アルソーの頭脳とジオルダンの機転 (第84、85話)
MBAを取得し、アメリカで働いていたミナは、異世界で起業する。ミナの賢さに気づいたブリア領主アンドリオンはミナを行政顧問に迎えた。ミナは、ブリア領を侵略から守るため、コブルー港を自由港とする構想を立てる。その第二段階として、外国商人が泊まれる高級宿の入札会を開催した。しかし、その途中で侵略者が港を襲うという事態になり、会場は大騒ぎとなったのだが…。
このお話は、ミナがブリア領の行政顧問となり、ブリアを侵略から守るため、自由港を作り上げるという壮大なお話です。長いお話ですが、よかったら、お付き合いください!
初めてお読みになる方は、下に用語集があります!
ミナ、セグリオ、バラントンの3人の官僚の護衛たち全員が周りに集まり、人夫の元締めは広間を飛び出して港へ走り、少し遅れて右往左往していた見物人たちも出口に走り出す。
モーカドールのエルバンも立ち上がり、ミナに向かって歩いた。
そして、冷ややかに声を出す。
「非常事態のようでございますな。残念ですが、戦争が始まる土地には我らは両替商を出すことはできません。ですので、この度の入札はいったん取り消させていただきます。なにとぞ、ご無礼をお許しください」
「な、なんと…」
セグリオとバラントンは顔を見合わせる。
「エルバン、それでよいのですか? 入札をなかったことにと?」
ミナは青ざめて、焦った声で確認する。
「はい。我らはいったん急ぎ国に帰らせていただくことにいたしますので、これにて失礼を」
「おい、ちょっと待てよ!」
そう言ったのはジオルダンだ。
「あんたんとこはうちと入札区画が重なってんだよ。抜けるってことは、うちが区画をもらっても、文句ねえってことだよな?」
「ふん。知らぬ。勝手にするがいい」
そう言って、エルバンをジオルダンを見下したようににらみ、一行は身をひるがえし、出ていった。
それを見て、クッシャリエはどうすべきかとおろおろしている。まだ判断がつきかねているのか、戸惑いを隠せない。
コーハラルはアラゴンキアの人間だから、逃げようがない。
ジオルダンの部下が、モーカドールの一行が完全に建物から立ち去ったのを彼に報告した。そして、扉を閉めにいった。
すると、ジオルダンが呆然としている3人に近づいてくる。
そして、小さな声で言った。
「これで、あいつらは戻ってこねえ…。さ、落札会を始めようぜ」
ジオルダンは大男の見かけに似合わず、テヘッと茶目っ気を見せて笑った。
「ありゃ、俺の仕組んだ芝居だ。沖にいるのはたんなる漁船だよ」
ミナと二人の官僚は、唖然とする。
「こ、これはいったい…」
ジオルダンはアルソーの手を掴んで、3人の前に彼の指を見せる。
そこには、声を録音できる魔道具がはめられていた。
「あっちがああ出るなら、こっちだってこれさ。あいつの声は録音してある。安心しな」
「な、なんと…」
3人とも絶句した。
「言ったろ? 船乗りの情報はバカにならねえぞ。あいつらがすでにキア通貨を買い占め始めているのは、俺らだって知ってんだよ。アルソーは天才なんだ! そのくらい見抜けるんだよ!」
彼はアルソーの手を放し、得意げに言った。
「な?! アルソー!」
ジオルダンはアルソーの背中をバンと叩く。アルソーは控えめだが、歯を見せて声を立てずに笑った。
「み、みごとだ…。なんという…」
セグリオは開いた口がふさがらないとはこのことだ。
バラントンもこれではジオルダンを認めざるを得ない。
「向うから断らせるという作戦は、思いもつかなかった…」
そう言って、セグリオと顔を見合わせる。
「ジオルダン、礼を言う。これで港の乗っ取りの脅威が防がれた。そなたの働きは国王に伝えよう」
セグリオもジオルダンの働きを認め、ねぎらった。
「ああ、これは俺らが勝手にしたことだ。後からあんたらがイルマランに何か言われても、知らぬ存ぜぬを通せばいいさ」
「なんと…、かたじけない」
セグリオもバラントンも、ジオルダンの人間の大きさにやっと気づいた。
ミナもやっと何が起きたのか理解でき、深くため息をついた。
「では、トガリアは1番区画と3番区画を手にした、というわけですね」
そう言うと、やっと安心してクスクスと笑い始めた。
「そういうこった。ねえちゃん、わかってるじゃねえか?!」
