394 否定する神
『転生忍者は忍べない』も、完結まで残り7話となりました。
本日から毎日投稿し、11月2日(月)の第400話で完結予定です。
最後までお付き合いいただければ嬉しいです。
俺は襲いかかるアザトースの腕を前に、一瞬でも油断した自分に爪が皮膚に食い込むほど拳を握りしめた。
相手は別の世界とはいえ、すべてを滅ぼした存在だ。余裕なんてあるはずがなかった。今さら後悔しても仕方がないが、それでも――。
その瞬間、眼前に迫るアザトースの腕が弾けた。視線を流し、目を見開く。そこには神銃アクケルテを構え、銃口をこちらに向けるフォルテの姿があった。
彼女は片目を閉じて狙いを定め、引き金を引く。その隣ではサラが神槍レーヴァテインを振り下ろし、ミリーが太陽の小手ノヴァナックルを装着した拳を突き出していた。
漆黒の銃撃と紺碧の斬撃、そして金色の打撃が大気を突き抜け、次々とアザトースの腕を撃ち抜き、切り裂き、打ち砕いていく。
だが、やつは新たな腕を生み出し、執拗に俺を掴もうとする。彼女たちも懸命に俺を守ろうと攻撃を続けるが、すべてを消し去ることはできない。
やがて、アザトースは呟く。
「銃弾、斬撃、打撃……。我、認めぬ」
岩肌で囲まれた部屋に無機質な声が響き渡り、三人の攻撃は一瞬で力を失った。漆黒の銃弾は床に落ち、紺碧の斬撃は霧散し、金色の打撃は消え失せた。
再び、アザトースの無数の腕が俺へと迫る。急いで真銀の翼を折り畳み、この身を覆って守ろうとするが――。
遅かった。
アザトースが十二枚の翼を掴み、強引に押し広げる。そして残りの手で俺の全身を掴む。
(このままでは、まずい!)
やつの手のひらが俺の身体に触れるたび、血の気が引き、力を失っていく。
自分のものではなくなっていく感覚に襲われ、咄嗟に真神気を神臓に集め、それだけを必死に守る。
自分でも理由は分からない。咄嗟の判断だった。
次第に全身の感覚がなくなっていく。それでも、まだ身体は動いた。だが、それも時間の問題だろう。
全身を掴み終えたアザトースは、すべての腕を胸元に戻し、悠然と立っているだけだ。それが何よりも不気味に思えた。
震える身体を無理に動かし、ゆっくりと起き上がると、フォルテたちに顔を向ける。
三人とも青ざめていた。視線を落とし、足元から指先まで確認する。肌は黒く染まり、生気は感じられず、服も影のように暗かった。
その間、やつが襲うことはなかった。すでに勝負はついている。そう思ったのだろう。それとも、彼女たちに別れを告げる時間をくれたのだろうか。
人の心を持たないアザトースに、そんな慈悲があるはずもない。ただ、俺を観察し、手に入れた情報を解析しているだけだ。
フォルテ、サラ、ミリーへ順に笑顔を向け、最後に小さく呟く。
「フォルテ、サラ、ミリー。……愛している」
彼女たちは目に涙を浮かべ、起き上がり、こちらへ駆け出そうとした――その瞬間、冷たい声が背中に響く。
「アーク。我、認めぬ」
無機質で無慈悲な声が、静かに全身を打ちつけた。
直後、視界が黒く塗り潰されていく。嗅覚は機能を失い、触覚も消え失せ、何も感じられなくなる。
「アーク!」
「アッくん!」
「アーたん!」
最後に残った聴覚が、フォルテたちの声を捉えた。だが、それもすぐに聞こえなくなった。
そして、俺は五感を失い、思考さえも奪われた。
――――――――――――
どれほど意識を失っていたのだろうか。俺はそっと瞼を上げた。
(……ここはどこだ?)
頭を押さえながら首を振ると、少しずつ記憶が蘇り、意識がはっきりとしてくる。
たしか、俺はアザトースにその存在を消されたはずだ。慌てて起き上がり、目の前に広がる光景に息を呑む。
純白の翼を広げ、アザトースと戦う俺の姿があった。
(……いや、あれはルキフェルか?)
目を凝らし、じっと見つめる。羽先はわずかに黒く染まっている。堕天使だったころの俺だ。その手には、天界にいたときに使っていた神剣アズラエルが握られていた。
アザトースと戦う俺は、純白の十二翼をはためかせ、万物変化魔法で周囲の空気を炎や氷に変えながら、神剣を振るっている。
いったい何が起きたのか分からず、自らの体に触れてみる。間違いなく実体があった。幽霊でも精神体でもないようだ。
(……ならば、俺は何だ)
そのとき、混乱する俺に声が届く。
「もしかして、風真なの?」
その声は震え、小さかった。
息を呑み、振り向く。視線の先には口元を押さえ、涙を浮かべるフォルテが立っていた。
ここまで、読んでくださり感謝です(//Д//)
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