人が低く言った。

「連鎖すれば、一日で尽きますな」

 誰も否定しない。


 カルドゥスはゆっくり息を吐いた。

「では次。誰か、バンリオル銀行が停止した場合の王国の影響を述べなさい」


 官僚が即答する。


「主要支店の決済が止まります。港の荷動きが止まり、税収が落ち、軍需支払いが遅延。最悪の場合、キア通貨の信用が揺らぎます」


「ううむ…」

 首を絞められたようなうめき声が諸所に漏れる。キア通貨の信用を落とされれば、国際的に影響が及ぶ。


「恐ろしいのは取り付け騒ぎが他の銀行にも波及することです。そうなれば、同盟銀行からの資金調達が不可能になります」

 官僚は重々しく述べた。


 バンリオルは青ざめる。


 それは、他銀行からの借り入れでしのぐことができないということだ。私財を担保にしようが、貸してくれるところがなければどうにもならない。


 銀行には取り付け騒ぎがあることをバンリオルは学んでいる。しかし、彼自身が取り付け騒ぎを体験するのは初めてのことなのだ。


 自分の予測よりも厳しい財務官たちの意見に、バンリオルはまだ自分が甘いのだと思い知らされた。


5代続いた大商会バンリオルが滅びかねない危機。ミナはこれを救えるのか!?


よかったら、ブックマーク、お願いします…m(__)m


用語集

ミナ … 主人公。MBAを取得したあと、異世界に来て起業する。ブリア領主にブリア侯行政顧問に任命される。

カイル…ミナを助けた冒険者で恋人。今はバンリオルの私兵

ボリック・バンリオル…大商人でミナの知恵を高く評価している

ルーガン商会 … 奴隷を使うことを許容する商会。バンリオルによって会長は逮捕となる

イルマラン … 隣国。通貨攻撃をしかけた。

トガリア商会 … ミナの味方の商会

ニキール… バンリオルの番頭

キア通貨 … ミナの国アラゴンキアの通貨


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