382 三つの契約と運命を変える竜
五大邪竜ヘルドラゴンであるタルロス視線です。
ちょっと長いですが、読んで頂けると嬉しいです(*>ω<*)
学園の防衛をスカイたちに任せ、私は魔剣ティルフィングとの三つの契約を果たすために、学園都市にいる悪魔たちを中央広場へと集め始めていた。
多くの悪魔は、か弱き人間に受肉するため、そこら中を徘徊している。私は魔法も邪竜の力も使うことなく、町中を走り回り、悪魔を見つけては広場へと連れて行く。
広場中央にある巨大な噴水――その上空で弟のアドが待機し、特殊な結界を展開していた。私は捕獲した悪魔たちを、その中に放り投げていく。
すると、薄い光の幕を通り過ぎた瞬間、受肉していた悪魔は人間から分離され、次々と結界の中に閉じ込められていく。
そして、悪魔から解放された人間は待機していた神殿騎士たちに保護され、教会へと運ばれていった。
――己の肉体のみで、学園都市の悪魔をすべて特定の場所に集める。
これが一つ目の、ティルフィングとの契約だ。
人化した私は、心臓が破裂しそうになるほど激しく脈打つ鼓動に耐え、必死に学園都市を走り回り、悪魔を見つけては捕らえ続ける。
やがて、すべての悪魔を広場へと集め終えると、ティルフィングが一つ目の条件を満たしたしたことを告げる。。その声は、無機質で無感情だった。
次は、二つ目。
それは、三百を超える悪魔たちが蠢くこの広場で、一切攻撃することなく四時間耐えることだ。
もちろん一つ目の制約――魔法も邪竜の力も封印した状態で、だ。
あまりにも無茶で無謀な内容だが、それだけ私の願いが強く大きいということなのだろう。
直径四十メートルを超える学園都市の中央広場に、私を囲むように悪魔たちが蠢いている。下位から上位まで、その強さや姿も様々だ。
思わず苦笑いを浮かべ、上空で心配そうに見つめている弟に向かって大声で叫ぶ。
「アド、絶対に手を出すな。治癒もダメだ。じっと見ていろ!」
その言葉をきっかけに、下位の悪魔が襲いかかってきた。やはり力も弱く、頭も悪い。上位の悪魔たちは少し離れたところから、こちらの様子を窺っている。
狡猾な悪魔たちを尻目に、私は襲いかかる悪魔へ背を向け、走り始めた。その場に留まって回避するには、敵の数が多すぎる。
広場を縦横無尽に走る私を、大勢の悪魔が追ってくる。時折、上位の悪魔が魔法を放ち、行く手を妨害するが、足を止めることはない。
――アドの結界は魔素も遮断している。
ただでさえ、人界は魔界よりも魔素が少ない。そんな密閉された空間で動き続ければ、悪魔たちの魔素はすぐに尽きるはずだ。
現に下位の悪魔たちの動きは鈍くなり始めている。魔法を放っていた上位の悪魔も、今は魔素を温存するため、何もせずにじっと私を見ているだけだった。
思いのほか早く、下位の悪魔たちが無力化していく。ほとんどの魔素を消費し、その存在を維持するだけで精一杯だ。
私はほくそ笑み、広場の中央に立ち、両腕を組んで胸を張る。全力で走り抜いたせいで、心臓は張り裂けそうだ。だが、それを必死に隠し、残りの悪魔たちを挑発する。
「おい、どうした。ここに最強の肉体があるぞ。私は魔法も邪竜の力も使わぬ。早い者勝ちだ。さあ、私の身体を奪ってみろ」
そう言って腕を解き、自らの胸元に手を当てた。その瞬間、一部の悪魔たちが襲いかかってくる。だが、残る悪魔たちは動く気配がない。
私は敵の姿から能力を見極める。どれも身体が大きく、鋭い爪や牙が生えていた。どうやら魔法よりも肉弾戦を得意とする悪魔のようだ。
走り続けたせいで足が重い。私は歯を食いしばり、両腕を前に突き出して亀のように丸まる。
次の瞬間、打撃と斬撃の豪雨が全身を打ちつけた。拳、足刀、爪、牙――私を攻撃するときだけ、魔素を使って実体化させている。
どの悪魔も下位の悪魔と違い、魔素の使い方も、その量もまるで違う。おそらくは中位以上の悪魔だ。私はその猛攻に耐え続けた。
一時間は過ぎただろうか。全身は傷だらけで、血まみれとなっていた。息をするだけで激痛が走り、膝が折れそうになる。
そのとき、ティルフィングが囁く。アドニスに治癒してもらい、すべての力を解放しろ、と。
私は咆哮を上げ、ティルフィングの誘惑を拒む。ただひたすらに攻撃を受け、悪魔たちの魔素が切れるのを待ち続ける。
気づくと、私を攻撃していた悪魔たちはその姿が朧げになり、突き出す拳や爪は、私の肉体を通り抜けていた。
ようやく、半数以上の悪魔たちを無力化した。その存在を維持するだけで精一杯となった悪魔たちを見やり、安堵の息を漏らす。
