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第10話 ミナのチート能力と営業のコツ

プレゼンでどんなことを話すのか…って知らない人も多いよね。

こんなかんじ。


それから、ここには「現実」の定義が書いてあります。いくら目で見えていても、触れて初めて現実となる。…バーチャル空間が当たり前となった現代だから、これに意味がありますね!

タンブリーの街につくと、商業振興会を訪ねた。ここの応接室で3つの商会にプレゼンをするのだ。


まず午前の会社、午後イチの会社、そして、午後二の会社。個別に会うが、ミナからの提案は同じだった。


3社目のプライク商会の担当トージャーは、中堅の社員だった。彼は30代でかなりの経験を持っている。商人たちはだいたいきちんとしたスーツを着ていた。胸には商会の紋章の入ったバッヂをつけている。


「買い取り価格は常設店価格の5掛けでお願いしたいと思います」

「なんと、5掛けで?」


トージャーはミナの提案に驚いた。そこまで安くするとは思わなかったのだ。

この世界では、まだ野菜の一括買い取り制度はない。

だから、常設店価格の5掛けでも、かなり安く感じるだろう。


「販売価格には農民が各自で売りに来る手間と時間、それによる廃棄リスクが含まれています。わたくしの仕組みでは、その分が不要になります。それで5掛けです」


「とすると、粗利は…」

「もちろん、その中から輸送費、営業費を出すことになります」

「つまり、届けていただいてからはこちらが客に配送するということですな」


——ミナの頭の中では、すでに数字が組み上がっていた。


農家は通常、市場に卸す。農家にはその価格を基準にすればいい。そして、商会には常設店の価格を基準にする。商会は市場に手を出さないからだ。常設店の価格は市場より2割ほど高い。


実際の価格に直すと、次のようになる。


農家から1箱1ポルで買い取った野菜を、ミナは1.5ポルで商会に渡す。差額の0.5ポル。それが、ミナの取り分だ。商会はそれを3ポルで売るだろう。


今の計算では、月に500箱動かせれば、ミナの取り分は250ポルになる。固定費を差し引いても、ようやく黒字が見えてくる数字だ。20軒の農家が、月に25箱ずつ出してくれれば届く計算だった。


「わたくしがお勧めするのは、常設店に出すよりも、むしろ大量の購入が可能な大口客の確保です。せっかく大量に一括購入していただくのであれば、大口客を狙えます。


大口客にとっては価格の安さよりも、戸口まで配送されるということが大きな利点です。


それも定期的に決まった量を。そもそも運ぶのに人件費がかかっていますからね。


これは、一括購入する業者だけができるサービスです。そのような客の確保に成功すれば、常設店以上の価格でも販売できるでしょう」


一括購入だからこそできるスケールメリットを生かす作戦だ。


「なるほど…大口顧客向けですか…」


「扱う金額が大きくなるので、経費を除いた営業利益が2,3割となっても、かなり良いかと思います。営業力がなければこの事業は成立しません。ですから、それが可能な商会にぜひこの仕組みを利用していただきたいのです」


「なるほど…。固定の大口客を確保するのは確かに良いとは思いますが、逆にリスクは高くなります。その客がもし倒れてしまったら? 突然取引先を失います」


「もちろん、それは可能性として起こりうるでしょう。リスクを回避するためには、大口の客を複数持つという将来のビジョ…絵が必要になります。


5日に一度の配達のペースですと、5か所の客を持つことができます。もちろん、それ以上も可能です。複数持てばリスクはそれだけ低くなります。そのような計画も未来の可能性としてお考えください」


「なるほど…」


(……数字だけ聞けば夢はある。問題は、誰がその営業を担うかだな)

 トージャーは思わず真剣に自分の商会に適任者がいるかを頭の中で探し始めた。

(あっ…)


