第七十九話 二年前の真実
「ルチアの事か……」
ヴィオレットは、うつむきながらも、呟く。
これ以上は、隠し通せないと、察したからであろう。
本当なら、アマリアに知られたくなかった。
だが、ラストの事も、ヴァルキュリアの真実も、アマリアは、知った。
だからこそ、真実を知りたいのだろう。
「なぜ、私が、ルチアを殺してしまったのか、知りたいのだな?」
「……はい」
ヴィオレットは、確認するように、尋ねた。
アマリアが知りたいことは、なぜ、ヴィオレットが、ルチアを殺してしまったのかだ。
アマリアは、推測しているのだろう。
何か、理由があるのではないかと。
ヴィオレットは、息を吐き、心を落ち着かせる。
覚悟を決めたようだ。
アマリアに、全てを打ち明けようと。
だが、その時であった。
「その話、私も、語らせてもらおう」
「ラスト……」
ラストが、ヴィオレット達の元へと歩み寄る。
ルチアの事を語ろうとしている事に気付き、ここに来たのだろう。
「もう、カイリでよい。私は、カイリとして、生きるつもりだ」
「そうか……」
「ラスト」と呼ばれたカイリは、本名でいいと告げる。
覚悟を決めたのだ。
カイリとして生き、カイリとして帝国を滅ぼすと。
ヴィオレットは、うなずいた。
カイリも、決意を固めたのだと。
「そうだな。あんたも、関わりがないわけじゃないしな」
カイリも、ルチアの死に関わっている。
ヴィオレットは、聞かされていたのだ。
二年前、カイリが、どのような行動をとっていたのかを。
だからこそ、カイリも、真実を打ち明けようと、ここに来たのだろう。
「二年前、ルチアが、神魂の儀を行う事は、私は、反対していた」
「そう、でしたね……」
ヴィオレットは、静かに語り始めた。
あれは、二年前の事。
ルチアは、魂が、神の力と融合した為、神魂の儀が、行われることが決定した。
それを聞いた誰もが、祝福したのだ。
もちろん、カレン達も。
だが、ヴィオレットだけは、反対した。
神様に魂を捧げる事は、ヴァルキュリアとして、誇り高い事だ。
ヴィオレットも、わかっていた。
最後に、必ず、神様に、魂を捧げようと決意を固めていたくらいだ。
だが、いざとなると、受け入れられなかった。
姉妹のように育ってきたルチアが、いなくなるなどと。
アマリアも、知っていたのだ。
ヴィオレットが、反対している事は。
それでも、神魂の儀を行おうとしていた。
ルチアの為と自分に言い聞かせて。
「ヴァルキュリアの誇りだってことは、わかってた。でも、どうしても、私は、ルチアを失いたくなかったんだ……」
「だから、魔剣を?」
ヴィオレットは、家族を失っている。
天涯孤独の身だ。
だが、ルチアが、側にいてくれたことで、ヴィオレットは、これまで、生きてこれたのだ。
だからこそ、ルチアを失いたくなかった。
ヴィオレットは、ルチアを助ける方法を模索していた。
その話を聞いたアマリアは、ヴィオレットに尋ねる。
ヴィオレットは、魔剣で、ルチアを刺したと聞いていたから。
だが、アマリアの問いにヴィオレットは、首を横に振った。
「違う。私が、手に入れたかったのは、聖剣だ」
「え?」
意外だった。
ヴィオレットは、聖剣を手に入れようとしていたのだ。
これには、さすがのアマリアも驚きを隠せない。
聖剣を手に入れようとしていたヴィオレットは、なぜ、魔剣を手にし、ルチアを殺してしまったのだろうか。
「私は、ルチアが、犠牲にならない方法を探していた。その時に知ったんだ。聖剣の事を……」
神魂の儀の日まで、ヴィオレットは、図書館に引きこもり、調べていたのだ。
ルチアを犠牲にしたくない。
