第八十四話 帝国に妖魔、現る
「どうして、妖魔が……」
「わからない。コーデリアが、何かしたのか?」
アマリアは、信じられないようだ。
なぜ、キウス兵長は、妖魔になってしまったのか。
ヴィオレットも、理解できないようだ。
帝国では、帝国の民が、妖魔にならないように、何かしらの魔法が施されていた。
もしかしたら、その魔法が、解かれてしまったのか、あるいは、魔法でも、抑えられないほどの力を手に入れたのか、どちらかなのだろう。
「そうです。コーデリア様は、私に力をくれました。強化の力を」
「それが、妖魔か」
「そうです。何か、問題でも?」
キウス兵長は、丁寧に説明する。
なんと、コーデリアが、力を与えたというのだ。
一体、コーデリアは、どのような力を持っているのだろうか。
ライムにも、カレンにも、異様な力を与えている。
キウス兵長が、妖魔になった事も、然りだ。
何かしらの方法で、力を手に入れたとしか、思えない。
キウス兵長は、狂ったように目を見開いて、ヴィオレット達に尋ねた。
自分が、妖魔になったから、なんだというのか、と言いたいのだろう。
「地に落ちたか、キウス」
「勘違いなさらないでください。カイリ様。私達は、すでに、地に落ちているでしょう?」
カイリは、キウス兵長に告げる。
地に落ちてしまった事を嘆いているかのようだ。
だが、キウス兵長曰く、すでに、自分達は、地に落ちているという。
それを聞いたカイリは、ため息をついた。
確かに、自分達は、地に落ちていた。
二年前のあの日から。
「本当に、狂っているな。あの女は」
「コーデリア様の事を悪く言うでない!!」
ヴィオレットは、コーデリアは、狂っていると呟く。
自分達以上にだ。
ヴァルキュリアも、兵長も、捨て駒やオモチャ扱いなのだろう。
だというのに、キウス兵長は、コーデリアを侮辱されて、怒りを露わにしている。
それほど、心酔しているという事であろう。
キウス兵長は、まがまがしい力を発動した。
感情のままに。
「ちっ。この力、まずいな……」
「さあ、思う存分に、殺し合いましょう!!」
カイリは、思わず、舌を巻いた。
さすがに、危機感を感じているのだろう。
キウス兵長は、狂ったように、叫び、構えた。
ヴィオレット達を殺すつもりだ。
キウス兵長は、すぐさま、床を蹴り、ヴィオレット達に、襲い掛かった。
「カイリ!!」
「わかってる!!」
ヴィオレットとカイリは、床を蹴り、キウス兵長に向かっていった。
ここからは、戦うしかないようだ。
カイリは、固有技・ナイトメア・キルを発動する。
一瞬にして、キウス兵長を殺すつもりだ。
だが、キウス兵長は、回避し、魔法・エビル・スパークを発動する。
元精霊である妖魔にしか使えない魔法だ。
カイリは、回避しようとするが、キウス兵長は、そのまま、カイリに向かっていき、魔法・エビル・スパークを発動した。
「うっ!!」
「カイリ!!」
カイリは、回避することもできず、直撃を受けてしまう。
苦悶の表情を浮かべて、うめき声を上げるカイリ。
ヴィオレットは、カイリを助けようと向かうが、キウス兵長は、見逃すはずもなく、一瞬にて、ヴィオレットの元へと現れる。
ヴィオレットは、あっけにとられているようだ。
いくら、妖魔になったからと言って、これほどの戦闘能力が上がるわけがない。
コーデリアは、異常な力をキウス兵長に与えたようだ。
キウス兵長の魔法や魔技を回避しようと構えるヴィオレット。
だが、キウス兵長は、魔法・エビル・スパークと魔技・ディザスター・スパークを発動した。
元人間の妖魔にしか発動できない魔技を。
「ぐああっ!!」
ヴィオレットは、吹き飛ばされ、壁に激突する。
苦悶の表情を浮かべたヴィオレットは、倒れかけ双になっていた。
「カイリ!!ヴィオレット!!」
カイリとヴィオレットの元へと駆け寄ろとするアマリア。
だが、キウス兵長は、アマリアを捕らえようと、魔技・ディザスター・スパークを発動する。
必死に、回避するアマリアであったが、バランスを崩した。
「きゃっ!!」
「アマリア!!」
アマリアは、そのまま、床に倒れ込む。
カイリは、危険を察知して、アマリアの元へ向かおうとするが、彼がアマリアの元へ到達する前に、キウス兵長が、アマリアの元へと迫った。
「さあ、こちらへ、アマリア様!!」
キウス兵長は、アマリアに手を差し伸べる。
だが、その表情は、狂気そのものだ。
アマリアを捕らえようとしているのだろう。
アマリアは、危険を察知し、起き上がって、ロッドを向けた。
まるで、キウス兵長を警戒しているかのようだ。
「来ないで!!」
「ほう、私を殺すつもりですか」
アマリアは、叫ぶ。
怯えながらも。
キウス兵長は、自分に敵意を向けられていると感じたようだ。
表情が、形相の顔へと変化した。
「アマリア、逃げろ!!」
「死ね!!」
カイリは、アマリアに向かって叫ぶ。
逃げるように。
だが、アマリアは、体が動かない。
