387 魔界の女帝(アーク視点)
三連休初日です。読んで頂き、ありがとうございます<(_ _)>
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久しぶりのアーク視点です(`・ω・´)ゞ
俺はベルゼガとメフィストの罠に嵌って捕らえられた。とにかく、脱出をするために鴉眼の術を使い、まずはどこに幽閉されたのかを探った。
場所はパンデモニウムの屋根裏だった。
魔力も神気も使えない俺は、扉の鍵穴を覗いたり、壁や床を調べたりしたが、脱出の糸口すら見つけられなかった。
思わず胸に手を当てる。実直に血を送り出す心臓の隣で、魔核も当たり前のように静かな鼓動を繰り返していた。
(なぜ、魔力も神気も使えなくなった。ベルゼガか、メフィストか。どちらかが何かしたのは間違いない……)
唇を噛みしめた――そのとき、扉がゆっくりと開いた。
思わず後ろへ大きく跳んだ。肩に止まっていた鴉も飛び立ち、格子窓に止まって扉を見つめる。
「ごきげんよう、アーク様。再び、再度、改めてお会いできたことを嬉しく思います」
扉の向こうから現れたのは、赤黒いマントを纏い、山羊の頭蓋骨を被った悪魔――メフィストだった。
最悪の再会に、舌打ちをする。だが、やつはベルゼガとともにいたはずだ。メフィストを睨み、その後ろに彼がいないか確かめる。
「ご安心を。ベルゼガ様ならいませんよ。私のコピーが、あの方のもとへ運んでいるところです」
その言葉になぜかフォルテの顔が脳裏をよぎり、胸がとくりと跳ねた。理由もなく焦燥感に駆られる。
「……そうか。それで、お前は本体なのか」
「ええ。おそらくは、間違いなく、可能性は高いと思います。というのもですね、私にも分からないのです。コピーを作り過ぎて、どれがオリジナルなのかなんて」
メフィストのふざけた言いぐさに眉を吊り上げると、やつは肩をすくめ、首を横に振った。
「そんなに怒らないでください。少なくとも今、活動しているのはベルゼガ様とともにいるコピーと、私だけですので。そして、私こそが最も力を持つ個体です!」
胸を張り、自信満々に答える姿に怒りが増す。だが、今はこいつの調子に合わせ、少しでも情報を引き出すことにする。
「動いていないお前たちもいるのか? それはどこだ?」
「きしし、教えるわけないじゃないですか、と言いたいところですが、いいでしょう。分かりました。許容しましょう。私のコピーたちは――」
山羊の頭蓋骨の顎を不快に揺らしながら、メフィストが答えようとしたとき、扉の向こうに人影を捉える。
「残りのコピーは、この地下奥深くの研究室の培養液の中でしょ? メフィスト」
その声はリリスだった。
思わずメフィストから視線を切り、扉のほうを見つめる。そこには銀髪をなびかせ、妖艶な笑みを浮かべる魔界の女帝が立っていた。
「これは、これはリリスさん。どうしてここに?」
メフィストは驚いた素振りも見せず、淡々と尋ねる。
「ふふ、私がどこにいようと関係ないでしょ。私は悪魔侯リリス。この魔界の女帝よ。好きな時に、好きな場所にいるだけ」
リリスは髪をかき上げ、肩口に刻まれた大蛇の刺青をそっと撫でた。俺は二人の会話に耳を傾けながら、少し距離を取る。
「そんなに怖がらなくてもいいじゃない、アー君。さっき、フォルテちゃんたちに会ったわよ」
彼女の言葉に息を呑む。どうやらフォルテたちは魔界にいるようだ。ちらりとメフィストを見るが、驚いた様子はない。やつも知っていたのだろう。
俺を探し出すために、彼女たちはここまで来たはずだ。ならば一刻も早くこの場から抜け出し、彼女たちと合流しなければならない。
この魔界は、俺が統治していたころから大きく変わってしまった。
ベルゼガでも制御できない悪魔――メフィストやデミウルゴスが暗躍し、その裏には、より強大な影が見え隠れする。
それが何かは分からないが、そんな存在がいる魔界で俺を探すフォルテ、サラ、ミリーが心配だ。
一刻も早くここから脱出するため、どうすべきか思考を巡らせる。そのとき、リリスがメフィストに声をかけた。
「それで、本体であるあなたはここで何をしているの? 本来なら、あなたのほうが異神アザトース様のもとへ、ベルゼガを届けるべきではなくて?」
彼女が漏らした言葉、『異神アザトース』。それは悍ましい力を持ちながら、実体を持つことができず、封印された異世界の神の一柱だ。
ほかにも『偽神パズス』、『悪神アンラマンユ』もいる。だが、どれもこの世界に拒まれ、不安定な存在として封印されているはずだ。
ごくりと喉を鳴らすと、メフィストが笑い出した。
「きしし、ひゃははは、ひひひひ。ええ、そうですね、正解です、その通りです。本来なら、私がアザトース様の依り代――ベルゼガを届けるつもりでした。
だが、こいつがいけないのですよ! 私の知識と技術のすべてを以てしても、完璧なレプリカを作ることができなかったのです!」
メフィストは山羊の頭蓋骨の顎を大きく揺らしながら、俺を指差した。その手は人間のようだったが、痩せ細り、爪は黒く、異様に伸びていた。
「だから、したがって、つまりは、こいつを解剖して完璧なレプリカを作るのです! そして、私の知識と技術のほうが優れていると証明するのです!」
そこまで言い終えると、メフィストはぴたりと止まり、山羊の頭蓋骨をこちらに向けた。その目元には眼球がなく、奥に小さな赤い光の球が浮いているだけだった。
「ふーん、なるほどね。なら、本当にあなたが本体っていうのも嘘じゃなさそうね」
リリスはやつの異常さを前にしても、表情を崩すことなく妖艶に微笑んだ。どちらも油断ならない相手だ。魔力も神気も使えない俺では抗いようがない。
奥歯を噛みしめ、何か手はないかと必死に考えている。すると、鴉が鋭く鳴いた。
咄嗟に顔を格子窓に向けてしまい、一瞬の隙が生まれる。慌てて視線を戻すと、目の前にリリスが立っていた。
彼女の瞳は紺碧でも、深紅でもなかった。不思議な色を放つ双眸に吸い込まれそうになる。
次の瞬間、胸を貫く痛みに息が止まり、視線を落とした。
「ごめんね、アー君」
リリスは静かに告げた。その手にはナナシが握られており、わずかに伸びた刃が、俺の胸に深く突き刺さっていた。
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