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商人が命がけで戦いを挑むときとは (第86話)

MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で起業する。ミナの賢さに気づいたブリア領主アンドリオンはミナを行政顧問に迎えた。ミナは、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。そして、高級宿の入札会を開催した際、ミナは隣国イルマランが金融侵略を仕掛けていると知り、その対策を王府に訴えることとなった…

そして、金融侵略を阻止したトガリア商会のことを、大商人バンリオルに尋ねるのだった。


このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください!


初めてお読みになる方は、下に用語集があります!


 バンリオルは語る。


「なぜならアルソーは……南方航路の船員の行きつけの酒場の酒の注文量が徐々に減っていることに気づいたのですよ。

 これを『南方航路の船が減っている』と読んだのです。

 戦争ではなく便が減る理由は疫病だろうと。次に、それをある程度裏付けする情報を探したのです」


「まあ…なんという読み」


 現代でも、経済を読む方法は意外にも経済そのものではないことがある。それを読み取ることができる者が、情報を先に掴むのだ。


「しかし、これは大きな博打ではございませんか?」

 情報が確かだと確認する方法は少ない。だから、必ず勝てるとは言えないのだ。


「そうですね。博打です。常に勝つとは限らない。しかし、彼は未来の恐怖を読み取ることに長けています。国を失った体験の代償と言えるかもしれませんな」

「なるほど…」


 ミナはふと、カイルの未来視を思い出した。死を回避するための能力だ。


 カイルの父親は自分のうかつさで子供を一人亡くした。そのときの体験がカイルに受け継がれたのではないかと思った。親の衝撃的な体験は、子に受け継がれるのだ。これをエピジェネティクスという。


「商いは時には博打かもしれない。しかし、私は思うのですよ。大切なのは、なんのためにそれをするかだと」


「ん…。では、ボリックさんは何のためにそれをなさるのです? もし、よろしければお聞かせくださいませ」


 もちろん、ミナはバンリオルがそのような勝負をしてきたことを知っている。その手腕はアルソーに勝るとも劣らないはずだ。


「そうですね…。少なくとも…」

 とバンリオルは昔を思い出すかのように、少し記憶をたどった。


「自分の儲けのためだけにそのようなことをする商会は叩き潰したいと思いますから、チャンスがあれば挑みますな。絶対にこちらが勝つ、という決意と信念が必要ですが」


「つまり、客に害をなす商人をつぶしたいのですね?」


「ははは。きれいごとは通じない世界ですからな。そういう商人がいることは事実です。だが、誰彼ともなく勝負を挑むことはしませんよ。大商会はたくさんの人々の生活をかかえていますからな」


 ミナはその答えが好ましく感じられた。


 ミナの会社の定義は「仕事を作り出し、与える者」だからだ。

 会社があるから、人々が生活できる。それは商人の誇りだ。


「では、相手の商会はなぜトガリアに勝負を挑んだのだとお思いになりますか?」

「ふむ…。そうですな…」


 これはミナが、トガリアに対するバンリオルの評価を問うている質問なのだ。


「簡単に言えば、トガリアが気にくわなかったと言えるでしょう。なにしろ、彼らの半分は元海賊ですからな。だから、まともな商売をしている商会とはみなされません。それは理解できますが…」


「ボリックさんは別の見方があると?」

 ミナはそこに興味を持った。


「トガリアは元々20年くらい前に作られたドーハイの小さな商会でした。しかし、アラゴンキアから許された海賊の一団が5年前にこのトガリアに加担したのです。そこから急速に伸びました。


 アルソーはトガリアをつくった商人の息子で、トガリアは当時からアラゴンキアと取引をしていたのですが、ご存じの通り、ドーハイはモーガダイに滅ぼされました。

 その後、アラゴンキア所属になり、商いを細々とつないでいたのです。


 一方、海賊たちはもともとドーハイの港に所属する船乗りたちで、国を失った後、単独でモーガダイの船を襲っていたのです。ま、復讐というやつですな。


 あるとき、モーガダイの海賊がアラゴンキアを襲っていたので、彼らはアラゴンキアを助ける側に回りました。

 これが縁で、彼らはアラゴンキアに保護され、刑を終えて、解放されたのです。


 そして、トガリア商会の一員となったのですよ。その一人が現在の商会長、ジオルダンですな。


 もともと普通の船乗りだった彼らは各地の港の情報に強い。しかも、裏情報も手に入る。アルソーは頭がいい。だから、あっという間に成功しました」


 そこでバンリオルは言葉を切って、少しまた考えた。


「ま、私に言わせれば、彼らには成功する理由がある。国を失い、復興したいという思いや、情報が手に入るという強み。


 全員が一致団結し、一つの目標に向かっています。これは最高の強みなのですよ。

 まだまだ小さな商会だからこそ、できることです」


「なるほど…。それは納得ですね。ジオルダンは、とてもおもしろい人でしたわ。ボリックさん、お会いになったことはございまして?」


「いえ。実際に会ったことはございません」

「ちょうど、あさってあたりに王都に来る予定でございます。でも…」


 そこでミナは思わずクスッと笑った。

「『よろしければお引き合わせしたい』と申し上げようと思いましたが…」

 とまだ笑っている。


「なんですかな? ミナさんがそこまで面白がられるとは。気になりますな」

 とバンリオルも興味津々だ。


「いえ、彼はまともな言葉遣いができないので、庶民言葉丸出しなのでございます。

 セグリオ卿はそれにあきれて、『そなたは王城では決してしゃべるな』とおっしゃる始末。

 ですので、何かあるときには、わたくしとセグリオ卿が通訳をするはめになっているのですわ」


 とミナはおかしそうに言った。


「でも…」

 とミナは笑いを止めて、バンリオルの別の顔を思い出した。


「ボリックさんは飯屋の店主のような演技もできるかたですから、さしつかえないかもしれませんね」

 そう言ってまた笑った。


「いや、その話をされると…。ミナさんにわざと水を掛けたことがばれていますから…」

 とバンリオルは頭をかいた。

 

 そして、ミナと二人で後ろに立つカイルをちらりと見るのだった。



少し難しい金融のお話ですが、この金融が次に大事件となります…。


よかったら、ブックマークしていただけると、とても嬉しいです!


用語集

ミナ … 主人公。MBAを取得したあと、異世界に来て起業する。ブリア領主にブリア侯行政顧問に任命される。

ボリック・バンリオル…大商人でミナの知恵を高く評価している

アルソー…トガリア商会の元の会長、今は参謀

カイル…ミナを助けた冒険者で、今はバンリオルの私兵

トガリア商会…アルソーの父の作った商会で、今は元海賊が半分いる。

アラゴンキア … ミナが住んでいる国

ドーハイ…アルソー、ジオルダンの住んでいた国。モーガダイに滅ぼされた

モーガダイ… ドーハイの北の国で、ドーハイを滅ぼした

セグリオ … ミナの同僚

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