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王の剣の任命と、ルーガン商会の復讐 (第87話)

MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で起業する。ミナの賢さに気づいたブリア領主アンドリオンはミナを行政顧問に迎えた。ミナは、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。ミナは他国が金融侵略を仕掛けている可能性に気づき、王府に国家銀行案を提案。また、元海賊トガリア商会のジオルダンを「王の剣」として推薦した。ミナを守る大商人バンリオルに、トガリア商会の二人を引き合わせた。


このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください!


初めてお読みになる方は、下に用語集があります!

 第87話 コブルーの守護者


 王城の謁見の間は、静まり返っていた。

 高い天井から吊るされた燭台の光が、大理石の床に淡く反射している。


 壁際には近衛騎士、奥には数人の廷臣たち。王の側近と言えるごく限られた人たちである。「王の剣」の称号は、公にされるものではないからだ。

 誰もが正装し、息を潜めていた。


 その中央に――3人。

 セグリオ。そしてその後ろにトガリア商会の代表、ジオルダンとアルソー。

 3人とも、片膝をついて、礼を取る。


 ミナは廷臣たちの列の末席で、そのまま静かに立っていた。


 今日は何も言わない。ただ見守るだけだ。とはいえ、ミナも謁見の場は初めてで、緊張しているのは言うまでもない。


 ジオルダンは、ぎこちなく背を伸ばしている。豪奢な礼服を着てはいるが、まるで借り物のように落ち着かない。拳を握ったまま、何かを言いかけて――やめた。


 隣のアルソーは微動だにしない。視線はまっすぐ玉座へ向いている。


 やがて、侍従の先ぶれのあと、国王アルーストと、王弟レオストが奥から姿を現し、アルーストは玉座に座り、レオストはそのそばに立つ。


「――トガリア商会代表、ジオルダン。ならびに参謀アルソー。御前へ」

 重い沈黙の中、二人が立ち上がり、進み出る。


 玉座に座す国王アルーストは、静かに彼らを見下ろしていた。威圧でもなく、威光でもない。ただ、すべてを見極めるような眼差し。

 しばしの沈黙。


 最初に動いたのはセグリオだった。立ち上がり、彼らの隣に進み出て、「申し上げます」と言い、深く頭を垂れる。


「陛下。トガリア商会は本日、正式に王国への忠誠を誓うため参上いたしました」

 ジオルダンが慌てて口を開こうとした。

「え、あ、あの、その――」


 セグリオが「ウホン」と咳払いする。それだけで、ジオルダンは黙った。

 セグリオは一切振り返らない。まるで当然のように話を進める。


「彼らは母国を失い、なお生き延び、再び立ち上がった者たちでございます。そして、アラゴンキアの商船を助け、それまでの罪を許されております。


 この度は、グリダッカルがひそかに仕掛けておりました侵略計画を見抜き、コブルーを守るため、行動いたしました。


 さらに、コブルーに仕掛けられたイルマランの金融侵略の野望を、一滴の血も流さず、知恵を持って撃退いたしました。その功績は一海戦の勝利に値します」


 王は黙って聞いている。


 セグリオの声は静かだが、よく通る。


「それはひとえに、彼らがアラゴンキアに救われたという恩義のため。

 今では彼らは商会として、金と情報と覚悟をもって、アラゴンキアの港を守るために戦おうとしております」


