第七十八話 止めようとしたのは
ヴィオレットは、ラストの顔を思いっきり殴った。
ラストは、吹き飛ばされ、そのまま、地面にたたきつけられた。
「ぐはっ!!」
ラストは、苦悶の表情を浮かべる。
ただ、殴られただけだというのに。
魔法や魔技、固有技を発動したわけではない。
なのに、一撃は、重かった。
ヴィオレットは、ラストに迫る。
容赦なく。
「な、なぜ……」
ラストは、起き上がり、困惑する。
なぜ、ヴィオレットは、あきらめなかったのか。
自分を殴りつけたのか。
全てにおいて、理解できなかった。
だが、その時であった。
「もう、やめてください!!」
アマリアが、ラスト元へと駆け寄り、抱きしめる。
まるで、ラストを止めるかのように。
「アマリア……」
「お願いです。行かないでください!!カイリ!!」
アマリアは、ラストに懇願する。
耐え切れなくなったのだろう。
これ以上、ヴィオレットとラストが、傷つけ合うのが。
ラストを行かせたくなかったのだ。
どうしても。
「なぜ……私を……止めようとするんだ!!」
「貴方を失いたくない。もう、会えないのは、嫌なんです……」
ラストは、叫んだ。
しかも、問いかけるように。
だが、この時、ラストは、まだ、気付いていない。
口調が、ラストの時とは、違う事に。
元に戻っている事に。
アマリアは、正直に答えた。
もう、ラストを、カイリを失うのは、嫌なのだ。
二年前、カイリは、行方不明になった公表された。
コーデリアは、あえて、死亡したと偽の公表をしなかったようだ。
利用価値があるからなのか、それとも、偽ったとばれるのを避けるためなのか。
だが、どちらにしても、アマリアにとって、衝撃的であり、ショックを受けた。
もう、カイリに会えなくなると思うと、辛かったのだ。
「お前が、私達を守ろとしたのは、良くわかった。だがな……それは、私達も、同じだ!!」
ヴィオレットは、自分の想いを打ち明ける。
ラストの心情を知っていながらも、戦ったのは、ラストを大事に思っていたからだ。
「お前を失いたくないんだ、カイリ……」
「その名で呼ばれるとはな……」
「もう、お前は、ラストじゃない。カイリだ。気付いているか?口調が、カイリの時と同じになっているぞ」
「……気付かなかったな」
ヴィオレットは、ラストに語りかける。
しかも、カイリと呼んで。
ラストは、あっけにとられていた。
まさか、ヴィオレットにまで、「カイリ」と呼ばれるとは思いもよらなかったのだろう。
ここで、ヴィオレットは、ラストに話した。
口調が、元に戻っていると。
ラストは、気付いていなかったらしい。
指摘されるまでは。
「カイリのお気持ちは、良くわかりました。ですが、もう、失いたくありません」
「なぜ、貴方は……」
アマリアは、ラストに懇願する。
もう、離れたくないのだ。
だが、ラストには、理解できなかった。
アマリアは、なぜ、自分と共にいたいと思うのか。
アマリアの心情を読み取れなかったのだ。
「貴方を愛しているからです」
アマリアは、自分の想いを打ち明けた。
ラストが、カイリだと知っていながらも、暗殺者である事を知りながらも、ラストから、離れようとしなかったのは、ラストを、いや、カイリを愛しているからだ。
ずっと、前から。
たとえ、正体を知ったとしても、カイリに対する想いは、変わらなかった。
「駄目だ。私の手は、汚れきっている。カイリの頃から、殺しをしてきたんだ。母上とコーデリアの為に」
「それは、貴方が、お優しいからでしょう?守りたかったからでしょう?」
ラストは、アマリアを拒絶する。
なぜなら、自分の手は、汚れているからだ。
ずっと、昔から、多くの者を殺害してきた。
暗殺者として。
アマリアと結ばれていいはずがない。
アマリアだって、最初は、ラストの事を拒絶してきたというのに。
なぜ、自分を受け入れようとするのだろうか。
ラストには、理解できなかった。
それでも、アマリアは、ラストから、目をそむけなかった。
知ったからだ。
ラストが、コーデリアと母親を守ってきたのだと。
自分のてを汚してまで。
だからこそ、アマリアは、ラストを受け入れた。
「美談すぎる。そんな虫のいい話ではない」
「それでも、貴方を愛しています。貴方は、ずっと、辛い思いをしてきたんでしょう?もう、いいんですよ……」
ラストは、首を横に振った。
どんな理由があっても、殺人は、殺人。
自分は、罪深き者だと、ラストは、言いたいのだろう。
それでも、アマリアは、悟っていたのだ。
自分の意思で、暗殺者になったが、命を奪っていくたびに、辛い思いをしてきたのだと。
理解したからこそ、アマリアは、ラストを愛したのだ。
これ以上、ラストは、何も言えなかった。
アマリアの愛が、ラストを包みこんだかのように。
「どうするつもりだ?カイリ。まだ、お前は、アマリアを突き放すつもりか?」
ヴィオレットは、ラストに問いかける。
