383 異神の依り代(フォルテ視点)
ここらはフォルテ視点です。
ブクマや評価、すごく嬉しいです。ありがとうございます!
私はサラとミザリーを残し、地下道を歩き続けていた。この先にアークがいることを信じて――。
そのとき、ふとタルロスの顔が脳裏をよぎった。彼女は不安を押し殺し、私を見送ってくれた。あのとき交わした約束を、必ず守らなければならない。
『必ず戻ってくるから、待ってて』
自ら発した言葉を噛みしめ、胸元に手を当ててアークの万年筆を感じる。そして、ベルゼガの血へと視線を落とした。
それは悪魔特有の紫色をしていた。
サラの魔法が施された彼の血塊は、傷を癒やすために本体であるベルゼガのもとへ戻ろうと、必死に地面を這っている。
真っ暗な地下道の中、その後を追う。
私は魔法で視力を強化していた。火魔法で周囲を照らすこともできるが、今はサラもミザリーもおらず、たった一人だ。
万が一、敵が潜んでいれば、灯した光は格好の的になる。一人では後手に回る可能性が高い。ならば、暗闇を見通せるように視力を強化したほうがいい。
そう判断して、慎重に歩き続けた。
やがて、巨大な門が見えてくる。それには派手な装飾も、不気味な彫刻も施されていない。ただ、無機質な二枚の門扉があるだけだった。
視線を落とし、ベルゼガの血塊を見る。これまでと同じように恐怖で震え、先へ進むことを躊躇していた。だが、先ほどまでよりも、わずかに前へ進もうとする意志が強いように感じられた。
門扉に触れると、それはゆっくりと開いた。顔を上げ、部屋の中を見やる。そこは門と同じく、何もない無機質な空間だった。
ただ、壁や床そのものが、かすかな光を放っている。地下道とは違って室内は明るく、はっきりと見渡すことができた。
ベルゼガの血塊を追い越し、中へと入る。中央には巨大な四角い柱が立っていた。それは天井まで伸び、この部屋を支えているように見えた。
ゆっくりと歩を進めると、ベルゼガの血塊が後に続く。次第に巨大な柱――その全容が見えてくる。
それは地下道の壁と同じように、いくつもの悪魔が縫い留められていた。無機質な空間に屹立する不気味な柱。私は思わず眉をひそめる。
「きしし、ようやく、ついに、やっと来られましたか。サタン様、いやサタナル様? もしくはフォルテ様ですかな?」
柱の陰から、山羊の頭蓋骨を被った青年が現れた。かすかに覗く襟元から、銀髪が見える。
「……メフィストか。私の名など好きに呼ぶがいい――と言いたいところだが、今後は私のことはフォルテと呼べ。魔王でも堕天使でも、好きに付けろ」
いつになく高圧的な喋り方に、自分でも驚く。だが、それはサタナルと完全にひとつになった証だった。私は天使化し、漆黒の十二翼を広げる。
「おお、素晴らしい。実に、本当に、まさに素晴らしい。これが『真の一体化』ですか。ベルゼガ様とは違った変化ですな。ぜひ調べさせていただきたい」
メフィストはそう言いながら、柱をそっと撫でる。その瞬間、私は目を見開いた。やつが手を触れた場所には、ベルゼガの顔があった。
すぐに神銃アクケルテを抜き、銃口をメフィストに向ける。
「ベルゼガをどうした!? それにアークはどこだ!」
やつは答えることなく、柱に縫い付けられたベルゼガを見続ける。
ベルゼガの表情は苦悶に歪み、助けを求めているようだった。ふと視線を下げる。紫色の血塊が柱へと進み出そうとしていた。
だが、その隣にいるメフィストを警戒し、なかなか前へ出ることができない。私は答える気配のないやつに向けて、銃弾を放つ。
乾いた炸裂音が部屋の中に響き渡ると、山羊の頭蓋骨は粉々に砕かれ、メフィストの素顔が露わになる。
やはりアークの顔を模していた。その目元は深く窪み、奈落のようになっている。不快ではあるが、それよりもこいつを倒し、ベルゼガを解放するのが先だ。
油断なくアクケルテを構え、太もものホルスターからアクケルテのレプリカを抜く。そして、二つの銃口をメフィストに向けた。
「もう一度だけ聞く。アークはどこだ?」
ベルゼガの顔を撫でていたメフィストが、こちらを向いた。そのアークを模した不気味な顔に、私は唇を噛みしめる。
「何を言っているんだ、フォルテ。ここにいるだろ」
その声はアークそのものだった。目の前が真っ赤に染まり、気づくと無数の弾丸を放っていた。
メフィストに鉄の豪雨が降り注ぐ。その銃弾に込めた魔法は、消滅と破壊。それらはやつの肉体を穿ち、切り裂き、爆ぜた。
やがてメフィストの肉体は消滅し、顔だけが床に転がる。
「きしし、やはり、予想通り、案の定、偽物とはいえアーク様の顔を傷つけることはできませんでしたね、フォルテ様」
首だけとなったメフィストは嬉しそうに告げるが、やつは勘違いをしていた。別に顔を傷つけたくなかったわけじゃない。ただ、口を残しておいただけだ。
「これが最後だ。アークはどこだ?」
二丁の銃口をメフィストに向け、静かに告げる。だが、やつはにやりと笑うだけだった。思わずため息が漏れる。
もうこれ以上、やつの不快な顔を見るのは耐えられなかった。
そっと引き金を引く。すると、二つの火柱が迸り、メフィストの目元に紫電を帯びた銃弾が吸い込まれた。
それは強烈な雷撃となり、やつの顔を一瞬で消し炭へと変えた。
宙を舞う漆黒の粒子。それをつまらなそうに見つめる。ようやく、ベルゼガの血塊が戻るべき場所へと進み始めた。
それは苦悶の表情を浮かべるベルゼガへと辿り着く。後を追っていた私は、そっと両手で血塊を掬い、彼のもとまで持ち上げた。
すると、それは震えながらもベルゼガに近づき、口元から中へと入っていった。次の瞬間、わずかに彼の顔に血色が戻る。
「サ、サタン――いや、フォルテ。ルチーフェは、パンデモニウムの屋根裏にいるはずだ」
彼は柱に縫い付けられながらも、必死に口を動かし、アークの無事を伝えた。
「わかったわ。今から貴方も助ける。この柱を破壊する」
「ダメだ! もう僕は助からない。どうかこのまま、ルチーフェ――アークのもとへ向かってくれ」
ベルゼガが目に涙を滲ませ、声を振り絞る。その覚悟が私の胸を抉る。一度は敵対したが、彼もアークの考えに賛同し、悪魔を救おうとした同志だ。
見捨てることはできない。どうすれば助けられるか、思考を巡らせる。そのとき、ベルゼガが白目を剥き、動かなくなった。
慌てて声をかけようとした瞬間、柱にひびが入り始め、ぱらぱらと天井が崩れ出した。
「ようやく、依り代が完成した。今こそ、我は顕現せり」
部屋中に響き渡る静かな声。それは巨大な柱から発せられていた。私はベルゼガから離れ、大きく後ろへと下がる。
視界に映る光景に、私は息を呑んだ。
崩れゆく柱の中から、ひとりの男が抜け出した。ただ、その顔は柱のように四角く、規則正しい線が上下左右に走っていた。
ここまで、読んでくださり感謝です(//Д//)
ブクマや★で応援いただけると励みになります!




