第六十八話 ルチアの仇を取るために
ヴィオレットとカレンの死闘が始まった。
両者は一歩も、退かない。
お互いどちらかが、死ぬまで戦うつもりだ。
「はあっ!!」
「ふっ!!」
ヴィオレットとカレンは、武器をぶつけ合う。
その度に、火花が散った。
だが、二人にとっては、どうでもいい事だ。
決着をつけるためには。
カレンが、魔技・バーニング・ブレイドを発動する。
だが、ヴィオレットは、魔法・スパーク・ショットを発動し、カレンの魔法を打ち消す。
カレンは、すぐさま、後退して、ヴィオレットの魔法を回避した。
「やるな。さすがだ」
「見くびるなど。私は、ヴァルキュリアのリーダーだ」
「そうだったな」
ヴィオレットは、感心しているようだ。
カレンは、セレスティーナ達とは違う。
精神が、侵食されていても、強さは、変わらないのだと。
セレスティーナ達は、力が侵食に左右されていた。
不安定だったのだ。
だが、カレンの力は、安定している。
ゆえに、セレスティーナ達とは異なった。
さすが、ヴァルキュリアのリーダーと言ったところであろうか。
「自分が、上だと思うな、ヴィオレット。私だって、お前を殺すために、力をつけたんだ」
「……」
カレンは、屈辱を感じていたのだ。
ヴィオレットは、自分よりも、強いと思い知らされている気がして。
もちろん、ヴィオレットは、強かった。
自分よりも、ずっと。
だが、ルチアが殺されて以来、カレンは鍛えてきたのだ。
血のにじむような訓練を重ねてきた。
全ては、ヴィオレットを殺すために。
「お前だけは、許せない!!絶対に!!」
「わかっている」
カレンは、ヴィオレットを許すつもりなど毛頭ない。
ヴィオレットを殺す事で、ルチア達の仇を取ろうとしているのだろう。
ヴィオレットも、自分が許されるわけがないと、十分にわかってる。
痛いほどに。
「知った風な口をきくな!!」
カレンは、怒りを露わにし、再び、ヴィオレットに襲い掛かる。
ハルバートを振り下ろすカレンであったが、ヴィオレットは、すぐさま、鎌で、防ぎきった。
それすらも、カレンにとっては、腹立たしい。
余裕を見せつけられているようで。
「なぜ、ルチアを殺した!!なぜ、セレスティーナ達を!!」
カレンは、ヴィオレットに問いただす。
なぜ、ルチアを殺したのか。
カレンは、何も知らないのだ。
ルチアを殺した理由を。
ルチアを殺すだけでは飽き足らず、セレスティーナ達を殺した理由でさえも、知らない。
いや、理由を知ったところで、カレンの意思は変わらないのであろう。
尚更、許せないかもしれない。
ヴィオレットは、何も答えず、ただ、戦いを繰り広げているだけであった。
「答えろ!!ヴィオレット!!」
カレンは、声を荒げる。
怒りが、こみ上げてくるのを感じながら。
だが、ヴィオレットは、答えようとしない。
ゆえに、カレンは、ヴィオレットを追い詰めようと、ハルバートを振り回し、ヴィオレットに向かって、振り下ろしたが、ヴィオレットは、それを防ぐ。
死闘は、未だ、続いていた。
――私は、ルチアに憧れていた。あの子は、強い意思があったから。
カレンが、ヴィオレットを激しく憎んでいる理由は、ルチアが殺されたからだ。
かつて、カレンは、ルチアに憧れを抱いていた。
自分よりも、年下であり、可愛らしかった。
だが、その瞳には強い意思を宿していたのだ。
しかも、妖魔をいとも簡単に倒してしまうくらいの強さをその身に宿していた。
明るく、強いルチア。
だからこそ、憧れた。
――私とは違った。誰かに命じられるのではなく、自分の意思で、世界を守ろうとしていた。
カレンが、リーダーを務めていたのは、女帝の命令であった。
言われるがままに、妖魔達と戦いを繰り広げてきたのだ。
だが、ルチアは、違った。
自分の意思で、動いてきたのだ。
カレンは、ルチアのようになりたいと願った。
そして、ルチアを守りたいと思ったのだ。
――それなのに、ヴィオレットは、ルチアを殺したんだ。あの子は、ヴィオレットの事を家族だと、親友だと言っていたのに!!ルチアを裏切ったんだ!!
だが、カレンは、ルチアを守れなかった。
ヴィオレットに殺されてしまったのだ。
誰よりも親しかったヴィオレットに。
ルチアは、かつて、カレンにヴィオレットの事を話した事があった。
ヴィオレットは、自分にとって、家族であり、親友なのだと。
なのに、ヴィオレットは、ルチアを殺したのだ。
ルチアを裏切ったのだ。
ゆえに、カレンは、ヴィオレットを許せるはずがなかった。
――だから、私は、ヴィオレットを殺す!!絶対に!!