刹那、戦況を見守っていた悪魔たちが一斉に魔法を放った。周囲に佇む悪魔たちを巻き込む攻撃だ。
やはり上位の悪魔は狡猾だった。だが、それゆえに考えも読みやすい。私はにやりと笑い、広場中央にある噴水へと飛び込んだ。
突如、爆音が轟き、水中にいる私にも振動が伝わってくる。次第に揺れは収まり、私は激痛に耐えながら、噴水の中から起き上がる。
そして、目の前に広がる光景に笑みを零す。上位の悪魔が放った魔法の巻き添えで、魔素が尽きかけていた悪魔たちは傷つき、やがて消滅していった。
周囲を見渡すと、上位の悪魔たちは次の魔法を展開しようとしていた。すぐに私は濡れた前髪を払い、視線を上に向ける。
そこには、手に持った時計を突き出すアドの姿があった。弟は小さく頷き、無言で四時間が経過したことを告げてみせる。これで、魔剣ティルフィングが課した三つの条件はすべて満たした。
一つ目は、己の肉体のみで、すべての悪魔をここに集めること。
二つ目は、攻撃することなく、四時間耐え続けること。
そして、三つ目――。
それはこちらから攻撃することなく、捕らえた悪魔を半数以上討伐することだった。
アドが示した時計から、すでに四時間以上過ぎたことは確認でき、悪魔も半数以上が消滅した。頭の中でティルフィングが、すべての条件を満たしたことを告げる。
私は苦痛で顔を歪ませながらも、噴水の中央へ歩く。
そして、勢いよく湧き上がる水柱の中に手を突っ込み、予め隠していたティルフィングを引き抜くと、大声で叫んだ。
「お前の願いはすべて叶えた! さあ、魔界と人界を繋ぐ楔に、破滅をもたらす呪いを発動しろ!」
その瞬間、ティルフィングが深紅の閃光を放った。それは上空へと突き進み、四方に弾け、淀んだ空気と魔法を唱える悪魔たちを切り裂いていく。
あとは魔界と人界を繋ぐ楔が完全に断たれるのを待つだけだ。ただし、願いが成就するまでは、三つの契約も継続している。
それでも破壊の呪いは発動した。ようやくフォルテ様との約束を果たせる。そう思ったとき、ティルフィングの呪いから逃れた悪魔が地面に手をつき、魔法を発動した。
それは自らの命を犠牲にし、悪魔を召喚する魔法だった。魔法陣から討伐したはずの悪魔が次々と呼び戻される。
気づくと結界内に残る悪魔の数は、再び最初の半数を超えていた。
『三つ目の契約、不履行』
ティルフィングの無機質な声が頭に響いた。
だが、すでに破壊の呪いは発動している。魔界と人界を繋ぐ楔へ向かった力は止まらない。その代わり、契約を破った代償が私へと返ってきた。
刹那、全身の傷口から血が勢いよく吹き出す。ティルフィングは私に、討伐した悪魔たちが受けた傷を与えた。
今までとは比べ物にならないほどの激痛が全身を駆け巡る。このままでは死んでしまう。そう覚悟したとき、ぎゅっと後ろから抱きしめられる。
傷だらけの体だったが、痛みはなかった。ただ優しさと温もりだけが、じんわりと伝わってくる。
「お姉ちゃん、その罰は僕が引き受けるから!」
振り向くと、アドが十二枚の竜翼を広げ、微笑んでいた。その姿にアークの姿が重なる。思わず目を見開いたとき、弟の全身の皮膚が裂け、血が噴き出した。
それでも笑みを崩さないアド。私はティルフィングを手放し、弟を抱きしめた。直後、猛烈な紅蓮の光が辺り一面を覆い尽くす。
ゆっくりと目を開くと、周囲に悪魔の姿はなく、魔界特有の淀んだ空気も消えていた。
以前の学園都市へと戻ったことに安堵の息を吐くが、すぐにアドへ視線を向ける。
「大丈夫か、アド」
「うん、なんとかね。タルロお姉ちゃん」
力なく笑う弟。抱きしめる腕にぎゅっと力を込める。
「ばか、無茶をするな」
「それは、お姉ちゃんも一緒だよ」
私たちは見つめ合い、笑い出した。ふと、フォルテ様の言葉がよぎる。
『二人には、ここのすべてを守ってほしいの。アドニスは治癒と運命を変える力で。タルロスは破壊と魔剣ティルフィングを使って』
やはり私の主はすごかった。きっとこの展開が分かっていたのだ。私は誇らしい気持ちで胸がいっぱいになる。
じっと私を見つめるアドの頭をそっと撫でると、ジークたちがいる学園へと飛び立つ。全身傷だらけの私たちは、互いを支え合いながら飛翔する。
魔界から解放された学園都市。私とアドニスは約束を果たした。ならば、きっとフォルテ様も約束を守ってくれる。
――そう願い、私は我が主の無事を祈った。
ここまで、読んでくださり感謝です(//Д//)
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