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〜序章1...はんぺんの名を持つもの〜
世界が沈黙した日、
白く柔らかなそれは、石の祭壇の上に置かれていた。
名を「はんぺん」という。
人ではない。
剣でも、魔導書でもない。
だがそれは、この国の結界そのものだった。
かつて世界は深い闇に侵され、
人々は「喰われる未来」から逃れるため、
ひとつの命を“形あるもの”へと押し込めた。
生贄となったのは、まだ名も持たぬ子どもだったという。
柔らかく、白く、傷つきやすく。
だから壊れぬよう、誰も触れぬよう、
「はんぺん」という軽い名を与えた。
――重さを誤魔化すために。
はんぺんは語らない。
笑わない。
ただ、闇が近づくたび、わずかに震える。
その震えは、
痛みであり、恐怖であり、
それでも世界を守ろうとする意思だった。
勇者は最後の戦いの前に、祭壇の前に立った。
「これを壊せば、結界は消える」
「だが、闇も同時に消える」
代わりに何が残るかは、誰も知らない。
勇者は剣を置いた。
はんぺんに、そっと手を伸ばした。
初めて触れられたその瞬間、
はんぺんは小さく、確かに脈打った。
――生きている。
その事実だけが、
この世界で最も重かった。
勇者は結界を解いた。
闇は消えた。
そして世界は、守られた。
白いそれは崩れ、
祭壇には何も残らなかった。
ただひとつ、
誰にも覚えられなかった名前だけが、
静かに世界の底に沈んでいった。
はんぺん。
それは、
軽い名で包まれた、