そのために、何ができる事はないか。
だが、方法を探す事は、困難を極めた。
当然だ。
犠牲にしない方法を探すなど、誰も、調べた事がない。
研究者でさえも。
ヴァルキュリアが、魂を神様に捧げる事は、当たり前の事だと思っていたからであろう。
だが、ヴィオレットは、聖剣の事を知った。
魂を救う力があると記載されていたのだ。
「聖剣の力を使えば、ルチアを救える気がした。でも、浅はかだったんだ……。本当に……」
聖剣を使う事により、ルチアの魂を救えるのではないか。
ヴィオレットは、そう、推測していた。
本当に、成功するかどうかは、不明だ。
だが、何もしないよりは、マシだった。
だからこそ、ヴィオレットは、決意したのだ。
聖剣を手に入れて、ルチアを救うと。
だが、その考えこそが、浅はかだった。
ヴィオレットは、そう言って、拳を握りしめた。
悔やんでいるようだ。
「私は、聖剣を手に入れる為に、あの地下に向かった。だが、偶然、魔剣に触れてしまったんだ」
神魂の儀の日、ヴィオレットは、一人、地下に向かっていた。
この日は、ヴァルキュリアは、全員、ルチアの為に、儀式に参加する事を命じられていたのだ。
ヴィオレットは、その命令を無視して、地下にある聖剣を手に入れようとした。
だが、ヴィオレットが、触れてしまったのは、聖剣ではなく、魔剣だったのだ。
なぜなのかは、不明だ。
今でさえも、理解できない。
ただ、吸い込まれるように、魔剣に触れてしまった。
「そして、私は、暴走して、ルチアを刺したんだ」
「……」
魔剣に触れてしまったヴィオレットは、すぐさま、暴走ししてしまった。
その時だ。
ルチアが、地下に入り込んだのだ。
だが、ヴィオレットは、目の前にルチアがいる事に気付かず、ルチアに、剣を向けた。
気付いた時には、ヴィオレットは、魔剣でルチアを刺していたのだ。
しかも、ルチアは、聖剣を手にしていた。
ヴィオレットは、体が震えた。
救いたかったルチアを殺してしまったのだ。
目の前が、真っ暗になった。
「ルチアが、なぜ、あの場にいたのかは、わからない。だが、ルチアを殺したのは、事実だ」
「ですが、貴方は……ルチアを助けようとして……」
「それでも、私は、ルチアを殺した。その事に変わりはない」
「ヴィオレット……」
ヴィオレットには、今も、理解できなかった。
なぜ、あの場にルチアがいたのか。
ルチアは、何をしようとしていたのか。
だが、わかっている事は、ただ一つだけ。
ヴィオレットは、ルチアを殺してしまった。
それを聞いたアマリアは、辛そうな表情を浮かべる。
ヴィオレットの事を思うと、辛いのだろう。
ヴィオレットは、今でも、ルチアを殺したことを、責めているのだと、悟って。
どれほど、責めたのだろうか。
おそらく、アマリアが、想像している以上に、自分を責めたはずだ。
ヴィオレットは、ルチアの事を大事にしていたのだから。
「ですが、なぜ、ルチアは……」
「それは、私のせいだ」
「え?」
アマリアは、気になる事があるようだ。
なぜ、ルチアは、地下にいたのだろうか。
ルチアが、何をしようとしていたのか、ヴィオレットも、不明だ。
だが、その時だ。
カイリが、自分を責め始めたのは。
アマリアは、驚愕する。
だが、ヴィオレットは、黙っていた。
ルチアの死に関与しているという事は、聞かされていた。
それだけであり、詳しくは、知らされていなかったが。
カイリが、責め始めたという事は、ルチアを呼び寄せたのは、彼のようだ。
どうやってかは、ヴィオレットも、わからないが。
