393 白銀の鴉と無数の腕
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俺がアザトースに詰め寄ると、背後から巨大な手が迫る。だが、迷うことなくクナイを振り下ろすと、やつの胸元は切り裂かれ、俺を掴もうとした手は霧散した。
さらに一歩踏み込み、首の上で不気味に輝く球体を睨みつける。そのとき、眼前にひらひらと白銀の羽が舞い落ちる。
それをもう片方の手で掴み、クナイに変えた。
そして、両手に持った二本のクナイをアザトースに斬りつける。リューハの情報を失ったやつの動きは精彩を欠き、もはや俺の敵ではなかった。
千変万化の斬撃で、アザトースを斬り刻む。
やがて、やつの青銅の体に無数の傷が刻まれ、苦し紛れに突き出した拳を、肘から断ち切った。
もはや、やつにできることはない。俺はもう片方の腕も斬り飛ばそうと、腰を沈め、クナイを構えた。そのとき、アザトースが呟く。
「解析完了。クナイ。我、認めぬ」
やつの言葉が届くより早く、クナイを投げ捨てて深く斬り裂かれたやつの胸元に両手を当てる。
そして、両足を広げて腹に力を込め、渾身の掌底突きを叩き込んだ。
手のひらに凄まじい熱を感じた。次の瞬間、白銀の光球が放たれ、眩い光とともにアザトースの胸元を穿った。
青銅の肉体にぽっかりと穴が開いたアザトース。その姿に安堵の息を吐く。やはり、やつにも俺の真神気は通用する。
片腕を失い、全身を斬り刻まれ、胸元を穿たれたアザトースは、ただ立っているだけだ。このまま一気に勝負を決める。
駆け出そうとしたとき、やつの首の上に浮かぶ無数の正方形が激しく動き出し、ひとつになった。
再び四角い頭となったアザトースは、すっと片手を顔に当てた。指先が滑るたびに、いくつもの小さな正方形が組み替えられていく。
異様な光景に息を呑む。気づくと、ぼろぼろだったやつの肉体は見る間に回復し、切断されたはずの腕も元に戻っていた。
言葉を失い、呆然とする。
そのとき、背後から声が聞こえた。
「アーたん、無事だったにゃ!」
「アッくん、よかった!」
思わず振り向いてしまう。視線の先には互いに支え合い、涙を浮かべて笑うミリーとサラが立っていた。
二人は満身創痍の体を引きずりながら、フォルテのもとに向かう。三人は合流すると、真っすぐ俺を見つめて小さく頷いた。
自然と口元に笑みが浮かぶ。頷き返すと、アザトースに向かって駆け出した。その瞬間、やつの胸元から無数の腕が伸びる。
その腕には奇怪な黒い紋様が浮かび、蛇のように蠢きながら迫る。全身の肌が粟立ち、触れるのは危険だと直感的に悟る。
すぐに岩場からこちらを見下ろす眷属の鴉を見つけ、意志を飛ばす。すると、鴉は鋭く鳴いて飛び立った。
一直線にアザトースめがけて滑空する白銀の鴉。鋭い爪を立て、やつの顔を引っ掻いた。
アザトースの胸元から伸びる腕が、一瞬止まる。その隙を突き、懐に飛び込んで手刀を薙いだ。
深々とやつの脇腹に手刀は食い込み、アザトースが一歩後ずさる。それでも、頭上と背後から幾つもの腕が襲う。
俺は大きく踏み出し、やつの足の内側に自らの足をねじ込み、外側へ押し開いた。それだけでアザトースの体勢は崩れ、俺を掴もうとした腕たちは大きく逸れた。
しかし、やつは諦めなかった。再び、奇怪な腕たちは大きく弧を描き、こちらに戻ってくる。
それならと、踏み込んだ足を跳ね上げ、アザトースの内腿を蹴った。すると、やつの身体は横に傾き、胸元から伸びた腕は軌道を変える。
よろけるアザトースを睨み、両手をやつの胸元に当てて真神気を放つ。その瞬間、白銀の光が迸り、部屋を真っ白に染め上げた。
目を細め、じっと見つめると、やつはさらに後ずさり、胸を押さえた。
しかし、渾身の一撃はアザトースの胸を穿つことなく、大きく窪ませるだけだった。それでもかなりの傷を負ったはずだ。
追い打ちをかけるべく走り出す。ふとアザトースの顔を見ると、一部が正方形に欠けていた。おそらく、俺が砕いたリューハの情報があった部分だろう。
やつを見つめ、思考を巡らせる。アザトースの顔の内側にある光球を狙うのを止め、それを守るように取り囲む正方形を削ることにした。
一気に加速してアザトースに迫り、そのまま通り過ぎると、一瞬で踏みとどまり、やつの膝裏を蹴り抜く。
アザトースは膝から崩れ落ち、レンガのように組み上がった正方形の頭を俺の目の前にさらした。
拳を握り込み、真神気を纏わせると、連撃を放つ。徐々にアザトースの顔を形作る無数の正方形にひびが入り始める。
(このまま打ち続ければ、やつの情報をさらに消せる)
口角が上がった。そのとき、眷属の鴉が強く鳴いた。すぐに鴉眼の術を発動する。
背後から迫る無数の腕が視界に映った。俺は大きく体を横に投げ出して地面を転がり、慌てて起き上がる。
かすかに足首に違和感を覚え、視線を落とす。そこにはアザトースの手形が、影のように黒く染みついていた。
痛みもなく、ちゃんと動くが、何か自分のものではないような奇妙な感覚がある。アザトースから視線を外すことなく、軽く跳んでみる。
足首は普通に動き、問題なく着地もできた。安堵の息を吐き、再び腰を沈めて駆け出す。徐々に速度を上げ、やつに迫る。
そのとき、アザトースの冷たい声が耳元に届いた。
「……足。我、認めぬ」
足首が消えた――。
そう錯覚するほど、突然、そこだけが自分の身体から切り離されたように何も感じなくなった。
体勢を崩し、全身を地面に打ちつける。駆け巡る痛みに耐えながら、アザトースに視線を向け、眼前に迫る光景に息を呑む。
漆黒の紋様が刻まれた無数の腕が、今まさに俺を掴もうとしていた。
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