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バンリオル、最大の危機

MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で起業する。ミナの賢さに気づいたブリア領主アンドリオンはミナを行政顧問に迎えた。ミナは、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。ミナを保護する大商人バンリオルは、奴隷商法を使ったルーガンを糾弾した。それにより逮捕されたルーガンの残党がバンリオルに復讐を企んでいることをトガリア商会から聞いたのだった…。


このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください!


初めてお読みになる方は、下に用語集があります!

 第89話 バンリオル銀行の危機


 次の朝から、ミナはバンリオルの会議の場にいた。そこは王都の中のバンリオル商会本社の建物内だ。石造りの重厚な建物で、すでに100年の歴史ある建築物だ。以前、ミナが案内されたバンリオル銀行の裏手にある。


 会議室にはバンリオル、大番頭のフレーゲル、それからニキールをはじめ、番頭たちが集まっていた。そして、警備・諜報の長であるニーボルンがいる。

 そこにミナも出席を求められたのである。


「緊急事態だ。きのう、トガリア商会のアルソーと話をした際に聞いた話だ。ルーガンの残党が、我らに報復を計画しているようだ」

「な、なんですと? またですかな?」


 フレーゲルは眉間にしわを寄せ、ボリックを見る。番頭たちもざわつき始めた。

「それは暴力的なことではないという話だった。どこまで真実で、どこから推測かはよくわからなかったがな。ニーボルン、まずは、残党たちの活動を探れ」

 そう言って、まずニーボルンを見た。


「は、かしこまりました。今、ルーガンの妻と、大番頭の動向には監視をつけておりますが、さらに増やします」

 バンリオルは頷いて、番頭たちを見た。


「次にこちらが対処するのは、銀行の危機説を流されることだ。これは事実でなくても、取り付け騒ぎは起きやすくなる。これに対処しなければならない」

 番頭たちは一斉に頷く。


「具体的にはどのように…?」

 とニキールが尋ねる。すると、バンリオルに代わって、銀行の頭取でもある大番頭のフレーゲルが答えた。


「まずは、各支店から現金を集めること。

 それから、同盟銀行から現金を借りること。

 それから、大手の客には事情を話して、取り付け騒ぎに乗らぬよう頼むこと。

 それから…貸付金や売掛金の回収にまわること…ですかな?」


「売掛金の回収は…逆効果にならないようにしなければならん。最終手段だな」

 バンリオルは腕組みをしてため息をつく。


「支店からの現金回収を狙われる危険も考えなければなりますまい」


 ニーボルンが指摘する。暴力はないと言っても、それはアルソーの推測だけだ。確かに、それも考えなければならないだろう。


「打てる手はそのくらいか…」

 みんなで黙り込む。何か他の手はないかと、考えているのだ。


 バンリオルは左手に座っているミナのほうを向いた。


「ミナさん、何かお知恵をお借りできませんか?」

 ミナもじっと考えていたのだ。何かできることはないかと…。


「わたくしの故郷で、かつてこんなことがございました。

 大臣のうっかりした失言で、ある銀行に取り付け騒ぎが起きたのでございます。そして、それは連鎖して、多くの銀行で取り付け騒ぎが発生しました」


 全員、ミナの顔を見つめている。

「そのとき、財務担当の大臣がしたことは、急遽、お金を刷り、それを見せることだったのでございます」

「お金を刷る?」


「わたくしの故郷ではお金は紙なのです。ここでいう証書のような形をしております。それを大量に用意して、客に山積みして見せることで、『金はある。あわてて引き出す必要はない』と示したのです。


 それが功を奏して、取り付け騒ぎは収まったのですわ。

 こちらの銀行では、金貨を積み、客に見せるということになるでしょうか」


 ミナは日本で昭和の初めごろ、この取り付け騒ぎが起きたときに、高橋是清大蔵大臣が、通貨発行権を利用し、とりあえず見せ金でこの騒ぎを収めたという話を覚えていた。それは世界恐慌の2年前のことだ。


「取り付け騒ぎで大切なのは恐怖を取り除くこと。それができれば、収まるでしょう」


「ふむ。たしかに…」

 バンリオルは肘を立てて指を組んだ。


「ですから、デモ…いえ、この銀行は大丈夫だという見せ方が必要です。たとえば、引き出す客の横で、預けに来る大口の客を見せるとか」


「な、なるほど…」

 思わずフレーゲルが頷く。


「もし、実際に現金が足りなくなりそうなときには、予約制にしておいてはいかがでしょう? 少額は当日、一定以上の大金は7日後に払うという証書を出してとりあえず場を収めます。

 大切なのは銀行側がにこやかに対処することですわ」


 皆、頷きながら聞いている。


「あとは…」

 ミナは少し目線を上に向けて、しばらく考えながら、次のように言った。


「国王陛下にお願いするか、金融部長のカルドゥス卿にお願いして、こちらの帳簿を見せ、国からの『支払い能力証明』をいただき、入り口に掲示しておくのはいかがでしょう?」


「な、なんと! そんなことが?!」

 フレーゲルはさすがに驚いた顔をした。


「日頃から王家に貢献なさっているバンリオル商会ですもの。それに、ルーガン商会の策略であることも理解していただけるでしょう。ですから、無理なお願いではないと思います。


 こちらの商会があぶなくなっては、王家もお困りになるのではありませんか?」


「う~む…」

 皆同時に唸った。


 そこに、一人の商会員が駆け込んでくる。


「会長! 大変です!」

「どうした?!」


 その緊迫した様子にバンリオルは思わず立ち上がった。


「銀行本店の前に、20人の行列ができているとのことです! 預金を引き出すのだと…」

「な、なに?!」


 全員が立ち上がり、血相を変える。バンリオルはショックを受けて、頭をうずめるように落とし、げんこつを机にぶつけた。


「こんなに早くに生じるとは…」


「ば、ばかな…」

 フレーゲルもショックを隠さない。


「朝からこれでは、……どんどん増えるぞ」と誰かが言う。


 バンリオルはショックから立ち直り、指示を出す。


「すぐに動かねば! ニーボルン、ルーガンの監視はもういい。それよりも、銀行の入り口の警備だ!」

「はっ、かしこまりました」


「フレーゲル! あとは任せたぞ。ミナさんの言ったことは全部やれ。金が足りないなら、私の私財を担保にしてでも金を借りろ! 貸付金の回収は最終手段だ。私はこれから国王に面談を願う」


 そして、彼はミナを見た。


「ミナさん、ご一緒に来ていただけませんか?」

「ええ。もちろんですわ、お役に立てますならなんなりと」


「ニキール、馬車だ! それと護衛だ! それから、陛下に先ぶれを出せ。バンリオルが緊急事態につき、一刻も早くお目通り願いたいと」


ついに起きてしまった取り付け騒ぎ。バンリオルはこれをどう乗り越えるのか…?


用語集

ミナ … 主人公。MBAを取得したあと、異世界に来て起業する。ブリア領主にブリア侯行政顧問に任命される。

ボリック・バンリオル … 大商人でミナの知恵を高く評価している

ニキール … バンリオルの番頭

アルソー … トガリア商会の参謀

ルーガン商会 … 奴隷を使うことを許容する商会。それに反対するバンリオル商会を攻撃し、代表が逮捕された

ニーボルン … バンリオルの私兵隊長


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