ラストの本心を聞きたいのだろう。
「突き放せるわけがない。私だって、アマリアを……」
ラストは、声を震わせながら、答えた。
自分だって、これ以上、アマリアを突き放したくなかったのだ。
なぜなら、アマリアを愛していたから。
ラストは、涙を流した。
アマリアの愛を受け取って。
その後、ラストは、ヴィオレットとアマリアを連れて、クライドの屋敷へと戻った。
クライドに、話したのだ。
ヴィオレットが、クライド達を殺そうとしていたのは、真っ赤な嘘だと。
本当は、ヴィオレットは、クライド達でさえも、殺そうとしていたが、ラストは、偽ったのだ。
ヴィオレットとアマリアと、行動を共にすることを決意して。
「そうか、やはり……か」
「気付いていたか」
「そりゃあ、わかるさ。私は、君の友だからね。カイリ」
クライドは、ラストの話を聞いて納得していたようだ。
どうやら、手を組んだふりをしていたらしい。
ゆえに、ヴィオレットをはじめから、敵視していたわけではなかったようだ。
ラストは、あっけにとられている。
まさか、真意を読み取られていたとは、思いもよらなかったのだろう。
クライドは、微笑みながら、答えた。
しかも、ラストの事を、「カイリ」と呼んで。
「お前は、ラストの正体を知っていたんだな」
「そうだよ」
ヴィオレットは、クライドが、ラストの正体を知っていたと悟った。
クライドは、正直に答える。
いつから、知っていたのだろうか。
クライドは、何者なのだろうか。
ヴィオレットは、クライドの事が気になっていた。
「あの、そろそろ、教えていただけませんか?貴方は、何者なんですか?」
アマリアは、クライドに問いかける。
やはり、彼女も、気になっていたようだ。
「私は、王宮エリアに住んでいた上級貴族だ。クライド・ハーベルトと言う名は、ご存じかね?」
「ハーベルト……知っています。貴族の中では、一番位が高いと言われている一族ですね」
「そうだ」
クライドは、正体を明かす。
なんと、彼は、上級貴族だったのだ。
貴族の中でも、一番位が高いという。
つまり、皇族に近い者なのだろう。
アマリアは、ハーベルト家の事を知っていたらしい。
「だが、私も、真実を知ってしまってね。王宮エリアから、抜けたんだ。だが、ハーベルト家の権力は、まだ、続いている」
「なるほど、屋敷を多く所持ているのも、帝国兵が、何も言えないのも、ハーベルト家の力か」
「その通りだ」
クライドは、王宮で仕事をしているうちに、知ってしまったのだ。
帝国の闇を。
貴族となれば、ふとしたことで、真実を知ってしまう事も、あるらしい。
たいていの者は、気付かなかったことにするか、下手すれば、処刑されてしまうらしいが。
だが、クライドは、運よく、ラストと共に、王宮エリアを抜けたらしい。
王宮エリアを脱走したクライドであったが、ハーベルト家の当主でもあった彼は、未だに権力を持っているという。
ゆえに、ヴィオレット達をいとも簡単に、手引きさせることもできたのだ。
各エリアに屋敷があったのも、ハーベルト家の当主であるが故なのだろう。
「さて、どうする?カイリ。この二人を連れていくのかね?」
「そうするしか、なさそうだ」
「そうかね」
クライドは、ラストに尋ねる。
ヴィオレット達を裏切ったが、それも、彼女達を守るためだったことは、クライドも見抜いている。
だからこそ、再度、確認したいのだろう。
本当に、ヴィオレット達を連れていくのか。
ラストは、静かにうなずく。
連れていくしかないと、決意を固めたようだ。
「では、数日後に、王宮エリアに突入しよう」
「わかった」
クライドは、ヴィオレット達に、数日後に、王宮エリアに突入する事を決意した。
おそらく、まだ、戦力が足りない状態なのだろう。
いよいよ、決戦の時が控えているのだ。
クライドも、準備万端で、決戦に挑みたいのだろう。
ヴィオレットは、それを承諾し、ひとまず、休むこととなった。
ヴィオレットは、バルコニーに立っている。
夜なら、見つかる事はあまりない。
と言っても、ヴィオレットは、警戒していたはずだ。
今までは。
だが、今夜は、外で、夜空を眺めたかったのだろう。
「とうとう、か……」
ヴィオレットは、静かに呟いた。
ここまで、時間がかかった。
二年の月日が経ったのだ。
ヴィオレットが、カレン達を殺してでも、帝国を滅ぼすと決意したあの日から。
とうとう、ここまで来た。
今更、退くことはできない。
ヴィオレットは、カレン達の命を奪っていったのだ。
たとえ、世界を守るためとは言えども。
ゆえに、ヴィオレットの決意は、固かった。
その時であった。
「ヴィオレット」
「アマリア」
アマリアが、ヴィオレットの元に歩み寄り、声をかける。
何か、聞きたいことがあるかのようだ。
「少し、お聞きしたいことがあります」
「なんだ?」
「……ルチアの事です」
アマリアが、聞きたいのは、ルチアの事であった。
二年前のあの真相を。