 そこで初めて、セグリオはジオルダンをちらりと見た。


「――誓いは、すでに固まっております」

 ジオルダンは、びくりと背を伸ばした。セグリオは再び王へ向き直る。


「トガリア商会は、商流の動きをもって王国に尽くすと誓っております。敵の富を削ぎ、敵の流れを断ち、アラゴンキア王国の繁栄のために働くと」


 一呼吸おいて、セグリオは続けた。


「……アル―スト国王陛下に申し上げます。このトガリア商会の忠誠を受け入れ、なにとぞ、王の剣としての名誉と特権をお与えくださいますよう…」


 そう言って、セグリオは頭を下げた。


「王の剣」としての特権とは、国の有事のときには、王の判断を待たずに国防のために敵を攻撃できる権利だ。バンリオルは先代のときからこの役目を与えられている。


 謁見の間の空気が張りつめた。

 王が、初めて口を開いた。


「ジオルダン」

 低く、重い声。ジオルダンがびくりと震え、慌てて膝をついた。ほぼ反射だった。続いてアルソーも膝をつく。


 王はしばらく彼を見つめる。その視線は、測るようでもあり、探るようでもあった。

 やがて、ゆっくりと言う。


「言葉はいらぬ」

 ジオルダンが顔を上げる。王の威厳の圧力か、その額には汗が噴き出す。

「そのほうたちは、すでに結果で語っている。余はお前たちの力を認めよう」


 王は右手を軽く上げた。すると、近衛兵が一人、長剣を捧げて壇の下で待つ。


 王は玉座から立って壇を降りた。そして、近衛兵が捧げ持つ剣の柄を握る。

 そして、ジオルダンの肩を交互に、剣の面で軽く触れた。


「トガリア商会」

 静かな謁見の間に声が響く。一語一語、はっきりと。


「そなたらはもうアラゴンキアの商会だ。二度と国を失わぬよう、そなたらに力を与えよう。その働きをもって、我が王国の剣と認める」

 空気が震えた。


 廷臣たちが「おお~」と声を上げる。そして、広々とした謁見の間に歓声が響いた。

 セグリオがその中で声を張り上げた。


「まことにもって、ありがたきしあわせ!」

 これはジオルダンの言葉を代行しているのである。歓声の中では誰の声かわかるまい。


 ミナは一歩後ろから、その光景を見つめていた。

(……王の剣)


 王は玉座に戻り、ジオルダンとアルソーは立ち上がる。そして、3人で改めて一礼し、御前を下がった。

 ジオルダンの目は、初めて見るほど真剣だった。何も言わない。


 コブルーは情報に長けた戦力を手に入れた。そして、港を経済的にも戦力的にも守れるようになるのだ。


 ミナは静かに思う。

(これで、コブルーは守護者を手に入れた)

 ジオルダンはこれから、さらに大きくなることだろう。



 昨年秋の「エビーナの招き」から、すでに4カ月経っていた。


 バンリオルと、その館と従業員の襲撃未遂を起こしたルーガン商会の代表カゼロの刑が決まり、死刑となった。死刑は数日後に執行されるだろう。


 王都の豪邸地区で火事を起こそうとしたことは、その地区に住む豪商たちの怒りを買った。

 ルーガン商会との取引は拒絶され、ルーガンの信用は地に落ち、残された従業員も商会を立て直すことができないほど困窮した。


 時を同じくして、国王は貿易に関する一つの法律を発令した。

 それは…。


「奴隷を使って作った他国の商品を扱うときには、届け出制とし、許可を受けたものだけにする」という法律だ。


 材木のようなどこでも購入できるものなら、奴隷を使った安い商品を買ってはならないことになるが、鉱石のように、その国にしかないという特殊なものは、業者をひとつに決めて輸入する、という制限が取り決められた。

