390 真神気と白銀の刃(アーク視点)
※本作は400話で完結します。最終回まで、あと10話です。
ここまで読んで頂き、本当にありがとうございます(T_T)
最後まで頑張ります<(_ _)>
メフィストと対峙するリリス。俺は彼女の背中をじっと見つめる。一瞬、その肩口に刻まれた大蛇の刺青が、わずかに動いたように見えた。
リリスに声をかけようとしたが、その前に彼女は手を上げ、俺を制した。
もはや何を言っても、メフィストとの戦いを止めることはできない。それでも言葉を投げかける。
「……死ぬなよ」
リリスにも聞きたいことがある。それに、彼女はフォルテとも親しかった。できれば、無事でいてほしい。様々な感情を押さえ込み、背を向けた。
体中に巡る不思議な力を確かめる。神気でも魔力でもない。ましてや魔神気でもない。リリスは真神気と言っていた。
静かに目を閉じ、その力を解放する。それは白銀のオーラとなり、俺の体を包み込む。その瞬間、フォルテ、サラ、ミリーの姿が脳裏をよぎる。
彼女たちに贈った簪や耳飾りから、強い繋がりを感じる。ただ、フォルテだけは簪を付けておらず、胸元に仕舞っている俺の万年筆から、その気配が伝わってきた。
瞼を閉じると、彼女たちの姿がより鮮明になる。
彼女たちは異界の神と戦い、傷ついていた。特にフォルテは、今も異形の男と戦っている。彼女は地面に手をつき、苦悶の表情を浮かべていた。
ナナシを握り締め、彼女の位置を探る。フォルテは、このパンデモニウムの真下。ずっと深い地下で、強大な敵と戦っていた。
ナナシに真神気を流し込み、瞳を閉じる。
――間に合え。
ただ、それだけを願い、ナナシを横薙ぎに振ると、音もなく空間が裂けた。
その先に蹲る彼女を視界に捉える。俺は迷わず大きく踏み出し、そのまま駆け出した。
――フォルテの存在が消えかけている。
そう直感して、目を凝らすと、すぐに彼女の存在そのものに干渉する歪な手を見つける。それは正方形の顔を持つ男の胸元から伸びていた。
躊躇うことなく、ナナシから白銀の刃を生み出し、振り上げた。確かな手応えを感じ、視線を下ろす。フォルテを掴んでいた腕は切断され、霧散した。
斬りたいものだけを斬るナナシ。今、まさに真の力を解放した。それは、この世に存在しないものすら斬り伏せた。
加えて俺の目も、眷属の鴉にも変化が起きていた。鴉眼の術は印を結ばずとも意識するだけで発動し、鴉はこの世界のすべて――いや、この世にない存在すら見抜いた。
視線を落とせば、大地を形づくる粒子が見える。そして、宙に漂う魔素や魂の残滓も、はっきりと捉えた。
ふと知っている気配を感じ、虚空を見つめる。
うっすらとベルゼガの魂が漂っていた。それは一瞬だけ、彼の姿を形づくった。泣きそうな顔をしている。
『ごめん、アーク』
声は届かなかったが、たしかにベルゼガはそう呟いた。そして、それだけを残し、魔素へと還っていった。
俺は目を閉じ、すべてを悟る。やはりメフィストが告げた通りだった。ベルゼガの魂は消えたが、彼の肉体は目の前の男から感じられる。
それが何よりの証拠だった。
「きさまが異界から来た神――アザトースか?」
フォルテを庇うように前に立ち、じっと異形の男を睨みつける。
「是とする。我は異神、我はアザトース」
「……そうか」
アザトースに背を向け、こちらを見つめるフォルテに笑みを浮かべる。彼女は存在が消えかけたせいで、その力の大半を失っていた。漆黒の翼も消えている。
よく俺が来るまで耐えられたものだと、目を細める。
そのとき、前世の妻、飛鳥の姿が重なる。おそらく彼女がフォルテの存在を繋ぎとめていてくれたのだろう。
東洋連合国で出会った八咫烏。彼が告げた言葉を思い出す。
『フォルテはお前と同じ転生者だ。その魂の内には、飛鳥が眠っている。ただ、お前のように記憶が蘇るかは分からない』
結局、そのことを彼女には伝えなかった。フォルテは今の自分を見てほしいと言った。それは彼女と飛鳥――二人の願いだと、そう思えたからだ。
フォルテに飛鳥の記憶はない。それでも彼女は俺と出会ってくれた。そして支え、今度も救おうしてくれた。
手をかざし、フォルテに真神気を送り込む。これで動くことはできるはずだ。
「すまないが、フォルテ。少し下がってくれ。あいつは俺が倒す」
視線をアザトースに戻し、白銀の切っ先を向ける。その時、彼女の声が背中に響いた。
「アーク! よかった、無事で……」
歓喜で震えていた。だが、嗚咽も混じっていた。それだけで、どれほど彼女が俺のことを心配していたのか分かった。
振り向いて抱きしめたい。手を握り締め、その衝動を抑え込む。目の前のアザトースを倒すほうが先だ。やつはこの世に存在してはならない。
その力は、我が主にすら届くかもしれない。そうなれば、やつはこの世界の神として君臨することもできる。
そんな不敬を許すわけにはいかない。何より、ここは俺が愛した者たちが暮らす大事な場所だ。訳の分からない異界の神に支配させるわけにはいかない。
ナナシを握り締める。静かに歩を進める。そして、アザトースの前に立つ。
やつの正方形の顔には縦横に規則正しく線が幾重にも引かれ、ほのかな光が滲んでいた。まさに異形だ。
腰を落とし、ナナシを薙いだ。刃が届く直前、アザトースの顔が砕け、無数の正方形へと飛び散った。
それでも構わずナナシを振り抜こうとする。だが、それは宙で止まり、一切動かなくなる。どんなに力を込めても、ぴくりともしない。
歯を食いしばり、アザトースを睨む。無数の正方形が浮かぶその中心から、やつの声が響く。
「……ナナシ。解析完了。我、認めぬ」
その瞬間、ナナシから白銀の刃が消えた。
ここまで、読んでくださり感謝です(//Д//)
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