恐れを抱いて、体が、硬直してしまっているのだ。
キウス兵長は、アマリアに向かって容赦なく、魔技・ディザスター・スパークを発動した。
もはや、判断もできないのだろう。
アマリアを殺してはならないのだと。
だが、その時であった。
カイリが、アマリアの前に立ち、かばったのは。
「うあああああっ!!」
「カイリ!!」
カイリが、絶叫を上げる。
だが、キウス兵長は、容赦なく、魔法を発動しようとした。
殺せるなら、誰でもいいのだろう。
だが、その時だ。
ヴィオレットが、薙ぎ払うように、水平に鎌を振ったのは。
ヴィオレットの殺気を感じたのか、キウスは、ギリギリのところで、回避した。
「邪魔をするな!!」
キウス兵長が、感情任せに、魔法・エビル・スパークを発動する。
ヴィオレットは、回避することもできず、魔法を受けてしまった。
「ぐっ!!」
「ヴィオレット……」
ヴィオレットは、苦悶の表情を浮かべる。
激痛に耐えているのだろう。
キウス兵長は、そのまま、ヴィオレットを殺そうとした。
しかし、ヴィオレットは、ぐっと、歯を食いしばった。
「はあああああっ!!」
「がはっ!!」
ヴィオレットは、歯を食いしばり、痛みに耐えながらも、固有技・チャロアイト・ライトニングを発動する。
鎌は、宝石の刃と化し、キウス兵長の腹を貫いた。
キウス兵長は、血を吐くが、まだ、倒れない。
不死身になったのではないかと思うほどに。
「カイリ、今だ!!」
ヴィオレットは、宝石の刃をキウス兵長に突き刺したまま、叫ぶ。
このまま、キウス兵長を捕らえるつもりなのだろう。
カイリは、短剣を握りしめ、キウス兵長の心臓に突き刺す。
そして、ヴィオレットは、キウス兵長から離れ、カイリは、止めと言わんばかりに、固有技・ナイトメア・キルを発動した。
「ぐはあああっ!!」
キウス兵長は、絶叫を上げて、そのまま、仰向けになって倒れた。
ヴィオレットとカイリの連携に負けたのだ。
ついに、キウス兵長を追い詰めたヴィオレット達。
ヴィオレットは、容赦なく、キウス兵長に迫った。
「これは、参りましたねぇ」
ヴィオレットとカイリの固有技を受けながらも、まだ、息があるキウス兵長。
どうやら、戦闘能力どころか、固有技に耐えうる力も、与えられたようだ。
その間に、アマリアは、固有技・ホーリー・キュアを発動する。
今のうちに、ヴィオレットとカイリの傷を癒そうとしているようだ。
と言っても、カイリの固有技は、効果があったようで、キウス兵長は、起き上がる事はできないらしい。
キウス兵長は、笑みを浮かべながらも、参った様子で、呟いていた。
「最後に何か言いたいことはあるか?」
「そうですね。今後の戦いに、貴方達は、耐えられないかもしれません。精神的に。とでも、言っておきましょうか」
「その忠告、もらっておこう」
ヴィオレットは、キウス兵長に問いかける。
情けをかけたようだ。
ここで、キウス兵長は、意味深な発言をする。
だが、ヴィオレット達にとっては、わかっている事だ。
コーデリアなら、残酷な罠を仕掛けてきても、おかしくはないのだから。
ヴィオレットは、すぐさま、固有技・・チャロアイト・ライトニングを発動。
宝石の刃は、再び、キウス兵長を貫き、キウス兵長は、光の粒となって消滅した。
「さようなら、キウス兵長」
アマリアは、ヴィオレットとカイリの傷を癒しながら、呟く。
敵視していたとは言え、キウス兵長は、自分達を守ってくれた。
だからこそ、別れを告げたのだろう。
魂が、解放されるようにと願って。
その時だ。
カイリが、アマリアの腕に触れたのは。
もう、大丈夫だと言いたいようだ。
いつまでも、ここで、立ち止まっているわけにはいかないのだから。
アマリアは、ためらうが、カイリが、少々、強引に、発動をやめさせた。
「先に、進もう」
「ああ」
カイリは、ヴィオレットに、先に進むように、促す。
ヴィオレットも、うなずき、歩き始めた。
しかし、アマリアは、何かに気付いた。
殺気を向けられているような気がして。
「待って!!」
アマリアが、突如、叫ぶ。
立ち止まるヴィオレットとカイリ。
すると、光の刃と闇の刃が、ヴィオレットとカイリに、襲い掛かった。
ヴィオレットとカイリは、ギリギリのところで回避する。
何が起こったのか、理解できなかった。
「まだ、いたのか!!」
「あ、あれは……」
ヴィオレットは、舌を巻く。
先ほど、キウス兵長と戦ったばかりだったというのに。
いや、まだ、このホールに、敵がいたとは、思いもよらなかったのだろう。
その時、カイリは、自分達に殺気を向けたのが、誰か、気付いたようで、目を見開き、動揺していた。
「なぜ、どうして……ここに……クロス……クロウ……」
カイリは、声を震わせる。
信じられないのだろう。
なんと、ヴィオレット達の前に現れたのは、ルーニ島出身の双子であり、光と闇の騎士であるクロスとクロウであった。




