第八十話 牢獄で彼女達は出会った
二年前、ヴィオレットは、ルチアを殺してしまった。
何が起こったのか、わからない。
気付いた時には、ルチアを刺していたのだ。
一番、守りたかったのに。
その後、ヴィオレットは、牢に入れられ、すぐさま、処刑が決まった。
「私は、殺してしまった……ルチアを……」
ヴィオレットは、呆然としていた。
生気を失っているかのようだ。
当然であろう。
自分が、ヴィオレットを殺してしまったのだから。
相当、ショックを受けているのだ。
――受け入れよう。私は、死ぬべきだ。ごめん……ルチア……。
ヴィオレットは、甘んじて、死を受け入れようとしていた。
自分は、罪深き者だ。
ゆえに、死を選ぶ事で、罪を償うしかない。
当時のヴィオレットは、そう思っていたのだ。
それほど、追い詰められていたのだろう。
だが、その時であった。
「ぎゃっ!!」
「ぐあっ!!」
自分を監視していた帝国兵のうめき声が聞こえる。
一体、どうしたというのだろうか。
誰かが、侵入したと騒いでいたわけではない。
だとしたら、誰かが、気付かれずに侵入したというのだろうか。
そんな事、できる者がいるとは到底思えなかった。
「なんだ?何が起こっている?」
ヴィオレットは、鉄格子の方へと歩み寄ろうとする。
気になっていたのだろう。
何が起こっているのか、知りたかったのだ。
だが、ヴィオレットが、牢屋の様子をうかがう前に、一人の青年が、現れた。
金髪で、仮面をつけた青年が。
その青年こそが、「ラスト」として、生きることとを決意した「カイリ」であった。
「やぁ。裏切りのヴァルキュリアさん」
「誰だ、お前は?」
「通りすがりの暗殺者って言っておこうかな」
カイリは、飄々とした様子で手を上げる。
ヴィオレットに気付かれないようにするためであろう。
目の前にいる人物が、「カイリ」であると。
ヴィオレットは、正体に気付いていないようで、問いかける。
なぜ、ここにいるのか、見当もつかないのだろう。
どう見ても、帝国兵ではない。
明らかに、妖しい。
だからこそ、ヴィオレットは、警戒したのだ。
カイリは、正体をごまかしてみる。
真意を読み取られないように。
「ふざけるな」
「ふざけていないよ。わた……じゃなかった。俺は、暗殺者だ。ここの奴らは、全部、殺してきた。ほら、見てみなよ」
ヴィオレットは、苛立ち、静かに、怒りをぶつける。
弄ばれたように感じたのだろう。
だが、カイリは、「ラスト」を演じる。
「私」と言いかけたが。
カイリは、ヴィオレットに牢屋の様子を見せる。
あたりを見回したヴィオレット。
帝国兵が血を流して倒れていた。
しかも、全員。
「確かに、あんたが、殺したようだな」
「これで、信じてもらえるかな?」
「暗殺者、と言うところはな」
「それは、よかった」
ヴィオレットは、カイリが、暗殺者である事だけは、信じたようだ。
当然であろう。
彼が、なぜ、ここに来たのかは、まだ、見当もつかない。
自分を殺すためなのか、それとも、別の目的があったのか。
ゆえに、警戒心を解くことはできなかった。
それでも、カイリは、笑みを浮かべてみせる。
信じてもらえてよかったと。
「で、なぜ、暗殺者が、ここに?」
「あんたに、確認したいことがあってね」
「何をだ」
ヴィオレットは、カイリに問いかける。
何しに来たのか。
カイリは、尋ねたいことがあったと、答えた。
一体、何を聞きたいのだろうか。
ヴィオレットは、にらみながら、問いかけた。
苛立ったように。
「あんたは、これでいいのか?このまま、死を選んで」
「……私は、ルチアを殺した。死を受け入れるのは、当然だろう」
カイリは、問いかけた。
まるで、死を選ぶべきではないと、言いたいようだ。
だが、ヴィオレットの意思は変わらない。
ルチアを殺した罪を償うため、死を受け入れるのは、当然なのだと、主張して。
「まぁ、確かに、あんたは、ルチアを殺した。けどさ、それが、世界の為に良かったなら、どうする?」
「なんだと?」
カイリは、あえて、ルチアの死は、世界の為になったと、煽ってみせる。
当然、ヴィオレットは、怒りに駆られ、鉄格子を握りしめた。
ルチアが、死んで良いはずがない。
どんな理由があってもだ。
ヴィオレットは、鉄格子がなければ、カイリの事を殺していただろう。
ルチアの事を侮辱された気がして。
「まぁ、落ち着いて。怒るなら、最後まで、聞いてからにしてよ」
カイリは、驚くことなく、飄々とした様子で、ヴィオレットをなだめる。
まるで、理由があるのだと、言いたいようだ。
だが、ヴィオレットは、カイリをにらんでいた。
怒りを抑えきれず。
「コーデリアは、世界を守るために、ヴァルキュリアの魂を犠牲にしてたんじゃないんだぜ」