「私が、ルチアに手紙を送ったんだ。アマリアが、聖剣と魔剣が置かれてある部屋に来てほしいと」
「なぜ、そんな事を……」
カイリは、真実を打ち明ける。
やはり、ルチアが、地下に来た理由は、カイリが、呼び寄せたようだ。
しかし、なぜ、そのような事をしたのだろうか。
アマリアには、理解できなかった。
「その時の私は、暗殺者として捕らえられたが、牢から脱出したんだ」
「復讐の為、か」
「そうだ」
カイリが、理由を語る。
あの日、カイリは、とらわれてしまったのだ。
カイリの母親である女帝を殺した暗殺者として。
それでも、カイリは、何とかして、牢を脱出した。
自分を捕らえたコーデリアに復讐する為に。
ヴィオレットは、カイリが、ルチアを呼び寄せた理由が、何なのか、察した。
「私は、コーデリアの目的を阻止するために、ルチアを呼びだした。……ルチアを殺すために」
「……」
母親の代わりに、コーデリアが、魔神を復活させようとしていると察したカイリは、ルチアを地下に呼び寄せ、魔剣で殺すつもりだったのだ。
コーデリアの目的を阻止するためだったのだろう。
この時、カイリは、ルチアの命を犠牲にしても、罪悪感など感じなかったのだ。
復讐の為なら、犠牲者を出しても、構わないと。
アマリアは、黙ってしまった。
怒りを露わにしているのではない。
カイリが、あまりにも、過酷な状況の中で、牢を出て、そのような考えに至ってしまったのだと、悟り、悲しんでいたのであった。
「だが、予想外な事が起こった」
「そうだ」
ヴィオレットは、カイリの代わりに語る。
ルチアを殺そうとして、ルチアを尾行したカイリであったが、予想外な事が起こってしまったのだ。
地下にはすでに、ヴィオレットが到着していた。
なぜなのか、カイリは、理解できず。
そして、そのまま、ヴィオレットは、ルチアに剣を向け、悲しき戦いが、始まってしまった。
ルチアは、ヴィオレットを止める為、聖剣を手にして、戦ったが、ヴィオレットに刺されてしまったのだ。
カイリの計画は、狂ってしまった。
「だが、利用価値はあると思っていた」
「そうか。だから、あの時、私を見つけたのか」
「ああ」
確かに、計画通りには、ならなかった。
だが、ルチアは、死んだ。
ヴィオレットの手によって。
ここで、カイリは、ヴィオレットを利用しようとしたのだ。
魔剣を使わずとも、ヴァルキュリアを殺し、コーデリアを殺す計画を、立てたのであろう。
ヴィオレットは、何かを思い返したようで、尋ねると、カイリが、静かに、うなずいた。
「どういう意味ですか?」
アマリアは、理解できず、尋ねる。
あの後、一体、ヴィオレットとカイリに、何があったのか、知りたいのだろう。
「あの後、聖剣と魔剣の暴走により、私は、気を失った。ルチアの遺体も、消えていたんだ。だが、ルチアを殺したのは、確かだった。ルチアを殺した罪で、私は、捕らえられ、処刑さることになった。だが……」
「私が、ヴィオレットを見つけ、全てを語った。コーデリアの目的を」
ヴィオレットが、ルチアを刺した直後、ルチアが、手にしていた聖剣が、暴走し、爆発が起こった。
それにより、ヴィオレットは、魔剣を手放し、気絶していたのだ。
だが、その場にいたのは、ヴィオレットだけであった。
ルチアも、聖剣も、姿を消していたのだ。
ルチアの血が、床と魔剣についていた為、ヴィオレットは、ルチアを殺害した罪で、牢に入れられ、すぐさま、処刑されることとなった。
ヴィオレットも、処刑を受け入れようとしたのだ。
だが、その時であった。
「ラスト」として生きる決意を固め、仮面をつけたカイリが、ヴィオレットの前に現れたのは。




