第八十五話 カイリを憎む双子の騎士
王宮エリアが、戦場と化している中、コーデリアは、女帝の間にいなかった。
自室にいるわけでもない。
まるで、地下室に向かっているようだ。
なぜ、地下室に向かっているのかは、不明だ。
魔剣を手に入れようとしているのだろうか。
「ふふ、キウス兵長は、死んだのね……」
地下に向かっている最中、コーデリアは、立ち止まり、呟く。
悟ってしまったようだ。
キウス兵長の死を。
だというのに、コーデリアは、微笑んでいた。
それも、嬉しそうに。
「でも、あの二人と彼女をどうするつもりなのかしら。楽しみだわ。ヴィオレット」
コーデリアは、再び、歩き始める。
どうやら、罠を仕掛けてきたようだ。
「二人」とは、おそらく、クロスとクロウの事なのであろう。
だが、「彼女」とは、一体、誰の事なのだろうか。
ヴィオレットに関係のある女性であり、おそらく、「ルチア」ではないだろうか。
コーデリアが、何を仕掛けているのかは、不明であった。
ヴィオレットは、クロスとクロウを目にして、動揺している。
カイリのように。
――クロスとクロウが、なぜ、ここにいる?幻か?
ヴィオレットは、思考を巡らせる。
なぜ、ここに、クロスとクロウがいるのか。
クロスとクロウは、ルーニ島出身の双子であり、光と闇の騎士である事は、ヴィオレットも、知っている。
ルーニ島で、ルチアと共に、共闘した事があったからだ。
それも、何度も。
特にクロスと行動を共にする事があった。
二年前のあの日から、二人は、どうなったのかは、不明だ。
ヴィオレットは、帝国を滅ぼすことしか、考えていなかったからだ。
と言っても、クロスとクロウが、この帝国にいたとは、到底思えない。
だとしたら、幻なのだろうか。
ヴィオレットは、二人を警戒していた。
――いや、その類ではない気がする。キウス兵長が言っていたのは、この事か……。
二人の様子をうかがっていたヴィオレット。
どう見ても、二人が、幻とは思えない。
二人が、現れる直前に、キウス兵長が、意味深な発言をしていた。
おそらく、精神的にと言うのは、彼らの出現により、精神を揺さぶられると言いたかったのだろう。
ヴィオレットは、そう、推測していた。
「なぜ、この二人が……」
「カイリ?」
「どうしたんだ?」
カイリは、体を震わせる。
明らかに、動揺している。
それも、異常なまでに。
カイリの異変に気付いたアマリア。
ヴィオレットも、問いかけるが、カイリは、答えようとしなかった。
「お前のせいで……」
「俺達は……」
クロスが、カイリをにらむ。
続けて、クロウも、カイリをにらみつけた。
まるで、カイリを恨んでいるかのようだ。
彼らの間に、因縁があったのだろうか。
「この二人は、私のせいで……」
カイリは、目を閉じ、うつむく。
まるで、罪にとらわれているかのようだ。
カイリは、二人に何をしたのだろうか。
ヴィオレットは、思考を巡らせるが、見当もつかなかった。
「そうだ。お前が、俺達の運命を狂わせた」
「だから、許せない」
クロスが、カイリを責め始める。
運命を狂わせたと言うが、カイリが、何をしたのだろうか。
クロウも、剣を鞘から引き抜き構える。
カイリを殺そうとしているのだろう。
クロスとクロウは、同時に、床を蹴り、カイリに斬りかかった。
「くっ!!」
「カイリ!!」
カイリが、とっさによける。
それでも、二人は、カイリに斬りかかった。
ヴィオレットやアマリアを狙うつもりはないらしい。
彼らは、カイリを殺そうとしているのだ。
アマリアは、危険を感じて、二人を止めようとするが、ヴィオレットが、アマリアの前に出た。
アマリアを守るかのように。
「アマリア!!カイリを頼む!!」
「わかりました!!」
ヴィオレットは、カイリの事をアマリアに託す。
カイリを守らせるために。
アマリアは、うなずき、カイリの元へ向かった。
そして、ヴィオレットは、クロスとクロウの前に出たのだ。
カイリを守るために。
「ヴィオレット、どけ!!」
「こいつは、殺さなきゃいけないんだ!!」
クロウが、声を荒げる。
それも、珍しく。
彼は、常に、冷静であった。
ヴィオレットも、彼の事は、覚えている。
忘れるはずがない。
クロスも、穏やかで、温厚な青年だ。
だというのに、彼らは、別人であるかのように、怒りを露わにしている。
相当、カイリを恨んでいるかのようだ。
「待て、落ち着け。何があった?」
ヴィオレットは、あくまで、冷静さを保ちながら、二人を諭す。
彼女も、知りたいのだ。
何があったのかを。
そして、二人は、本当に、幻なのかも、見極めなければならなかった。
「こいつは、シャーマンを殺した」
「そして、俺達も……」
「え?」
クロウは、ヴィオレットの問いに答える。
確かに、カイリは、シャーマンを殺した。
その事は、ヴィオレットも、アマリアも、知っている。
だが、二人も、知らなかったことがあった。
