372 偽神を焼く太陽
ミザリー視点です。
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私は床に手を触れ、魔法陣を発動すると、その場から転移してパズスの背後に回り込む。
一拍の間のあと、やつは動き出した。だが、すぐに壁へ手を当て、別の場所へと転移する。
さっき攻撃を回避しながら、まき散らした羽。それを媒介に、部屋の至る所に魔法陣を設置していた。無数の魔法陣を渡り歩き、確信する。
やはり、こいつは確実に私を捉えて攻撃している。その視界は異常に広く、部屋中を見渡しているようだ。どこに転移しようが、すぐに見つかる。
私はアーたんが教えてくれた浮観という技を思い出す。
それは視点を定めることなく、全体を観ることで、小さな動きや仕草の変化を捉え、相手の動きを予測するものだ。
だが、こいつは明らかに私を見ている。私が転移したあと、わずかに遅れて動き出していた。予測ではなく、確実に私を捉えてから動いている。
ならば、攻略は容易い。私は靴を脱いで裸足になると、体中に神気を巡らせ、すべての力を解放した。
手ではなく、足の裏で魔法陣を発動し、転移を始める。一歩踏み出すたびに私は残像を残し、別の魔法陣へと移動する。
昔、アーたんが見せた分身の術を彷彿とさせる動き。彼と少しだけ繋がったような気がして口角を上げると、初めてパズスが首を動かし、私を探し始めた。
だが、不規則に現れては消える私を捉えることはできない。私は転移を繰り返しながらも翼を広げ、さらに羽を落とし、魔法陣を増やしていく。
やがて、パズスを囲むように新たな魔法陣が完成した。やつもそれを察したのだろう。無数に生えた腕をさらに増やし、部屋中へ向けて無差別に攻撃を仕掛けた。
だが、遅かった。私はすぐにパズスの近くにある魔法陣へ転移すると、やつの間合いへと踏み込んだ。次の瞬間、怒濤の銃撃と刺突が襲いかかる。
迫りくる猛攻。すぐに両手を前へ突き出し、掌を広げた。ソーラーコアが激しく脈打ち、ノヴァナックルの奥底で眠っていた力が目を覚ます。
そして、神気を込めた瞬間、目の前に金色の盾が現れた。
それは神盾アイギス。ノヴァナックルを創るための媒介となった神器だ。だが、失われたわけではない。私が『真の一体化』を果たすまで、眠っていただけだ。
最強の盾と拳。それが、私の目指した神器だった。ようやく完成した。口角を吊り上げる。
たとえ本物の神銃アクケルテや神槍レーヴァテインでも、この神盾なら防ぐことができる。まして、偽物に破壊できるはずがない。
私は両手を突き出し、一気にパズスへと突き進む。そのとき、背中や脚に痛みが走った。やつは前方以外からも攻撃を仕掛けていた。
パズスは頭上や左右に細長い腕を精一杯伸ばし、盾の向こう――私の背後を狙う。
たしかに、盾で守れる場所は限られている。だが、致命傷にならなければ、それでいい。顔も心臓も、内臓も、神盾アイギスが確実に守っている。
歯を食いしばり、大きく踏み込む。目の前に、無数の腕を生やしたパズスの懐が見えた。刹那、突き出した左手はそのまま、右手を腰まで引く。
左手だけで展開するアイギス。わずかに盾は小さくなり、やつの攻撃が届く。頬を掠める偽物のレーヴァテイン。だが、動じることなく、右手を突き出した。
握り締めたソーラーコアから灼熱の炎が迸り、パズスの腕ごと胴体へとめり込む。やがて周囲の腕を焼き尽くすと、わずかに攻撃の勢いが緩んだ。
その隙を見逃さず、両手を腰に引き、連撃を繰り出す。獣のような雄叫びを上げ、ひたすらに殴り続ける。
パズスも銃を構え、槍を突き出そうとするが、私の猛攻を前に体勢を崩され、思うように攻撃ができない。
このまま押し切る。そう思った瞬間、やつの額の鏡に映る私の背中を捉えた。嫌な予感がよぎる。一気に勝負を決めようと、さらに力を込める。
その瞬間、私の拳は金色の盾に防がれた。どうやらパズスは、私の神器も模倣できるようになったらしい。
拳を弾かれ、距離を取ると、魔弾と神槍が飛んできた。私は素早く転移して背後に回るが、再びやつは無差別に攻撃を始める。
別の場所へ転移しようとして、思い留まる。その先にも、すでに魔弾や神槍が迫っていた。私は両手を前に出し、アイギスを展開して身を守る。
