391 解析不能
しばらくアーク視点です。
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俺がアザトースを斬り伏せようと、宙で止まったナナシに力を込めた瞬間、刃が突然消え、体勢が崩れた。
やつに一瞬、背中を見せてしまう。慌てて、そのまま倒れ込むように前へ飛び出して片手をつき、回転して起き上がる。
距離を取りつつ、刃が消えたナナシを見て、アザトースに視線を移す。やつの首から上には、無数の小さな正方形が浮かび、その中央に薄く光を放つ球体が浮いている。
いくら真神気を込めても刃は現れない。
柄だけとなったナナシをベルトに戻して拳を握り込むと、腰を落とした。アザトースはさっき、「解析完了」と言った。
ならば、やつの能力は理解した存在をこの世から消すものなのだろう。
全身を巡る真神気を確かめる。それは神臓から力強く送り出されていた。
(こっちはまだ大丈夫なようだな。そもそも真神気を理解できるのか? 俺にも、これが何なのか分かっていないのに……)
戦闘中だというのに、思考の海に沈みかけた。小さく首を横に振り、ふとアザトースの頭上に視線を向ける。
白銀と化した三つ目の鴉が岩場に止まり、俺たちを見下ろしていた。どうやら眷属の鴉も真神気の影響を受け、姿を変えたようだ。
笑みを零し、拳を前に出して構えると、白銀の鴉が鋭く鳴いた。
その瞬間、大きく踏み出してアザトースの懐に潜り込む。やつはただ立ったまま、守ることすらしない。
余裕なのか、俺の動きが見えていないのか分からないが、遠慮なく攻撃させてもらう。さらに強く拳を握り締め、鳩尾に突き出す。
アザトースが体をくの字に曲げ、後ろに下がると、さらに踏み込み、突き出した腕を曲げ、鳩尾に肘を叩き込んだ。
思わず膝を折るアザトース。俺は肘を戻しながら、腰を回転させて後ろ回し蹴りを放つと、やつの首の上に浮かぶ正方形の一つに当たった。
勢いよく弾き飛ばされた正方形は、他とぶつかり合い、その配置を大きく変えた。
「解析情報に不具合。存在の再定義を試行」
突如、宙に浮かぶ正方形が激しく動き出し、アザトースの首の上で一つにまとまった。そして、やつは両手を上げて自らの頭に触れ、いくつかの正方形の位置を変えた。
その姿を見て、嫌な予感がよぎり、背中に冷たい汗が伝う。
俺は駆け出し、アザトースに全体重を乗せた手刀を横薙ぎに叩き込む。すると、やつは拳を作り、腰を沈めた。
構えを取ったアザトースに目を剥く。その姿に一分の隙もなく、一流の武道家と対峙しているかのような圧力を感じる。
だが、手刀を止めることなく、そのまま振り抜く。その瞬間、アザトースはそれを片腕で受け止め、中段蹴りを繰り出した。
脇腹にやつの足がめり込む。油断などしていなかった。それだけアザトースの蹴りが鋭かった。
咳き込む俺に、やつは告げる。
「再定義完了。解析へ移行」
次の瞬間、アザトースが正拳突きを放った。眼前に迫る拳。避けることはできない。真神気を一気に解放する。
背中に生えた真銀の十二翼を広げ、瞬時に万物変化魔法を展開させると、周囲に漂う空気に弾性を持たせ、やつの拳を弾き返した。
それでもアザトースは攻撃をやめることなく、拳を打ち続ける。ただ闇雲に腕を振り回すことはなく、正確に俺の急所を狙い、緩急をつけ、虚実を混ぜる。
確実に仕留めようとする動きだ。俺は魔法を解除する機会を窺いながら、両腕を突き出して防御の構えを取る。
いくら魔法で防いでいるといっても、完璧ではない。弾性を持つ空気だが、すべてを弾き返すことはできず、たまに衝撃が体を貫く。
まさか、これほどまでに武術を極めているとは思わなかった。その技量はガリュウを上回っているかもしれない。
ふと、十王の遺跡でガリュウと戦った初代武導王リューハを思い出す。彼もメフィストとデミウルゴスに手術を施された実験体だった。
じっとアザトースを見つめると、正方形の一つから竜人の気配を感じた。おそらく彼――いや、そのコピーもアザトースの依り代にされたのだろう。
ならば、やつにはこの魔界、いや人界を含めたこの世界に生きる者たちの様々な記憶や知識が詰め込まれていると思ったほうがいい。
あらゆる存在を認識して蓄積し、そして消すことができる異能の力。異界の神らしい禍々しい力に、唇を噛みしめる。
そのとき、視線を感じて振り向く。そこには心配そうに見つめるフォルテの姿があった。その顔と飛鳥の顔が重なり、息を呑む。
(生まれ変わっても、彼女に心配をかけるとは情けない)
攻撃を続けるアザトースを前に、さらに魔法を重ね、少しの間だけやつの攻撃を完全に防ぐと、フォルテに笑顔を向けた。
「すまない、心配をかけた。もう大丈夫だ、フォルテ」
その言葉に彼女は一瞬目を見開くが、すぐに笑みを浮かべて頷いた。俺は頷き返し、魔法を解除する。
その瞬間、アザトースの拳が俺を貫き、フォルテの悲鳴が響き渡る。
心の中で彼女に謝りながら、がら空きとなったやつの背中を蹴り上げると、アザトースは前方へ吹き飛び、堪らず地面に手をついた。
「解析不能。アークの位置を多数確認」
やつを取り囲む俺たちは笑みを浮かべ、見下ろした。
「さすがにこの技は知らなかったか。言葉だけでも教えてやる。『分身の術』だ」
言葉の余韻が消えるより早く、無数の『俺』が一斉に襲いかかった。
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