「じゃあ、どういう目的だ」
「魔神を復活させるためさ」
「なっ!!」
カイリは、ヴィオレットに真実を明かす。
全ては、魔神復活の為に、ヴァルキュリア達は、命を犠牲にして、魂を捧げていたのだと。
これには、さすがのヴィオレットも、驚きを隠せない。
衝撃を受けているのだろう。
「バカな!!なぜ、魔神を!!」
「世界を手に入れるためさ。そのために、ヴァルキュリアの魂を神様に捧げていたんだぜ」
ヴィオレットは、声を荒げる。
信じられないのだろう。
魔神復活の為だったとは。
魔神は、世界を滅ぼそうとした神だ。
ゆえに、封印されたと、ヴィオレットは聞かされていた。
その魔神を帝国が復活させようとしているとは、到底思えない。
帝国は世界を滅ぼしたかったのだろうか。
カイリは、説明する。
世界を手に入れたいがために、魔神を復活させようとしていたのだと。
ヴァルキュリアの魂を犠牲にして。
「そんな、じゃあ、ルチアは……」
ヴィオレットは、愕然としていた。
もし、ヴィオレットが、ルチアを殺さなかったら、ルチアは、今頃、魔神復活の材料となっていたのだ。
そう思うと、ヴィオレットは、ショックを受けていた。
「けど、あんたのおかげで、助かった。魔神は、あと一つの魂で、復活するはずだったからさ」
カイリは、話を続けた。
あえて、ヴィオレットを挑発するかのように。
だが、ヴィオレットは、怒りをぶつける気にもなれなかった。
カイリの言っている事が本当であれば、ルチアは、生贄にされていたのだから。
しかも、ルチアの魂で、魔神は復活使用していたらしい。
カイリの話が、本当かどうかは、不明だ。
今は、疑うこともできないほど、ヴィオレットは、ショックを受けていた。
「私達は、何のために……」
ヴィオレットは、愕然としていた。
今まで、彼女達は、世界を守るために、命を賭して戦ってきたのだ。
それが、無駄だったというのだろうか。
ルチアも、ヴィオレットも、帝国に騙されていたというのだろうか。
そう思うと、ヴィオレットは、怒りがふつふつとこみ上げてきた。
帝国に対して。
「ねぇ、このままでいいの?」
「何?」
「このまま、死を受け入れてさ。もしかしたら、あんたの魂も、神様に捧げるかもしれないぜ」
カイリは、ヴィオレットに問いかける。
このまま、処刑を受け入れたとしても、ヴィオレットの魂までもが、魔神に捧げられるかもしれない。
そう言いたいのだろう。
だからこそ、カイリは、尋ねたのだ。
このまま、殺されていいのかと。
「あり得ない。私は、まだ、その時が来ていないはずだ」
「まぁ、不完全かもしれないけど。それでも、魂は、欲しいだろうし」
ヴィオレットは、理解できなかった。
なぜなら、自分は、まだ、神魂の儀の時ではない。
ゆえに、魔神に捧げたとしても、復活はできないのではないかと。
カイリは、ヴィオレットの疑問に答える。
帝国は、不完全であっても、魂を欲していると。
なぜなら、ヴィオレットの魂は、神の力と融合しているからだ。
「誰が、魔神なんかの為に……」
「でしょ?だったらさ、帝国を壊そうぜ。まぁ、そのためには、ヴァルキュリア達を殺さないといけないんだけどさ」
ヴィオレットは、初めて、死を拒絶した。
魔神の為に、魂を捧げるくらいなら、抗ってやると、決意したのだろう。
すると、カイリは、ヴィオレットを誘う。
共に、帝国を壊そうではないかと。
だが、そのためには、ヴァルキュリア達を殺さなければならない。
ヴィオレットは、少々、ためらっているようだ。
本当に、カイリの言葉は、真実なのか。
もし、嘘だったとしたら、ヴィオレットは、カレン達を無意味に殺すかもしれない。
そう思うと、ヴィオレットは、何も言えなかった。
「どうする?このまま、死ぬ?それとも、帝国を滅ぼす?」
カイリは、再度、問いかける。
このまま、処刑されるか、それとも、抗って、帝国を滅ぼすか。
ヴィオレットは、うつむき、体を震わせる。
もはや、ためらう余地はなかった。
「帝国を滅ぼす」
ヴィオレットは、静かに、呟いた。
カイリに聞こえる程度の小声で。
「帝国を滅ぼして、魔神復活を阻止する!!」
ヴィオレットは、決意を固めた。
ここから、出ることを。
もちろん、見極めなければならない。
カイリの言っている事が、本当に、真実なのかを。
だが、今は、カイリの誘いを受け入れる事を決意した。
生き延びて、真実を知るために。
そして、もし、カイリの言っている事が、本当ならば、ヴァルキュリアを一人残らず、殺し、帝国を滅ぼす事を決意しなければならなかった。
「決まりだな」
ヴィオレットの決意を聞いて、カイリは、微笑む。
こうして、ヴィオレットは、帝国を滅ぼす裏切りのヴァルキュリアとなった。




