381 ロキの子どもたち
しばらくは学園サイドです。
ジーク視点となります<(_ _)>
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スカイ兄さんと紺碧の鎧を纏った青年が拳を突き出し、笑い合っている。
二人が戦った蛇の顔を持つ巨人は、仮面を付けていただけだった。その素顔はとても美しかったが、どこか邪な色が滲んでいて、嫌悪感を覚えた。
しかし、その巨人も半身は炎に焼かれ、残り半身も白い砂となって崩れ落ち、もうこの校庭に存在しない。
すでに学園の周辺にも、悪魔の気配は感じられない。僕は意を決して窓から飛び降り、校庭にいる兄さんとガリュウ殿下、それに青髪の青年のもとへと走り出した。
やがて兄さんたちの姿がはっきりと見えてくる。三人は笑顔を引き締め、何やら真剣な表情で話し合っていた。
「どう思う、スカイ。なぜ異世界の神たちが急に侵攻を始めたんだ。シヴァの記憶を探ったが、遥か太古から、やつらはずっと魔界の最奥で実体を持つことなく潜んでいたはずだ」
ガリュウ殿下は紺碧の身体から元の姿に戻り、顎に手を当てて呟く。その表情は、どこか不安げに見えた。
「そうだね。最上位の悪魔ですら、実体を持つ者はごく一部だ。僕も竜神リヴァイアサンとひとつになることで、肉体を得たんだ。異世界から迷い込んできたやつらが、そう簡単に実体を得るなんて考えられない」
そう言って、青髪の青年は肩をすくめる。その瞳は獣人のように瞳孔が縦に細く、深海のように青かった。
「……おそらくだが、デミウルゴスとメフィスト、それにリリスが関係していると思う。やつらはアークが留守のときに、フォルテたちを襲った。最初はベルゼガの嫌がらせと思ったが、もしかしたら、彼女たちをやつらの依り代にしようと狙っていたのかもしれん」
兄さんはガリュウ殿下と青髪の青年に告げる。その内容は僕には理解できるものではなかった。
だが、どうやらこの世界で、とんでもないことが起きている。それだけは分かった。
三人の様子を窺いつつ、声をかけようとした――その瞬間、背後に気配を感じて、慌てて振り返る。
そこには漆黒の喪服を全身に纏った女性と、巨大な黒狼、そしてエメラルドに輝く大蛇が佇んでいた。
「あ、あの……助けてくれて、ありがとうございます。わ、わたしはヘルです」
お礼を述べた喪服の女性は、兄さんたちに深々と頭を下げた。すると、隣に並ぶ黒狼と大蛇も同じく頭を垂れた。
ついさっきまで兄さんたちと戦っていた悪魔たちに、小さな悲鳴を上げる。そんな僕を見て、兄さんは笑みを零し、すっと守るように前へ出た。
「気にしなくていい。お前たちも被害者だ。それよりも、あんな外道でもお前たちの父親だ。倒した俺たちを恨んでいないのか?」
「い、いいえ。あれは私たちを物のように扱っただけです。それに一度も名前を呼ぶこともありませんでした。私たちに名前を付けてくれたのは母です」
その言葉に唇を噛みしめる。たとえ悪魔でも、道具のように扱われていいはずがない。少なくとも彼女たちには心があった。お互いを庇い合い、慮っていた。
三体の悪魔から目を離さずにいると、ガリュウ殿下が口を開いた。
「……そうか。もしよかったら、お前の兄弟の名前を教えてくれ。あと、できれば母親の名前も、な」
「は、はい。こっちの黒い狼が弟のフェンリルで、緑色の大蛇が兄のヨルムンガンドです。母は私たちを生んで、名を与えるとすぐに……」
そこでヘルは言葉を詰まらせ、俯いてしまった。そんな彼女にフェンリルが優しく鼻先を擦り付け、ヨルムンガンドが心配そうに見つめる。
そんな兄妹たちを見ていると、青髪の青年が声をかけた。
「母親のことは残念だけど、せっかくロキから解放されたんだ。これから三人で、しっかりと生きるんだね。なんなら、僕の部下にしてあげてもいいけど」
その瞬間、ヘルたちは目を見開く。天使化した兄さんに匹敵する力を持つ青年だが、悪魔である彼女たちを部下にするとは、何者なのだろうか。
思わず、じっと見つめる。
「まあ、それがいいかもな。七大悪魔のひとり――リヴィアエルの部下なら、うかうかと手を出すやつもいないだろう」
兄さんのひと言に、背筋が凍る。まさか、目の前に立つ青年が、伝説の大悪魔だとは――。
ごくりと喉を鳴らし、後ろへ下がろうとするが、一歩も動けず、青年から視線を逸らすこともできなかった。
彼は眉目秀麗な容姿をしていた。どう見ても凶悪な悪魔には見えない。
そんな僕に、リヴィアエルが興味深げに顔を近づける。
「ふーん、君がスカイの弟か。あまり似てないね。すごく頭が良さそうだ」
「ふん、ぬかせ。それより、これからどうする? 周辺の悪魔は粗方討伐したが、まだ魔界と繋がったままだ。というより、少しずつ広がっているようだな」
顎に手を当て、まじまじとこちらを見つめるリヴィアエルを、兄さんが半目で睨んだ。
たしかに悪魔を討伐しても、魔界と繋がっている以上、安心はできない。いつ新たな悪魔が襲ってくるか分からない。
だが、魔界と人界を切り離す方法なんて知らない。このままじっとしているわけにはいかないが、何をすべきなのか見当がつかない。
全員が口を閉じ、沈黙が落ちる。そのとき、学園都市を覆う薄い紫の霧が一瞬で消え去った。
淀んでいた空気は澄み渡り、邪悪な気配が遠のく。何が起きたか分からず、兄さんに視線を向けるが、小さく首を横に振るだけだった。
誰も状況を理解できず、呆然とする中、ガリュウ殿下が大きく目を見開き、上空を指差した。
そこには全身血まみれのタルロスとアドニスが、お互いを支え合いながら、こちらへと向かっていた。
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