カレンは、ヴィオレットに向かって、魔技・バーニング・アローを発動する。
怒りをぶつけながら。
ヴィオレットは、回避するが、カレンは、すぐさま、魔技・バーニング・ブレイドを発動した。
ヴィオレットを確実に、仕留める為に。
ヴィオレットは、回避できず、刃と化したオーラが、ヴィオレットの腕を切り裂いた。
「くっ!!」
「死ね!!」
ヴィオレットは、苦悶の表情を浮かべる。
腕に痛みが走ったからだ。
それも、鋭い痛みが。
裂傷と火傷が同時に襲ったからであろう。
これにより、ヴィオレットの動きが少々鈍ってしまった。
カレンは、チャンスだと察して、ヴィオレットに向かっていく。
ハルバートを握りしめながら。
「甘い!!」
ヴィオレットは、鎌を握りしめ、カレンのハルバートを弾き飛ばす。
それにより、カレンは、バランスを崩してしまった。
ヴィオレットは、容赦なく、魔技・スパーク・ブレイドを発動する。
オーラと化した刃が、カレンの右太ももを切り裂いた。
「ぐはっ!!」
カレンは、苦悶の表情を浮かべて、うずくまる。
痛みとしびれが、同時に襲ってきたのだ。
立っていられなくなったのだろう。
だが、ヴィオレットは、容赦なく、カレンに迫り、鎌を向けた。
カレンを見下ろしながら。
「確かに、お前は、強い。私を殺すために、鍛えてきたんだろうな。だが、私も、鍛えてきた。お前達を殺すために」
ヴィオレットは、カレンの事を認めていた。
カレンと戦って、感じたのだろう。
カレンは、自分を殺すために、血のにじむような努力をしてきたのだと。
だが、鍛えてきたのは、カレンだけではない。
ヴィオレットも、鍛えてきたのだ。
ヴァルキュリアを殺し、帝国を滅ぼすために。
ゆえに、ヴィオレットは、セレスティーナ達を追い詰め、殺してきた。
そして、カレンも、殺すつもりなのだろう。
カレンは、何も言えず、ただただ、うつむくばかりであった。
思い知らされてしまったのだろう。
ヴィオレットは、自分よりも、はるかに強いと。
「さあ、死んでもらうぞ!!」
ヴィオレットは、鎌を振り下ろす。
カレンの宝石を狙うつもりだ。
確実に、仕留める為に。
だが、その時であった。
「ふざけるな!!」
カレンが、とっさに、宝石を握りしめる。
宝石から光が放たれ、カレンを包みこんだ。
ヴィオレットの鎌は、光に遮られ、弾き飛ばされてしまう。
ヴィオレットを拒絶するかのように。
「ちっ!!」
ヴィオレットは、舌打ちをしながら、後退する。
もう少しで、仕留められるはずだったのだ。
カレンのもう一つの能力を解放する前に、決着をつけたかった。
だが、それも、叶いそうにない。
光が止むとカレンは、ヴィオレットの前に姿を現した。
「お前に劣るはずがない。私が、お前なんかに負けるはずがない!!」
カレンが、ヴィオレットをにらむ。
それも、形相の顔で。
カレンの姿は、全身を鎧で身を纏っている。
紅蓮の鎧を。
腰には、赤のレースを身に着けている。
その姿こそが、カレンのもう一つの能力であった。
「ヴィオレット。お前も、ミラージュモードに切り替えろ」
「何?」
カレンは、意外な言葉を口にする。
なんと、ヴィオレットも、もう一つの能力に切り替えて戦えと言うのだ。
これには、さすがのヴィオレットも、驚きを隠せない。
セレスティーナ達は、ヴィオレットをミラージュモードに切り替えさせないように、攻撃を仕掛けてきた。
ヴィオレットの能力を恐れていたからだ。
だが、カレンは、あえて、ミラージュモードに切り替えさせて、戦わせようとしている。
カレンは、何を考えているのだろうか。
「私が、お前よりも、上だという事を、思い知らせてやる」
カレンは、確かめたいのだ。
自分が、ヴィオレットよりも、上だという事を。
その上で、ヴィオレットを絶望にたたき落とし、殺したいのだろう。
つまり、ヴィオレットが、自分よりも、強いという事を認めたくないようだ。
カレンは、先ほどの戦いで追い詰められてしまった。
ゆえに、ヴィオレットの上に立ちたいという願望までもが、芽生えたのだろう。
「……いいだろう。後悔するなよ」
「誰に言っている」
ヴィオレットは、すぐさま、ミラージュモードに切り替えた。
カレンは、本当に、立ったままだ。
ヴィオレットに襲い掛かろうとしなかった。
本当に、カレンは、ヴィオレットを叩きのめしたいのだろう。
お互い、全力で戦ったうえで。
「これでいいのか?」
「ああ」
ヴィオレットは、尋ねる。
これで、満足かと。
カレンは、静かにうなずいた。
この時を求めていたかのように。
「さあ、始めるぞ!!ヴィオレット!!」
カレンは、構えた。
死闘を始める為に。
ヴィオレットを殺すために。