彼は驚いていた。

これは相手の思い描くビジョンに引き込まれたということだ。

まるで、ベテラン商人と会話をしているようだった。

しかし、目の前の女性は、まだほんの17,8に見えるのだ。


「あの…失礼ですが…」

「はい?」

「ミナさんはどこで商いの仕方を学ばれたので?」

「ああ…」


コーダが言っていたとおり、この世界では若い女性がここまでビジネスの話をするのは不思議らしい。

ある意味、MBAは異世界のチート能力なのだ。


もっとも、今の外見のほうが転生時のチートなのだが。


「大学で学んだのです。お恥ずかしいですが、正直に申し上げまして、まだ実績と呼べるものはございません。しかし、わたくしはなんとしてもこの事業をやり遂げたいと思っております」


「な、なるほど…」


トージャーはどこの大学とは聞かなかったので、ミナはホッとした。

「わかりました。とりあえず、商会本部に持ち帰らせていただきます」


「はい、ご検討、よろしくお願いいたします。ぜひとも御社のご協力をいただき、御社も村もともに繁栄したいと願っております」


こうして、3つのプレゼンが終わった。


カイルはしばらく一人で出かけていたが、ミナが3つのプレゼンを終えるころには会館のロビーに戻っていた。


「カイル。終わったわ。待っててくれてありがとう」

「ん」

 カイルはいつものようにミナにマントを着せてくれた。


これから二人で仮縫いのために仕立屋に行くのだ。


歩きながら、ミナは今後の展開について考えていた。

3社からの返事を聞きにまた街に来なければいけない。

だが、ミナが一人で街に来ることができないので、またカイルに同行をお願いしないといけない。


ミナはカイルの顔を無言でじっと見た。カイルはなぜ見られているのかわからず、きょとんとしている。


今は冬なので、カイルは狩りに行かないから、たいがい都合がつく。とはいえ、春になるとそうはいかない。あんなに稼げるのだから、狩りに行くのを優先するのは当然だ。


(ほんと! こういうときに不便なのよ。女が一人で歩けないって最悪…)

ミナはぎゅっと右手こぶしを握り締め、悔しがる。


女性が安全に暮らせる世界でなければ、女性がビジネスをするのは難しい。

護衛を雇えるほどになるには、まず高いステージに上がる必要がある。

でも、護衛が必要なのはその前の段階からなのだ。世の中にはこういう矛盾がつきものだ。


(はぁ~、欲しいな~。冒険者の護衛…)


ミナには今すでに冒険者の護衛を連れているという認識がなかった。空想の護衛の冒険者とは、せいぜいレイ程度の収入で剣を持っている程度のイメージだったのだ。これなら自分でも雇えるだろうと思って。


「まあ、奥様、だんな様、お持ちしておりました!」


(その呼び方、やめてほしい…)

ミナは思ったが、カイルは訂正することなく、勝手に椅子に座った。付き添いが座るような隅っこの椅子だ。


「奥様、こちらへどうぞ。すぐにドレスをお持ちいたします」


 店員はドレスを持ってくると、ミナを仮縫い室に案内し、草色の生地にマチ針をあちこちに打ち、寸法を整え始めた。ドレスと言っても、厳密にはツーピースで、ブラウスとスカートに分かれている。


もし、どちらかが着られなくなっても片方だけ注文できるように。

太ったり、汚れたりすることがあるためだ。他の組み合わせで着れば少ない服でもバリエーションが出る。


ツーピースは貴族向けではないが、それでも仕立服は目の飛び出る高級品だ。金持ちしか利用しない店なのだ。しかもカイルが選んだのは特に高級な生地だった。


「よくお似合いですわ~」

そう言いながら、店員はミナをカイルの前まで案内する。


「どう、かな?」

 ちょっと照れながらカイルに見せた。彼が黙ってじっと見ているので、くるりと回る。

(なんか、言ってよ!)

「うん、ミナだ」

左手で右の肘をささえ、右手のげんこつを唇に当てながら、カイルは変な言葉をつぶやいていた。


(ん? 今まで私はなんだったんだろう? ヨーカに見えてたのかな?)

