第六十七話 クーデター
カレンが、本性を現したことにより、帝国の民は、カレンに不信を持ち、反発し始めた。
クーデターが、起こりかけていると言っても過言ではないだろう。
「こ、これは、まずいぞ……」
「カレン様が……」
帝国兵も、危機感を感じているようだ。
当然であろう。
カレンは、帝国の為に、命を差し出せと命じたようなものだ。
それを受け入れるものなどいるはずもなかった。
「もう、耐えられない!!」
「カレン様が、こんなろくでもない奴だったんなんて!!」
帝国の民は、怒りを爆発させている。
ヴァルキュリア候補を、捨て駒としか見ていなかったのだ。
ヴィオレットを悪だと思っていたのだが、間違っていたのではないかと思うほどに。
カレン達の方が、よほど、悪のように思えてならなかった。
私利私欲の為に、戦っているも同然なのだから。
「やっちまえ、裏切りのヴァルキュリア!!」
一人の男性がヴィオレットに向かって叫ぶ。
カレンを殺せと言っているかのようだ。
すると、帝国の民が、口々に叫んだ。
「カレンを殺せ」「帝国をぶっ潰せ」などと。
帝国に不信感を抱いたものまでいるようだ。
当然かもしれない。
カレン達を選んだのは、帝国なのだから。
「な、なぜ……」
「これで、わかったでしょう?」
「え?」
カレンは、戸惑っているようだ。
なぜ、帝国の民が、反発し始めたのか。
何もわかっていないらしい。
全ては、自分で蒔いた種だというのに。
アマリアは、カレンに問いかけた。
「これが、民の意見です。命を切り捨てた愚かなヴァルキュリアの末路です」
アマリアは、堂々と言い放った。
今のカレンを信じるものなどいない。
勝手な事をしたカレン達を支持するものなどいないのだ。
宝石のせいだとアマリアは、わかっている。
だが、それでも、許されることではなかった。
「ふ、ふざけんな!!」
「おわっ!!」
カレンは、怒りを露わにし、強引に、振りほどく。
首に傷を追ってでも、ラストは、吹き飛ばされかけるが、体勢を整えた。
その間に、カレンは、魔法・バーニング・スパイラルを発動した。
それも、帝国の民に向かって。
炎は、瞬く間に、帝国の民を焼き始めた。
「きゃああああっ!!」
「あ、熱い!!」
帝国の民は、焼きこがされ、悲鳴を上げた。
水属性の者も、華属性や光属性の者が少ないため、火を消す事ができない。
クライド達は、すぐさま、危険を回避したようだ。
そのため、怪我を追っていない。
クライド達は、帝国の民を助けるために、水属性のアトワナとキャリーが、水魔法を放ち、火を消し始めた。
「なんてことを!!」
アマリアは、愕然とする。
誰も、予想していなかったのだ。
まさか、カレンが、帝国の民に向けて魔法を放ち、焼き殺そうとしたなどと。
これは、ヴィオレットにとっても、予想外であった。
カレンは、もう、すでに、妖魔になりかけているのではないかと思うほどに。
「私は、帝国の為に、戦っただけだ!!ティアベルの命を使っただけだ!!私の全てを否定するなら殺してやる!!」
カレンは、堂々と、叫ぶ。
帝国の為に戦ったというのに、反論され、殺せなど言われた。
それが、許せなかったのだろう。
帝国の為に、ヴィオレットを殺すために、ティアベルの命を利用しただけ。
そう言いたいようだ。
ゆえに、自分を否定する帝国の民を殺そうとしていた。
「カレン!!」
ヴィオレットは、怒りを露わにし、すぐさま、ヴァルキュリアに変身した。
そして、そのまま、鎌を手にして、振り回そうとする。
ここで、カレンを殺すつもりなのだろう。
だが、その時であった。
帝国兵が、カレンの前に立ったのは。
ヴィオレットは、それでも、帝国兵を切り裂いて殺す。
他の帝国兵が、剣を鞘から引き抜き、ヴィオレットの鎌を弾き飛ばした。
「カレン様、ここは、お逃げください!!」
「早く!!」
帝国兵は、カレンを逃がすつもりだ。
自分の意思でカレンを守ろうとしているかは、不明だ。
ただただ、カレンに怯えて、守っただけかもしれない。
それでも、帝国兵は、カレンを逃そうとしている。
ラストとアマリアも、戦いに加わるが、帝国兵は、退こうとしなかった。
その間に、カレンは、そのまま、ヴィオレット達に背を向けて、逃げ始めた。
「ちっ!!」
ラストとアマリアは、ヴィオレットの前に立つ。
