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第八十六話 憎しみを受け止めて

 クロス、クロウとの戦いが始まってしまった。

 カイリは、このような戦いを望んではいないだろう。

 だが、避けられない戦いだ。

 カイリも、その事は、わかっている。

 ゆえに、戦うしかなかった。


「はっ!!」


「ちっ!!」


 クロスとクロウが、カイリに刃を向ける。

 騎士だけが扱える古の剣を持っていなくとも、二人の実力は、かなりのものだ。

 故に、敵に回すと厄介であった。

 クロスとクロウの目的は、あくまで、カイリを殺すだけのようだ。

 ヴィオレットとアマリアを狙っているわけではないが、必要とあらば、殺すであろう。

 カイリを殺す妨げとなるのであれば。

 光の刃と闇の魔法の弾が、カイリを襲う。

 カイリは、舌打ちをしながら、回避するが、クロスとクロウの猛攻は、止まらず、カイリに斬りかかった。


「させません!!」


 アマリアは、固有技・ホーリー・プロテクトを発動。

 聖なる盾が、カイリを守り、二人の剣は、はじかれる。

 やはり、アマリアが発動した聖なる盾を破壊するのは、二人でさえも、困難を極めるようだ。

 盾にはじかれたクロスとクロウは、バランスを崩した。


「せいやっ!!」


 ヴィオレットは、魔技・スパーク・ブレイドを放つ。

 それも、連続して。

 雷のオーラは、刃と化し、二人に襲い掛かるが、二人は、いとも簡単に、切り裂いてしまう。

 だが、ヴィオレットは、二人に迫り、固有技を発動しようとする。

 殺気を感じたクロスとクロウは、すぐさま、後退し、距離を取った。


「さすがに、手強いな」


「ああ」


 クロスは、舌を巻く。

 ヴィオレット達を相手にするのは、一筋縄ではいかないようだ。

 クロウも、静かに、うなずいた。

 だが、それは、ヴィオレット達も、同様だ。

 クロスとクロウの連携を崩すのは、至難の業であった。


「どうしたら、良いのですか……」


「こいつらは、コーデリアが、生み出した人形だ。だから、私の力で殺すしかない」


 アマリアは、迷っているようだ。

 クロスとクロウを止めるにはどうしたらいいのか。

 答えは、一つだけしかなかった。

 二人は、コーデリアの力で生み出された人形。

 帝国の民達と同じなのだ。

 ゆえに、ヴィオレットは、二人を殺すしかないと、考えているようであった。


「待て。だったら、私が、殺す」


「カイリ!!」


 カイリは、自分が、殺すと言いだした。

 これには、さすがのアマリアも、驚きを隠せない。

 なぜなら、カイリは、自分を責めているようで、見ていられなかった。


「これは、私の罪だ。だから……」


 ヴィオレットとアマリアの予想通りだった。

 カイリは、自分を責めているのだ。

 自分のせいで、クロスとクロウの運命は、狂ってしまった。

 しかも、目の前にいる二人は、コーデリアによって、生み出された。

 生まれるはずのない者、存在するはずのない者達なのだ。

 自分が、爆発を引き起こさなければ、このような事には、ならなかった。

 カイリは、そう、思い込んでいるのだろう。

 だからこそ、自分の手で、二人を殺そうとしていた。


「お前には、無理だ」


「なぜだ!!」


 ヴィオレットは、カイリでは、殺せないと告げる。

 だが、カイリには、理解できず、声を荒げた。

 なぜ、二人を殺せないというのだろうか。

 ヴィオレットは、自分が、殺そうとしているからなのだろうか。

 カイリは、思考を巡らせるが、見当もつかなかった。


「お前の心は、壊れかけているからだ」


「……」


 ヴィオレットは、気付いていたのだ。

 カイリの心境を。

 カイリは、追い詰められていた。

 クロスとクロウが、目の前に現れたことにより。

 おそらく、自分の犯した罪を封印していたのだろう。

 クロスとクロウを殺すつもりなどなかった。

 それゆえに、思い出したくなかったのだ。

 ヴィオレットも、カイリの心情を理解していた。

 自分も、同じであったから。

 ルチアを殺してしまったから。

 だからこそ、同じことを繰り返せば、カイリは、どうなってしまうか、目に見えて分かる。

 ヴィオレットは、カイリの事を心配していたのだ。

 カイリは、ヴィオレットに心情を読み取られ、何も反論できなくなっていた。


「安心しろ。苦しまないように、殺してやる」


 ヴィオレットは、鎌を振り回す。

 二人を殺そうとしているのだろう。

 もう、容赦はしない。

 固有技を発動して、一気に殺すつもりだ。

 たとえ、共に戦い、苦楽を共にしてきた仲間であっても。

 家族のように、大事に思っていたとしてもだ。

 ヴィオレットの決意は、固かった。


「なめるなぁっ!!」


 クロウは、怒りに駆られて叫ぶ。

 侮辱されたかのように思えたのだろう。

 自分達を殺すなど、ヴィオレットにできるはずがないと。

 クロウは、感情に任せて、ヴィオレットに襲い掛かる。

 クロスも、複雑な感情を抱いたまま、続けて、ヴィオレットに襲い掛かった。