そんな謎の言葉に首をかしげたが、仮縫いは無事に終わった。


 二人で仕立屋を出た。

「カイル、ありがとう。すごくうれしい」

 ミナはカイルに向かって素直にお礼を言った。


「ん…。あのときのミナがもう一度見たかった」

「あのとき?」

 カイルはすぐに答えず、しばらく遠くを見ながら、優しい微笑みを浮かべていた。


「ほら。俺がミナを森の草原で見たとき。あのときミナは草色の服を着ていた」

「うん…?」

「そして、草の中に埋もれるように倒れていた」

「そう?」

「で、俺が手を差し出したら、絵の中から浮かび上がるように立ち上がった」


カイルはミナが二次元から立体化するようなイメージを思い出していた。

(え、そうなんだ?)


「髪の毛もくしゃくしゃで…。白い足も見えていて…。この世のものに見えなかった」

(そこ?! やっぱり山姥…)

「あれが本当のミナ。生まれたばかりの緑の妖精みたいで、…不思議な生き物」


「えっ…」

褒められたのか、魔物扱いされたのかわからないカイルの言葉だった。

(ま、こんな高級品を3着も買ってもらったんだから、よしとしよう…)



「ねえ、カイル。どこかに食事に行きましょうよ」

「食事?」


ミナはこの世界に来てから、軽い朝食と軽い昼食、そして大量の夕食という食事のしかただった。しかし、街には飲食店と呼べるものがある。

このような場所で、どのように食材を調達しているのかを知りたかった。ミナは市場で稼いだ分をもらったので、現金を少しばかり持っている。


「ほら、私がおごるから!」

と強引にカイルを飲食店に連れて行った。


高級ではないが、人気のありそうな飲食店に入って、いくつかの料理を注文した。メニューはほんの6行しかなく、あとは黒板に書かれたメニュー3つだった。「本日の料理」である。


ミナはそれを観察していた。

(つまり、いつも仕入れる素材は6食のメニュー分のみ。あとはその日の仕入れ状況によるということね。必要な野菜は、付け合わせを見ないとわからないけど…。どうやって仕入れているんだろう?)


日本では「シェフ自ら市場に行き、目利きをして…」というのがすばらしい店の代名詞だ。


しかし、そんなことはなかなかできない。シェフは朝4時から夜10時まで仕事をすることになってしまい、身体を壊すかもしれない。仕入れは効率が良い方がいいだろう。


特別な高級店でない限り、普通は飲食店向けの卸からネット注文しているはずだ。


ミナは客の数が少なくなるのを待って厨房に行き、料理人に仕入れについて尋ねた。すると、やはり店主が市場で買っているということだった。


(そうか。飲食店だとかなりの量を買うだろうに…。配達システムがあるといいな)

 少なくとも、定番メニューの食材は一定だし、日替わりのメニューもある程度の幅しかないだろう。

日替わり用の野菜をお任せにすれば、店主は市場に行かなくて済む。


席に戻りながら、ミナは考えた。


(日本では、店主が毎朝市場に行かなくても、食材はちゃんと届く。それは誰かが「まとめて動かす仕組み」を作ったからだ。こういうインフラの整備ってすごいこと。どんな仕組みも、最初に考えた人はすごく苦労したんだろうな…。この世界にも作ることができたら…)


 現代社会を離れて異世界に来て、ミナははじめて現代社会のインフラがひとつひとつ、計り知れないリスクを担った誰かの不屈の労力によって作られたのだということに気づくのだった。


モノを売りたい人は、相手に、それを買った後の未来を想像させること。

これ、営業の基本のキ。


経営者マインドって、すごく忙しい。見るもの聞くもの、すべてが経済に変わる。

レストランで食事していても、「この原価は…」と考えているあなた。

起業家マインド、ありますよ!


次回は役場を巻き込む戦略について。

ブックマーク、してくださると、大変喜びます。よろしくお願いします。


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