あと一歩のところで、パズスに偽物を造られてしまった。だが、なぜ今まで造らなかったのか。少なくとも、ノヴァナックルはずっと装着していた。
私は猛攻に耐えながら、アイギスの偽物が現れたときのことを思い出す。やつの額に映っていたのは、たしかに私の背中だった――。
私は口角を上げ、パズスに向かって突進する。玉砕覚悟の特攻と思われたかもしれない。
だが、それならそれでいい。私を真っすぐ捉える六つの白眼を睨み、その額に埋め込まれた鏡を見る。そこには、パズスの背中が映っていた。
私は両足に力を込め、やつに体当たりすると、そのまま壁まで押し込む。パズスも必死に抵抗するが、勢いは止まらない。
ちらりと額の鏡を見ると、やつの背中――後ろ姿が次第に大きく映し出されていた。確信する。やはり、あの人形もこいつの一部だった。
視線をずらし、壁に力なく寄りかかる首のない紳士を見やる。
そして、やつを壁まで押し込むと、乾いた亀裂音が耳に届いた。顔を上げる。パズスの額の鏡にひびが入っていた。
「ふふふ、やはりそうだったにゃ。うまく誤魔化したつもりだったようだが、お前の背後で押し潰されているその人形も、お前の一部――七つ目の眼だったとはにゃ!」
私たちが部屋に入ったとき、天井の玉座に座っていた男。それは、パズスの頭に付いていた人形に過ぎないと思っていた。
現にやつは、その人形を私たちの前で無慈悲に引きちぎり、壁に投げつけた。だが、それさえも私たちを騙すための演出だった。
おそらく、偽物を創るためには、鏡にしばらく映し続ける必要があるのだろう。だから、連撃を受けながら、背後に残した人形を通して私の姿を映し続けた。
理由も理屈も分からない。だが、額の鏡と人形は繋がっていた。人形を切り離しても、その眼だけは死んでいなかったのだ。
実際にアイギスを創造したとき、パズスの額の鏡には私の背中が映っていた。正面に私がいるというのに、だ。
そして、私の動きを捉えていたのも、あの人形だ。あの位置なら、部屋のすべてを見渡せる。
分かってしまえば、たいした能力ではない。私はパズスを壁に押し付けたまま説明を終えると、獰猛に笑う。
「ははは、さすがですね、ミザリーさん。その通りです。ですが、すでに貴女の神器も手に入れました。三つの神器を持つ私に、勝てるとでも――」
私は両足に力を込め、さらにやつを壁へ押し込み、背後の人形を粉々に砕いた。もはや言葉は不要だ。拳を構え、腰を落とす。
パズスも無数の腕にノヴァナックルを装着した。
刹那、私たちは殴り合う。二本の腕と無数の腕。その差は歴然としている。
やつは吸盤状の口を器用に歪め、吊り上げた。パズスの無限の連撃を浴びるが、私は構わず殴り続ける。
やがて、パズスの表情が苦痛と恐怖の色に染まる。手数は圧倒的にやつが上回っている。だが、一撃の重さは私の方が遥かに上だった。
百の拳を受けようが、たった一撃でそれを上回る。次第に肩が温まってきた。私はさらに強く拳を握り締め、より激しく叩き込む。
気づくと、パズスは攻撃を止め、すべての腕を盾に持ち替え、身を縮めて丸まっていた。その姿にため息が漏れる。やはり、神など名乗る器ではない。
私は両手の掌を開き、ソーラーコアを見つめる。無数の衝撃と摩擦で蓄積された熱量により、二つの宝玉は白く輝いていた。
両手を組み、二つの宝玉を合わせる。そして、恐怖で震え、身を縮めるパズスに向けた。
「神滅の光撃!」
その瞬間、視界は白く塗り替えられた。凄まじい熱量を宿した光線は、パズスを焼き尽くし、岩肌すら溶かしていく。
私が両手を離すと、目の前には果てしなく続く巨大な穴が穿たれていた。私は安堵の息を吐き出し、地面に座り込む。
想像以上の強敵だった。裂傷や打撲が全身を覆い、肋骨も何本か折れている。すぐにフォルテたちを追うのは難しそうだ。
ため息をつき、フォルテたちが向かった地下道に目を向ける。二人も心配だが、偽物を生み出すパズスを見て、デミウルゴスが脳裏をよぎった。
やつの姿は、魔界にはなかった。ならば――。
私は顔を上げる。そして、人界を任せたスカイたちを思い出し、一抹の不安を覚えた。
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