389 虚実の女帝
またまたブクマと評価していただき、感謝です(//Д//)
ここでリリス視点は終了です(* >ω<)b
私は銀蛇の鞭を構えながら、素顔を見せたメフィストに声をかけた。
「ふふ、まさか貴方が魔人とは思わなかったわ。その顔だと蝙蝠族かしら。山羊の頭蓋骨より、よほど素敵よ」
笑みを浮かべながら、再び鞭を打ちつけると、鋭く大気を切り裂き、メフィストを襲う。だが、やつは赤黒いマントを広げて飛び立ち、回避した。
まさに蝙蝠のように天井にぶら下がり、私を睨みつける。
「俺は脆弱な魔人だ。だからこそ、上位種の悪魔を騙し、異界の神を利用し、力を得たのだ。お前のせいで、また始めからやり直しだ。まずはお前の虚飾の力を調べ、俺のものにしてやる」
今までと言葉遣いが変わった。粗野で野蛮だが、こちらのほうが本心が滲み出ていてよかった。
これでこいつの本当の断末魔を聞くことができる。
私は銀蛇の鞭を握り締め、メフィスト目がけて振り上げた。その瞬間、やつはマントをはためかせて飛び立つと、大きく横へと回避する。
広げたマントから無数のメスや注射器が飛び出した。すぐに私は瞳を紺碧に変え、虚飾の権能で攻撃を塗り替える。
目の前に迫るメスや注射器は、私の体をすり抜けると、メフィストの頭上へと現れて降り注いだ。
ハリネズミのように体中にメスや注射器が刺さったやつは、それでも床に落ちることなく、宙を飛んでいた。
その表情は苦痛に歪みながらも、満足げだった。
「なるほど、そういうことか」
メフィストは再びマントを広げて攻撃を仕掛けた。さきほどと変わらない攻撃だ。やつへの攻撃にすり替える。
再び、自らの攻撃の的となったメフィスト。メスや注射器が全身に突き刺さっても、笑顔を崩さない。何か企んでいるようだ。
少しだけ嫌な予感がする。銀髪を一房握り、魔力を込めてもう一つ銀蛇の鞭を作り出すと、両腕を振り上げ、連続で鞭打を放つ。
その瞬間、背中にかすかな痛みを感じる。だが、構わず鞭を振るい続けた。私の猛攻に耐えていたメフィストだったが、ついに力尽き床に落ちる。
血塗れとなり、肩で息をするメフィスト。
静かに近づき、息の根を止めようと鞭を振り上げた。不意に視界がぐにゃりと歪み、膝が折れた。
「きしし、ようやく毒が回ってきたか。攻撃に耐えながら、お前に気づかれぬよう、これを刺すのは少しだけ苦労したぞ」
青い血で顔を染めたメフィストは、ゆっくりと起き上がる。そして、醜く顔を歪ませて、マントの中から一本の注射器を取り出した。
「これはアークに打ったものと同じ毒――いや、ウイルスだ。そして、今、お前の背中に刺さっているものだ。いくら虚飾の権能といえど、自ら攻撃しているときは使えず、その瞳も赤く変わる。気づくのは簡単だったよ」
頬を伝う青い血を手の甲で拭い、得意げな表情を浮かべるメフィスト。その姿にほくそ笑む。
「そうね、私の権能は、虚実を合わせたもの。嘘の裏――事実を暴かれたら、敗北するしかないわね」
そう告げて、右肩に刻まれた大蛇の刺青をそっと撫でた。その瞬間、それは実物と化してメフィストを襲った。
「ふん、最後の足掻きか。たかが蛇ごときで俺が倒せるものか」
豚のような鼻を鳴らし、迫りくる紫色の大蛇にメスを振り上げる。だが、それは大蛇を傷つけることなく、通り過ぎた。
「なるほど、虚か。それに何の意味が――」
メフィストが言い終える前に、大蛇はやつの喉元に噛みついた。
「ふふ、嘘だと思ったの? でも、その痛みはどう?」
私は赤と青、虚実を合わせた紫の瞳でメフィストを見つめる。やつは必死に大蛇を引き剥がそうとするが、手をすり抜け、虚しく宙を掴む。
「あら、そういえば、私は毒を打たれたんだわ。いえ、ウイルスだったわね。それは虚飾で塗り替えさせてもらうわ」
そう告げて右の瞳を虚飾の碧に、左の瞳を真実の紅に変え、虚実を切り分けると、体内を蝕んでいたウイルスを、腕に巻きついた大蛇へと流し込む。
体内に残ったウイルスは嘘へと塗り替えられ、大蛇へ移したものだけが真実として残る。それは大蛇の体を伝い、深々と刺さった牙からメフィストへと注がれていく。
「マアナが苦しんだ毒よ。いえ、ウイルスだったかしら。どちらでもいいけど、あなたもしっかり苦しんでね」
紫色の大蛇に体を巻き付かれたメフィストに、私は満面の笑みを返す。
だが、やつは喉元を噛まれ、喋ることはできず、ただ恐怖で滲む目をこちらに向けるだけだった。
その間もウイルスは、やつの体を蝕んでいく。徐々に体は崩壊し始め、手足から魔素へと還っていく。
このままだと再び病魔が魔界に蔓延するかもしれない。
メフィストの断末魔を聞くことを諦め、部屋を出る。ここはパンデモニウムの屋根裏。ここを準備したのは私だった。
そっと扉を閉め、その隣にある小さな窪みを押した。その瞬間、部屋の中から轟音が聞こえてきた。
それは部屋を密閉するために流れ込む大量の特殊な土の音だった。部屋の中を埋め尽くした土は、数日をかけて固まり、石へと変わるだろう。
たしか偽神パズスは、『コンクリート』と言っていた。あいつに仕えるふりをして得た知識だが、役に立った。
それにメフィストも本望だろう。新たな知識を得たのだ。『コンクリート』の中で、しっかりと味わうといい。
ほとんどの魔力を使い果たし、壁に背を預けて座り込む。胸の魔核が激しく脈打ち、呼吸が乱れる。
それでも、マアナの仇は取った。
だが、満足よりも虚しさが心を満たす。無性にリリムとエジェイルに会いたくなった。
虚実を同時に扱い、病魔そのものを書き換えた代償だろう。体に刻まれた大蛇の刺青は消え、虚飾の権能も消えてしまった。
けれど、惜しくはなかった。これで娘たちが安心して暮らせる。そんな魔界が訪れるはずだ。
私は目を閉じ、これからの魔界――いや世界を導いてくれるアー君とフォルテちゃんの無事を祈った。
ここまで、読んでくださり感謝です(//Д//)
ブクマや★で応援いただけると励みになります!