 クロウは、魔技・シャドウ・アローを発動する。

 続けて、クロスが、魔技・フォトン・アローを発動した。

 光と闇のオーラが矢と化し、ヴィオレットに襲い掛かる。

 ヴィオレットは、鎌を振り回しながら、魔技・スパーク・インパクトを発動して、二人の魔技を消し去った。

 だが、クロウが、続けざまに、魔法・シャドウ・スパイラルを発動する。

 ヴィオレットは、回避できず、クロウの魔法に巻き込まれてしまった。


「ぐっ!!」


「ヴィオレット!!」


「おやめなさい!!」


 ヴィオレットは、苦悶の表情を浮かべる。

 やはり、二人の連携にほんろうされているのだろう。

 カイリは、ヴィオレットの元へ駆け寄ろうとした。

 狙われているのは、自分だ。

 だからこそ、ヴィオレットを守ろうとしたのだ。

 敵意を自分に向けさせるために。。 

 だが、その時だ。

 アマリアが、固有技・ホーリー・プリズムを発動したのは。

 クロスとクロウは、とっさに、回避する。

 アマリアの固有技を警戒しているようだ。

 ヴィオレットを守れたアマリアであったが、今度は、クロスとクロウは、アマリアに敵意を向けてしまった。


「アマリア、逃げろ!!」


 カイリは、危険を察して、アマリアに向かって叫ぶ。

 だが、時すでに遅し。

 クロスとクロウは、アマリアに向けて、魔法を放った。

 クロスは、魔法・フォトン・ショット、クロウは、魔法・シャドウ・ショットを。

 光と闇の弾は、アマリアに迫っていた。

 だが、カイリが、アマリアの前に立ち、光と闇の弾を受けた。

 アマリアを守るために。


「かはっ!!」


「カイリ!!」


 カイリは、血を吐く。

 直撃を受けたからであろう。

 アマリアは、カイリの身を案じて、固有技・ホーリー・キュアを発動しようとした。


「大丈夫だ。私に、任せろ……」


 カイリは、振り返って、アマリアに、語りかける。

 アマリアの不安を取り除くかのように。

 そして、カイリは、床を蹴り、クロスとクロウに向かっていった。

 クロスとクロウは、魔法を発動する。

 先ほどと、同じ魔法を。

 だが、ヴィオレットが、カイリの前に立ち、鎌を振り回しながら、魔技・スパーク・インパクトを発動して、相殺する。

 その間に、カイリは、クロスとクロウに迫り、二人の腕をつかんだ。

 二人の剣に斬られながらも。


「なっ!!」


「こいつ!!」


「絶対に、離さないぞ」


 クロスは、カイリから、強引に引きはがそうとする。

 だが、カイリは、決して、離そうとしない。

 これには、さすがのクロウも、驚きを隠せない。

 カイリは、決意を固めていた。

 たとえ、この身が、切り刻まれても、決して、二人を離さないと。


「なぜ!!」


「言っただろう?私の罪だと。彼女達を巻き込むつもりはない……」


 クロウは、声を荒げて、問いただす。

 なぜ、そこまでできるのか、理解できないからであろう。

 カイリは、自分の犯した罪だからこそだと答えた。

 ヴィオレットとアマリアを傷つけないために、二人を捕らえたのだ。


「許してくれとは言わない。だが、私は、お前達を解放する!!」


 カイリは、決意を固めた。

 ヴィオレットに託したのだ。

 自分事、二人を殺してもらうようにと。

 そうするしかなかった。

 ヴィオレットとアマリアを傷つけないようにするには。

 自分も、クロスとクロウと共に、命を散らそうと考えていたのだ。


「ふざけるなあああっ!!」


「うっ!!ぐっ!!」


 クロスが、怒りを露わにする。

 決して、これで、カイリの罪が償えるわけではない。

 いや、ヴィオレットに自分達を殺させるなど、クロスが、許せるはずもなかった。

 たとえ、偽物であっても、ヴィオレットに対して、ある感情を抱いていたから。

 ヴィオレットは、気付いていなくともだ。

 ゆえに、クロスは、感情任せに、魔法・フォトン・ショットを発動する。 

 光の弾が、カイリに襲い掛かり、カイリは、顔をゆがませた。


「カイリ!!」


「来るな!!」


 アマリアが、思わず、カイリの元へ駆け寄ろうとする。

 だが、カイリは、声を荒げて、制止させた。

 アマリアを守るために。

 アマリアは、びくりと、体を震わせて、立ち止まった。


「ヴィオレット、頼む!!」


「言われなくても!!」


 カイリが、ヴィオレットに懇願する。

 自分の代わりに、クロスとクロウを殺してくれと。

 もちろん、ヴィオレットも、そのつもりだ。

 ヴィオレットは、跳躍し、構えた。


「はあっ!!」


 ヴィオレットは、固有技・チャロアイト・ライトニングを発動した。

 宝石の刃と化した鎌は、クロス、クロウ、そして、カイリを切り裂こうとしていた。


「カイリぃいいいいいっ!!」


 クロスが、怒りをカイリにぶつけるかのように、叫ぶ。

 カイリは、決して離そうとしなかった。

 共に、死ぬ事を覚悟していたのだ。

 だが、その時であった。

 ヴィオレットが、発動した宝石の刃は、クロスとクロウのみを切り裂いたのは。


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