371 太陽の籠手と偽神の鏡(ミザリー視点)
これからミザリー視点です<(_ _)>
私は足早にこの場から離れるフォルテとサラを見やり、口角を上げた。これで遠慮することなく、こいつを殴れる。
目の前に立つ異形の神――パズスを睨み、すぐに目を細める。不穏な気配を察し、私は足元へ拳を振り下ろした。
刹那、白亜の大理石は粉々に砕け、瓦礫と粉塵が飛散して周囲を覆う。
「おいおい、こっちを見るにゃ、パズス。私をもてなすんじゃなかったかにゃ?」
たしかに六つの白眼は、こちらを見ていたが、額の鏡にはフォルテとサラの姿が映っていた。素直にやつの言葉を信じるわけにはいかない。
神を名乗っているが、所詮は偽物だ。約束を守るとは限らない。礼儀正しい振る舞いも、油断させるための演技かもしれない。
速攻で叩きのめし、フォルテたちの後を追う。
私は両手を掲げて叫ぶ。
「真の力を解放しろ、ノヴァナックル!」
その瞬間、頭上の空間が裂け、そこから眩い光が降り注ぐ。そして、それを受けて、私の両手に装着した太陽の小手が、激しく煌めき始める。
私は掌の中央に嵌め込まれた太陽を模した宝玉――ソーラーコアを握り締めた。その瞬間、両腕から金色と紅のオーラが迸り、灼熱の炎となって燃え上がった。
「いやはや、気が早い。まだ、おもてなしの準備もできていないのに。それにさっきのは、目隠しのつもりですか? なら無意味でしたね。すでに――」
パズスがしたり顔で何かを語りかけるが、無視する。こいつが何を言おうが、やることは決まっている。
私は拳を腰まで引き付け、やつの懐に飛び込むと、渾身の力で殴り飛ばした。パズスの蛇のような体は、くの字に折れ曲がり、吹き飛ばされる。
床を飛び跳ね、転がるパズス。私は走り出し、一気に追い抜くと、その背後に回り込み、腰を回しながら右足を振り抜いた。
足から伝わる確かな感触に口角を吊り上げる。パズスは再び床を転がり、口から体液をまき散らした。
その姿に眉をひそめると、突然、炸裂音が響いた。気づくと頬に一筋の傷ができ、つーっと血が滴り落ちる。
頬の血を拭い、床に突っ伏すパズスに視線を向ける。やつの右手には神銃アクケルテ――その偽物が握られていた。
その銃口から、わずかに煙が上がっている。
だが、私は驚かなかった。今までの敵の中にも、相手の姿や技、それに武器を模倣するやつはいた。たしかに神器と同等の力を再現できるのは脅威だが、それだけだ。
あまりにも芸がない。私は肩をすくめ、いまだ床に横たわるパズスへと近づいていく。そのとき、やつはむくりと起き上がった。
「まさか、まだこちらが話している最中に、殴りかかってくるとは思いませんでしたよ。それでもあなたは天使ですか。私の世界にいた天使とは違うようですね」
何を言っているのか分からない。この世界は神界、人界、魔界だけだ。そして、天使は神界にしかおらず、別の世界には存在しない。
「何を言っているのか分からにゃいが、不意打ちをしようとしたのは、お前が先にゃ。それに、すでに何か仕掛けていたことは分かっているにゃ」
そう告げながら、パズスの右手に握られた神銃を指差す。フォルテのアクケルテを模倣した。それが何よりの証拠だ。
私が鋭く睨むと、やつは蛇のような体をわずかにくねらせた。その姿に嫌悪感が増す。
「そうですね。たしかに仕掛けさせてもらいました。ですが、不意打ちとは聞き捨てなりませんね。私が狙ったのは貴女ではなく、残りの二人です。騙し討ちというほうが正しいでしょう」
あまりにもくだらない屁理屈に、思わず鼻で笑う。こんな細かいことを言うやつが神を名乗るとは、片腹痛い。
私はノヴァナックルを構え、走り出そうとした。そのとき、パズスの体から無数の腕が生えた。
そのすべての手に、神銃アクケルテと神槍レーヴァテイン――その偽物が握られていた。
やつはそれらを一斉にこちらへ向け、攻撃を仕掛ける。無数の銃口から魔弾が飛び出し、大量の神槍が雨のように降り注いだ。
私は咄嗟に翼を広げて広大な広間を縦横無尽に飛び回り、その攻撃を回避する。宙で弧を描き、壁を蹴って方向転換し、天井を駆け抜ける。
そして、そのたびに翼をはためかせ、金色の羽を舞い散らせた。
だが、百足の脚をも超えるほどの蠢く腕は、魔弾を切らすことなく、神槍も次々と生み出し、無限に襲い続ける。
その力は魔法でも、神の奇跡でもない。私が知らない力だ。唯一、やつが神らしいと思えるのは、そこだけだ。
延々と避け続けるが、その攻撃が衰えることはない。私はため息をつき、パズスの動きを観察する。
やつは私がどこにいようが、正確無比に攻撃を仕掛け続ける。背後に回ろうが、頭上に逃げようが関係なかった。
しかし、やつの六つの白眼は前だけを向き、私を追うようなことはなかった。あの目も偽物で、実は体中に目を隠しているのかもしれない。
瞳孔を開き、パズスを見つめる。蛇のような体から生えた細長い腕は隙間なく蠢き、目らしきものは見つけられない。
腕そのものに付いているのかとも思ったが、あれほど激しく動き続ける腕で、私を正確に捉え続けるとは考えにくい。
魔弾と神槍が飛び交う中、私は部屋の中を飛翔しながらパズスを観察し続けるが、何も分からなかった。
ならば、もう考えることはやめる。どうせどこにいても狙われ、攻撃が止む気配はない。それに、回避し続けることにも飽きたし、その攻撃にも慣れた。
そして何より、仕掛けも完了した。
私は床に降り立ち、パズスを見つめる。やつはすべての銃口と矛先をこちらに向けると、一拍の間を置き、一斉に放った。
目の前に迫る無数の魔弾と神槍を前に、ほくそ笑む。想像を絶する数だが、一点を狙えば意味がない。
私はぎりぎりまで引き付けて、大きく横に飛んだ。その瞬間、轟音を上げて迫る魔弾と神槍は、あっけなく私の横を通り過ぎていった。
それをちらりと見て、私は床に手を付けると、その場から姿を消した。
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