クロスとクロウの事だ。
クロスは、自分達も、と、語った。
と言う事は、クロスとクロウは、カイリによって、殺されたと言いたいのだろうか。
アマリアは、驚き、カイリの方へと視線を向けた。
「まさか、クロスとクロウも?」
「……」
驚いているのは、アマリアだけではない。
ヴィオレットもだ。
まさか、カイリは、クロスとクロウを殺してしまったのだろうか。
問いかけるヴィオレット。
だが、カイリは、答えようとせず、黙ったままだった。
答えられないのだろうか。
「と言う事は、幻なのですか?」
「違う。けど、俺達は、確かに、本物じゃない」
「コーデリアから、作られた偽物だ。本物のクロスとクロウの力と記憶を複製してな」
アマリアは、クロスとクロウに問いかける。
仮に、カイリが、二人を殺してしまったとするならば、目の前にいる彼らは、幻なのではないかと。
だが、アマリアの問いに、クロスが、首を横に振って、否定した。
どうやら、幻ではないらしい。
と言う事は、彼らは、一体、何者なのか。
クロス曰く、自分達は、本物のクロスとクロウではないらしい。
クロウは、続けて説明した。
自分達は、本物のクロスとクロウの力と記憶を引き継いだ偽物なのだと。
つまり、複製された偽物と言いたいのだろう。
「一体、何があったのですか?」
「……」
アマリアは、問いかける。
それでも、カイリは、答えようとしなかった。
決して。
頑なに、拒む理由は、何なのだろうか。
「答えないなら、教えてやる」
「俺達は、こいつと、戦った。シャーマン様の仇を取るために」
しびれを切らしたのか、クロウが、自分達が、語ると言い始めた。
クロスも、便乗し、語り始める。
事の発端は、シャーマンをカイリが、殺したことによるものであった。
何らかの方法で、クロスとクロウは、知ってしまったのだろう。
シャーマンを殺したのは、カイリであると。
ゆえに、クロスとクロウは、カイリに剣を向けた。
「けど、それは、叶わなかった。こいつが、爆発を引き起こしたんだ」
「え!?」
クロスとクロウは、シャーマンの仇をとれなかった。
なぜなら、カイリが、爆発を引き起こしたからだ。
どうやったのかは、不明だが。
アマリアは、驚き、動揺した。
一体、カイリは、なぜ、爆発を引き起こしたのだろうか。
ヴィオレットやアマリアに、視線を向けられたカイリであったが、それでも、答えようとしなかった。
「そのせいで、俺達は、死にかけた」
「本物が、どうなったかは不明だが、コーデリアは、俺達を生み出した。だから、俺達は、ここにいる」
クロス曰く、爆発に巻き込まれたクロスとクロウは、生死不明の状態となってしまったらしい。
だが、コーデリアは、クロスとクロウを見つけたのか、彼らを複製したのだ。
それも、何らかの方法で。
ゆえに、彼らが、生まれ、今、ヴィオレット達の前に立っていた。
「本当、なのですか?カイリ……」
「そうだ。私が、クロスとクロウを巻き込んでしまった……。私の力が暴走して、彼らを……」
アマリアは、カイリに問いかける。
真実を知りたいのだろう。
全てを聞かれ、観念したのか、カイリは、声を震わせて、語り始めた。
だが、爆発を引き起こしたのは、カイリの意思ではないらしい。
カイリの力が、暴走してしまったがために、爆発が、起こり、クロスとクロウは、巻き込まれたのだ。
カイリは、今も、悔やんでいるのだろう。
彼らを巻き込んでしまった事を。
ゆえに、答えられなかった。
自分で話してしまうと、罪に耐えられなくなってしまうから。
「だから、こいつだけは、許すわけにはいかない」
「そう言うわけだから、ヴィオレット、そこを退いてほしい。君を傷つけたくない」
二人は、偽物だ。
だが、本物と同じ記憶を共有しているからこそ、クロスとクロウは、カイリを許せなかった。
クロスは、ヴィオレットに懇願する。
ヴィオレットを傷つけたくないようだ。
彼らは、ヴィオレットと共に戦い、過ごした記憶があるからであろう。
「断る」
「何?」
ヴィオレットは、静かに、拒絶した。
二人の懇願を。
それを聞いたクロウは、ぴくりと眉を顰める。
まるで、怒りを露わにしているかのようだ。
だが、クロスは、複雑な感情を抱いているようで、目を伏せた。
「何があったのかは、わかった。だが、お前達が、偽物だというのなら、コーデリアが、複製したというのなら……」
ヴィオレットは、理解している。
クロスとクロウも、巻き込まれてしまったのだと。
だが、彼らは、偽物であり、作られた者。
つまり、帝国の民と同様と言っても過言ではない。
もし、彼らが、地上に降り立てば、それこそ、妖魔と化し、世界を滅ぼしてしまうかもしれない。
そう思うと、ヴィオレットの取るべき行動はたった一つであった。
「殺すだけだ!!」
ヴィオレットは、鎌を振り回し、決意を固めた。
たとえ、クロスとクロウであっても、殺すと。