そう言って、声を上げて大笑いした。ミナも緊張が解けて、笑い出す。
(外国語、外国語…)
バラントンは唇だけ動かして、その言葉を唱えていた。
「さあさあ、落札会を再開するぜ!」
すっかりと場を仕切るジオルダンに苦笑いしながら、3人は机に戻る。
聴衆のいなくなった広間で、落札が発表された。
1番区画と3番区画がトガリア、2番区画にクッシャリエ、4番区画にコーハラルとなった。
これで、ミナの嵐のような10日間が終わったのだった。
第85話 銀行を守る施策の提案
真冬の王都の空気は華やかだった。
冬には半分眠ったように静まり返るエルノーの村や、冷たい潮風の吹く港町コブルーとはまるで違う。 ここではすべてが威厳と調和の中にあり、それは真冬でも変わらない。
新年の華やかさはまだ残っており、商店には華やかな飾りが入り口に掛けられている。
石畳を通る馬車の車輪はキシキシときしむ。ミナは馬車の窓から王都の街を眺めていた。
(前に来た時も12月で冬だった)
ミナは初めて王都に来たときを思い出す。
それはほぼ1年前だ。そのときはバンリオルの馬車で来たが、今回はブリア領主が出してくれた馬車で、セグリオと共に来たため、直通で3日の道のりだ。
セグリオに案内され、財務庁本館にやってきた。
厚手のマントをしっかり着こんで、美奈はその大理石の冷たい廊下を歩きながら、周りをよく見まわす。
(ここが……国の金の流れを決める場所…)
隣を歩くセグリオはいつになく緊張しているようだった。彼は商務庁の官僚だが、財務庁にもよく訪れており、内部もよく知っていた。
重厚な黒木の扉の前に立つ。そこには財務庁の紋章――秤と鍵の紋章が丸い銀板に彫り込まれている。それは金と封印の象徴だ。
衛兵が扉を開けた。
そこは会議室である。円形の大きな木卓が中央にドンとおかれ、椅子が20はあるだろう。そのいくつかにはすでに7人の官僚が座っていた。
全員が無表情。皆制服である紫の衣を着ている。
中央に座る60代の男が口を開く。
「ようこそ。ブリア侯行政顧問ミナ殿。そしてセグリオ卿」
声は予想よりも少し高く、あたたかだった。
「私は財務庁金融部長、カルドゥス」
ミナは一礼する。セグリオもわずかに頭を下げた。
「国王陛下から、おふたりに対処するように申し付けられております。コブルー港を特殊な金融制度で守るというお話ですな」
カルドゥスは前置きをしなかった。
「報告はすべて読みました。イルマランがキア通貨を買い占めているという話は脅威ですな」
「まことに」セグリオが頷いた。
「それを指摘したのが、トガリア商会であるということも脅威でございます」
それはセグリオの本心だった。
一商会が、金融部よりも先にそのことを察知しているというのは恐ろしいほどの諜報力なのである。
「こちらでも確認しております。確かにトガリアの言う通りでしたな」
「はい。今回はトガリアの機転のおかげで、イルマランの強引な両替商出店の意図を食い止めることができましたが、今後のことを考えなくてはなりません」
「ほう。で、なにか提案があるとのことですが?」
「はい。その通貨危機についての対策の案でございます」
それは、ミナが意を決して提案する策で、まだこの世界には存在しないものだった。
金融侵略の危険を知ったミナ。それを阻止するためには何が必要なのか?
ミナが提案しようとしているものは何か?
次回は金融の重大な問題点をミナが語る…
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用語集
ミナ … 主人公。MBAを取得したあと、異世界に来て起業する。ブリア領主にブリア侯行政顧問に任命される。
セグリオ… 王都から派遣された商務官僚、ミナの同僚
バラントン … ブリア領主から派遣された補佐官、ミナの同僚
モーカドール…隣国イルマランの商会
エルバン…イルマランのモーカドール商会の代表
ジオルダン …元海賊のトガリア商会長
クッシャリエ … バンサラー国の商会で入札者
コーハラル … アラゴンキアの商会
アラゴンキア…ブリア領のある国
アルソー … トガリア商会の参謀で影の代表
エルノー… ミナが住んでいた村
バンリオル…大商人でミナの知恵を評価している
キア通貨…アラゴンキア国の通貨