しかも、ラストは、苛立ちながら。
カレンを逃してしまったからであろう。
「ヴィオレット、ここは、俺に任せときな!!」
「貴方はカレンを追ってください!!」
ラストとアマリアは、ヴィオレットを先に行かせるつもりだ。
このままでは、カレンは、逃げてしまうだろう。
下手したら、王宮エリアに身を隠してしまうかもしれない。
そうなってしまったら、カレンを殺すチャンスを失ってしまう。
だからこそ、ヴィオレットに託したのだ。
カレンを殺させるために。
「……わかった」
ヴィオレットは、うなずき、構える。
帝国兵は、そうはさせまいと、ヴィオレットに襲い掛かるが、ヴィオレットの前にアマリアが立った。
ヴィオレットを守るかのように。
帝国兵は、アマリアに手を出すことができず、立ち止まってしまう。
ラストが、帝国兵を切り裂き、殺した。
その間に、ヴィオレットは、先へと進んだ。
カレンを追う為に。
「それで、いいんだな。聖女サマ」
「はい。彼女を救うためです」
ラストは、アマリアに尋ねる。
本当に、これでよかったのかと、確認するためであろう。
だが、アマリアの意思は、変わらない。
カレンを元に戻すことが不可能ならば、ヴィオレットに託すしかないのだ。
罪人だと罵られても。
それほど、アマリアは、覚悟を決めているのだろう。
「俺の後ろにいろよ。聖女サマ」
「はい!!」
ラストは、アマリアに告げる。
アマリアを守るためであろう。
もしかしたら、帝国兵は、アマリアにも、襲い掛かろうとするかもしれない。
ゆえに、ラストは、アマリアを守ろうとしていた。
と言っても、アマリアも、戦うつもりだ。
帝国に立ち向かう為に。
カレンは、宮殿の裏に身を隠していた。
帝国の民が、宮殿に突入する可能性を懸念したのだろう。
息を切らしたカレンは、立ち止まり、体を震わせた。
「どうして、どうして、どうして……」
カレンには、理解できなかった。
なぜ、このようなことになってしまったのか。
未だに理解できていないらしい。
全て、うまくいっていたはずなのだ。
アマリアが、ヴィオレットを救うまでは。
「何が、間違っていたというの?」
カレンは、思考を巡らせる。
何が、間違っていたのか。
どこで、道を踏み外してしまったのか。
だが、考えれば、考えるほど、理解できなかった。
全ては、ヴィオレットのせいだというのに。
「ヴィオレット、あいつさえ、いなければ……」
ヴィオレットのせいだと思うと、カレンは、ヴィオレットに対して、憎悪を抱く。
前よりも、強く。
ヴィオレットを許せないのだ。
もし、ヴィオレットが、ルチアを殺さなければ、こんなことにはならなかったと、言いたいのだろう。
その時であった。
「私が、どうかしたか?」
「っ!!」
背後から、ヴィオレットの声がして、カレンは、振り向く。
カレンの背後から、ヴィオレットが、迫っていた。
しかも、鎌を手にして。
カレンが、どこに逃げたのか、推測してしまったようだ。
「ヴィオレット」
「見つけたぞ、カレン」
ヴィオレットは、冷酷な表情で、カレンを見ている。
まるで、暗殺者のようだ。
カレンを殺す事にためらいはないのだろう。
それも当然かもしれない。
なぜなら、ラストとアマリアに託されたのだ。
ゆえに、ヴィオレットに迷いなどなかった。
「お前のせいだ。全ては、お前が……」
「そうだろうな。否定はしない」
カレンは、ヴィオレットを責める。
全ては、ヴィオレットのせいだと。
ヴィオレットは、言い訳も、否定もするつもりはなかった。
自分の罪を受け入れているかのようだ。
それゆえに、カレンは、余計に、許せなかった。
罪を受け入れているのであれば、ヴィオレットは、死ぬべきなのに、未だ、生き残り、セレスティーナ達を殺したのだから。
「だったら、殺してやる!!皆殺しだ!!」
カレンは、ハルバートを振り回す。
ヴィオレットを殺すつもりなのだろう。
いや、ヴィオレットだけでなく、自分に刃向うものは、全て、殺すつもりだ。
自分自身を守るために。
「殺されるのは、お前だ。カレン」
ヴィオレットを鎌を振り回す。
もはや、迷いなどなかった。
迷うはずなどなかった。
ヴァルキュリアは、カレンだけとなったのだから。
「覚悟しろ!!」
ヴィオレットとカレンは、構える。
お互い、一歩も引けぬ戦いが、始まろうとしていた。




