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デスゲーム開始から100年が経過した  作者: 暇人のアキ
第二章 1羽の鳥となって、このソラの向こうへ
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エンディング後の世界

 灰色のガレキの山の上に、少女は立っていた。


「あははっ、おっかしいな~」


 少女は乾いた笑い声をあげながら、あたりを見渡す。

 少女の目に映っていたのは、見慣れた白い壁で覆われた塔でも、記憶の端にある中世風の木造建築でもなかった。

 少女の周りには、もはや記憶の彼方(かなた)となった灰色のビル群が広がっていた。


 いや、正確には記憶にあるものと少し違う。

 ビル群は風化し、ヒビ割れ、または倒壊していた。

 おそらく、この都市が放棄されてからもう何十年も経っているのだろう。


 崩壊した現代風の都市。

 そこは、少女がこれまでいた世界とはまるで違う。

 彼女の世界は変化していた。


「――なにも、変わってない。そっか。なにも変わらなかったんだ。ははっ」


 自嘲するように、少女は乾いた笑みを漏らす。

 たとえ見える景色が大きく変わっていても、彼女に言わせれば何も変わってなどいない。


 突然、少女のすぐそばのビルが大きな音を立てて崩れる。

 彼女は首だけをひねってそちらを見る。

 そこには、現代都市には到底似つかわしくない存在がいた。


 そこいたのは、一軒家くらいの大きさのイノシシのような化け物だった。

 化け物は少女をその目にとらえると、鼻を鳴らして突進の準備を始める。

 化け物にロックオンされた少女だが、そんなことは気にも留めずに、どこかで見た覚えのあるやつだな、なんて考えていた。

 そして思い出す。

 そいつはかつて彼女が初心者だったころ、それなりに苦戦して倒したボスモンスターだった。


 そう、モンスターだ。

 なぜこの世界にもモンスターが?

 なんて、考えずともわかる話だ。


 少女が今いるこの世界は、ゲームの中の世界なのだ。

 たとえ地獄を乗り越えても、たとえラスボスを倒しても、たとえログアウトしたとしても、それは新たなるステージへの切符に過ぎない。

 少女の世界は、何も変わってなどいない。


 イノシシが突進をはじめ、少女の死の刻限が迫りくる。

 しかし彼女が動じることはない。


 アニメの中から飛び出してきたかのような見た目をした少女は、ゲームのような動きでトンっと跳ぶ。

 モンスターの突進をかわしながら、手にした短剣で一刀二刀。

 それだけで、勝負はついた。


 断末魔をあげながら、モンスターは透明になって消えていく。

 その様子を少女――ハートは静かに見つめていた。


「――ほんとうに、クソゲーにもほどがある」


 ――デスゲーム開始から100年。

 ゲームは、未だに終わっていなかった。



 ♯



「ふんふんふ~ん、ふ~んふんふ~ん」


 ガレキを踏みながら、ハートは崩壊した都市を歩く。

 楽しそうな声音で鼻歌を歌い、今にも踊りだしそうなほど足取りは軽い。

 その姿は、かつて『ロストアドベンチャー』を冒険していた時を彷彿(ほうふつ)とさせる。

 唯一違うのは、その目が全く笑っていないということくらいか。


「うーん。それにしてもこのマップ、どういう世界観なんだろうね~」


 崩れた都市群にはところどころ日本語が書かれていたうえ、いくつか見慣れたチェーン店の看板も見かけた。

 その様はまるで、本当に100年間放置され続けた日本のようだった。

 しかし、日本というにはおかしなところも多い。

 モンスターの存在もそうだが、何より顕著なのは"塔"の存在だ。


「けっこう歩いたと思うんだけど、意外ととおいね~」


 ハートの視界の先には、スカイツリーくらい高い塔が映っていた。

 もっとも、あまりの大きさに遠近感が狂わされるので、本当にスカイツリーほどの大きさなのかはわからないが。


 ハートは現在、あの塔を目指して歩いていた。

 なぜかというと、ハートが目覚めたときにこんなアナウンスがあったからだ。


 ――ゲームクリアおめでとうございます。皆様、まずはあれらの塔の内の一つを目指してください。


「ははっ。いやだけど、とりあえず目指してみるかな~。ほかのプレイヤーに会えるかもだし」


 運営の思い通りになるのは(しゃく)だが、他のプレイヤーには会いたい。

 もしかすると、他のプレイヤーなどいないのかもしれないが。

 いいや、もしかしなくともそうなのかもしれない。

 先ほどから会うのはモンスターばかりで、人の気配などカケラもしない。

 この世界にたどり着いたのは自分だけで、他のプレイヤーはまだあの世界にいるか、あるいはまた別の世界に――


 遠くのほうで、ビルが崩れる音がした。

 自然崩壊か、それともモンスターか。

 音はだんだんと近づき、やがて眼に見える範囲のビルも倒れていく。


 これはモンスターの仕業だろう。

 音から察するに、モンスターは次々とビルをなぎ倒しながらこちらに向かっているらしい。


「……ははっ。ほんっとしつこいな~」


 ハートは短剣を構え、敵に備える。

 音はどんどんと迫り、ついにはハートの目の前のビルもなぎ倒される。

 ガレキが舞い、視界が煙色に染まる。

 しかし、ハートにとって煙は大した障害にはならない。

 視界不良の中でも、ハートの眼はしっかりとその敵を捉え――武器を降ろした。


 まるでトラックのような勢いで、ハートに何かがぶつかってくる。

 ハートはそれをよけようともせずに、そのまま衝突した。


「コ・コ・ちゃー----ん!!」

「ぐえっ」


 懐かしい呼び方で、安心するような声で、その人はぶつかってきた。

 重装鎧に身を包み、肉付きの良い体をし、ハートよりも二回りは背の高いその女性。

 女性の勢いは強く、ハートはそのまま押し倒されてしまう。


「ココちゃんココちゃん!あー、ココちゃー--ん!」

「レイちゃん、重い」


 その女性――エイこと〈あ〉はハートをつぶれるほどの強さで抱きしめ、全体重で押しつぶしていた。。

 STR()の差からハートにはエイをどかすことができず、割と本当にダメージを受けそうだった。


 しかし、エイはどこうとしない。

 まるで離してしまえばすぐに消えてしまうものを抱えるように、エイは力いっぱいハートを抱きしめていた。


「……ウゥッ、よかった。生きてて、よかった……」

「……レイちゃん」


 エイが顔を離し、ようやく2人の目が合う。

 エイはグズグズに歪んだ表情でハートを見ていた。

 この体に体液を分泌する機能はないが、あったのならば、きっとエイの顔は涙と鼻水でベチャベチャだっただろう。


「ごめんね。ずっと、一人にさせて。助けてあげられなくて、ごめんね」

「気にしてないよ」

「うわー--んっ!ココちゃん!」

「もうー。泣き虫だな、レイちゃんは」


 エイはハートの胸に顔をうずめ、ワンワンと泣き始めた。

 涙は出ずとも、彼女は確かに泣いていた。

 そんなエイをなだめるように、ハートは目の前の頭を優しくなでた。


 どれくらい時間が経っただろうか。

 エイがようやく泣き止んだ。


「落ち着いた?」

「うん、ありがとう」

「じゃあ、その、とりあえずどいてくれない?」

「わわっ、ごめん!」


 自分がハートを押しつぶしていることに気が付き、エイは慌てて立ち上がる。

 ハートも遅れて立ち上がり、両者は顔を合わせた。


「じゃ、改めて。久しぶり、レイちゃん」

「うん。久しぶり、ココちゃん」


 親友同士、実に30年ぶりに交わした笑顔だった。

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