373 二つの魂、ひとつの神(学園都市サイド)
いつも読んで頂きありがとうございます!
今回から学園サイドです。ジーク視点からガリュウ視点です<(_ _)>
フォルテさんたちが魔界に向かってから、随分と時間が過ぎた。僕は生徒会のメンバーに指示し、校舎にいる生徒と保護者を集め、各教室に割り当てた。
入学式に出席した生徒とその親は同じ教室にして、少しでも不安が和らぐように努めた。とはいえ、いつまでもこの状態を続けるわけにはいかない。
なるべく早く、魔界と人界の繋がりを断たなければならない。少なくとも、この学園都市にいる悪魔は排除する必要がある。
でなければ、恐怖に耐えられなくなった生徒や保護者が、どんな行動に出るか分からない。僕は眼鏡を外し、眉間の皺を揉みほぐした。
「おい、あまり背負い込むなよ、ジーク」
振り向くと、兄さんが心配そうにこちらを見ていた。ただ、その姿は僕が知る兄のものではなかった。
紅の豪奢な鎧を纏い、右手には紺碧の戦鎚を持っている。そして、その背中には深紅の十翼をはためかせ、その後ろには日輪が浮かんでいた。
(……まさか、兄さんも天使だったとは思わなかったな。だけど、今はそれが心強い)
僕は口元を綻ばせる。その隣ではガリュウ殿下が額に浮かんだ汗を拭い、窓辺から校庭を眺めていた。
「かなりの悪魔を倒したな。学園都市に散らばったやつらは、タルロスとアドニスが討伐している。案外早く、校舎から出られるかもしれないな」
その言葉に、僕は眉をひそめる。たしかに兄さんたちのおかげで、悪魔は撃退できている。とはいえ、少し順調過ぎるような気がする。
(ただ、兄さんやガリュウ殿下が強いだけなのかもしれないけどね)
少し心配し過ぎる自分に苦笑いを浮かべた。そのとき、校庭に黒い雷が落ち、巨大な奈落が穿たれた。
僕たちが固唾を呑んで見つめていると、二体の悪魔が姿を現した。
「どうやら、ここからが本番のようだね。僕はここにいる皆を、校庭に面した教室から離れた場所へ誘導する。悪いけど、二人はあの悪魔たちを何とかしてほしい」
努めて明るく告げると、二人は不敵に笑いながら頷いた。
「ああ、分かった。すぐに向かわせてもらう。あと、さっきも言ったが、無理はするなよ、ジーク」
そう言って、兄さんが窓を開け放ち、颯爽と校庭へ飛び降りた。呆気にとられている僕の肩をぽんと叩き、ガリュウ殿下も後に続く。
やがて兄さんたちは、二体の悪魔の前に立った。
一体は紳士然とした装いで、モノクルを掛けた巨漢。そして、もう一体は、金色の髪を無造作に伸ばし、ピエロのような化粧を施した蛇の顔を持つ異形だった。
どちらが強いかなんて分からない。だが、どちらも今まで見たどんな悪魔や魔物よりも、おぞましかった。
ごくりと喉を鳴らす。その瞬間、兄さんとガリュウ殿下が同時に駆け出した。
◆
俺は目の前に立つ巨漢の悪魔を見上げる。王族や貴族が着るような立派な服装に身を包んでいるが、異様に盛り上がった筋肉のせいで、今にもはち切れそうだった。
知的に見えるはずのモノクルも似合わない。あまりにも滑稽な姿に油断しそうになるが、俺の胸の奥に宿る二つの魂が激しく訴える。
あれは最悪の悪魔だと――。
俺は首を振り、気合を入れ直す。すると、目の前の悪魔が優雅に胸へ手を当て、頭を下げた。
「初めまして、七星の竜人を討った強者よ。貴方のおかげで、貴重なデータを取ることができました。感謝を」
つい眉が上がった。十王の遺跡で、俺と初代武導王リューハは戦った。やつはそのことを知っていた。
肉体の老いを止めるため、リューハの体に埋め込まれた七つの宝珠。それを作った悪魔の名は――。
「私はデミウルゴスと申します。リューハを破った貴方と、ぜひ戦いたいと思いまして、ここまで参りました」
「そうか、貴様がデミウルゴスか。俺もお前に会いたかったよ。人の命を弄ぶ外道の顔が見られて、すっきりしたぜ。もう話すことはない。あとは、お前を殴り飛ばすだけだ」
拳を構え、睨みつける。そんな俺を見て、デミウルゴスはため息をつき、両手を上げて首を横に振った。
「そのような乱暴なことを。貴方の両親はどんな育て方をしたのか……」
その言葉に、胸の奥が激しく疼いた。怒りに任せて飛びかかろうとした、そのときだった。
バロンとランダの声が、内側から静かに、そして力強く届く。
(今こそ、力を束ねるとき、か……)
目を閉じ、父と母の姿を思い浮かべる。二人は笑顔で静かに頷き、優しく告げた。
『別れじゃない、ひとつになるだけ』
父と母――二人の言葉が胸の奥まで染みわたり、俺に力を与える。気づくと、天を突くほどの雄叫びを上げていた。
その瞬間、稲妻が迸り、俺の体を貫いた。だが、不思議と痛みはない。それどころか、信じられないほどの力が湧き上がってくる。
視線を落とす。肌は紺碧に染まり、腕や足には金色の防具を纏っていた。そして、全身から火花が散っている。
神聖獣化ではない。そもそも、今の俺は獣の姿になっていなかった。ただ、体中から漲る力は、今まで以上に力強く、そして猛々しい。
強い破壊衝動に駆られるのを必死に抑え、デミウルゴスを睨む。そのとき、スカイの声が聞こえた。
「まさか、本当にいたのか。古代神族の王――破壊と再生の神シヴァ」
初めて耳にする言葉だった。だが、不思議と懐かしく感じる。俺は考えることをやめた。今はただ、この力をデミウルゴスにぶつけるだけだ。
再びやつを睨むと、デミウルゴスは人差し指と親指でモノクルをつまみ、じっとこちらを見つめ、醜く顔を歪めた。
「これは、これは面白い。私たち悪魔が生まれる遥か昔に、魔界に君臨した古代の神に出会えるとは。あの方たちとは違う特別な神。ぜひ、私の実験体になってもらいましょう!」
デミウルゴスは両手を広げ、大声で叫んだ。刹那、やつの体は膨張し、服が引き裂かれる。
目の前に立つ異形に息を呑む。異常に発達した筋肉。その内側から、無数の鉄塊が飛び出していた。
その形は様々だ。円筒や扇、歯車に刃……。そのすべてがデミウルゴスの肉体を突き破り、無機質に蠢く。
その姿に気圧され、一歩、足が下がりかける。だが、ミザリーの顔がよぎり、踏みとどまった。
(ようやく真の力を解放したんだ。あいつに笑われる真似はできん)
無理矢理に口角を上げると、咆哮を上げ、デミウルゴス目がけて駆け出した。
いつも、読んでくださり感謝です(//Д//)
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