 これにより、価格競争は避けられる。


 これは少なくとも、一歩進んだと言えるだろう。

 バンリオルにとっては、満足のいく結果が出たと言える。


                 * * *


 そんなころ、ボリック・バンリオルとミナは、ジオルダンとアルソーを王都の大衆的な飯屋に誘った。ジオルダンが自由にしゃべれるような場所を選んだのだ。


「いや~、ねえちゃん! いや、ミナさん。ミナさんのおかげだぜぇ~。生まれてはじめて王城に入っちまったな~。ありがとうな!」


 ジオルダンはミナを見るなり、照れたようにそんな挨拶をした。


「王の剣」となったことは口外できないが、セグリオの案内で王城に入れたことは口外しても問題ない。

 もちろん、すでに「王の剣」であるバンリオルは、トガリアが「王の剣」となったことを知っている。


 ミナは笑いながらまず二人に座るように言った。テーブルにはすでにバンリオルがついている。

 そして、カイルは少し離れたところで、他の護衛とともにテーブルに座っていた。一見、関係ないようなフリで。


「ジオルダン、こちらはボリックさんよ。ご存じかしら?」

「えっ、ボリックさん? …ていうと…」

 アルソーは急に表情を変える。


「ボリック・バンリオルです。お初にお目にかかります」

「えっ、…てえと、あのバンリオル商会の…」


 さすがにジオルダンも彼が誰か理解したようだ。


「お、お、俺は…その…わ、わたしは…イデッ」

 ジオルダンはどうしゃべっていいかわからなくなったようで、舌を噛んでいる。


「ああ、どうぞ、いつもどおりにお話しください。船乗りの言葉でかまいませんよ」

 そう言って、ボリックは微笑んだ。ミナもくすっと笑う。


「ジオルダン、大丈夫よ。ボリックさんはあなたが自由にしゃべれるように、ここを選んでくださったのだから」


「お、おっ、そうか。すまねえな。俺はジオルダン、こいつはアルソーだ。よろしくな」

 アルソーはボリックにお辞儀をした。


 ジオルダンは30歳で、アルソーは31歳だ。28歳のボリックよりも少し年上だが、どちらかというと、若く見えるボリックの方が精神的に落ち着いて見えた。それは幼いころからの教育と育ちの差だろう。


「私も貴族ではありませんからね。それに、商人の世界では商才こそがすべて。身分と商才は関係ありませんからね」


 そう言って、ボリックはアルソーを見た。その目はアルソーへの称賛を込めていた。

 バンリオルもミナも、庶民のような普通の服を着ている。ここでは貴族のような服は場違いだからだ。


「俺のおやじはバンリオル商会を目標にしていた。『あれはすごい。商人の鑑だ』ってよく言ってたな。そのボリックさんに会えるとは…おやじに自慢してぇな」


 そう言って、アルソーは少し恥ずかしそうに笑った。


「それはうれしい評価です。では、あなたのお父上も民衆を豊かにする商人を目指していらっしゃったのですね」


「ああ、そうです。おやじは最初、ただの船乗りだったんだけど、商人が船賃を買い叩くようなことをするのに腹を立てて、自分で船を借りて、船乗りを雇って運搬業を始めたんだ。それから、商売をするようになった」


「へえ~。そうなんだ。それでどんな商品を扱ったの?」

 言葉を崩せないバンリオルに代わって、ミナは彼らが話しやすいように、村娘ふうのしゃべり方にした。


 バンリオルは彼女のすばらしい聞き手の能力を知っている。後は彼女に任せることにした。

 酒や料理を楽しみながら、彼らはしゃべりだした。


 にぎやかな飯屋の喧騒の中で、彼らは2時間ほど楽しくしゃべった。


 そして、少し話題が途切れると、アルソーはふっと息を吐き、表情を変えて、少しバンリオルに顔を近づけて言った。


「…ボリックさん、あんた、ねらわれてるぜ。知ってるか?」

「え…、今ですか?」

 バンリオルは左右を見渡す。


「いや、今ってわけじゃねえが…。ルーガンの残党があんたを狙ってる。奴らが仕掛けるのはもう暴力じゃねえぞ。それは失敗したからな」


 ミナとボリックは顔を見合わせた。

「というと…」


ルーガンに勝ったと思ったのもつかの間。この後、バンリオル商会に最大の危機が…!


よかったら、ブックマークしてくださると泣いて喜びます!


用語集

ミナ … 主人公。MBAを取得したあと、異世界に来て起業する。ブリア領主にブリア侯行政顧問に任命される。

ボリック・バンリオル…大商人でミナの知恵を高く評価している

コブルー…ミナが自由港にしてブリアを守ろうとしている港

ジオルダン…トガリア商会の現会長。元海賊。

アルソー…トガリア商会の元の会長、今は参謀

セグリオ… 王都から派遣された商務官僚、ミナの同僚

ルーガン商会 … 奴隷を使うことを許容する商会。それに反対するバンリオル商会を攻撃し、代表が逮捕された


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